第1回 幸せな鶏たちから産まれる卵
今月号から東京で生まれ育った農畜産物とその生産者にスポットをあて、まだまだ知られていない特産を紹介していきます。
取材協力/江戸東京・伝統野菜研究会代表 大竹道茂
大竹道茂の江戸東京野菜通信 http://edoyasai.sblo.jp/
世田谷区上祖師谷の住宅街におよそ6000坪の敷地を有する吉岡栄さんは、造園業を営むかたわら、野菜の栽培と鶏、ブランド豚の東京Xを飼育。なかでも鶏は敷地内1500坪もの植木場に放し飼いにされている。
「造園業と農業は雑草との闘い。なんとか除草剤を使わない方法を、と考えたのが鶏でした。鶏は植木の下に生える雑草を食べてくれるので、ちょうどいいんです」と吉岡さん。鶏はアメリカで改良された品種のボリスブラウン、殻が薄い黄緑色をした卵を産むチリ原産のアローカナ、東京うこっけいの3種で合計約500羽。鶏はテリトリーが狭いので、お互いがけんかをすることはない。放し飼いでも卵は鶏舎のそれぞれの巣箱の中で産む。この産みたての有精卵(1日約70~80個)を野菜と一緒に庭先販売。
「無理に『産ませた』のではなく、鶏たちが『産んだ』自然な卵。美味しいですよ」
吉岡さんは土にもこだわっている。まず植木の枝打ちで出た大量の枝葉を細かいチップにし、米ぬかを混ぜて2~3か月間発酵させ腐葉土を作る。それを豚舎に敷くことで有機堆肥ができ、さらにそれを鶏舎に敷き、豚と鶏の糞から完全な有機堆肥ができあがる。
「これを植木や野菜畑に撒くと育ち方が全然違います。またチップが消臭剤がわりになるので、豚や鶏の匂いがほとんどしません」
確かに敷地内を歩くと土がふかふかしていて、豚舎や鶏舎からは特有の匂いがしない。吉岡さん所有の植木・豚・鶏がうまく循環しているのだ。
鶏舎にも入れてもらった。部外者が消毒もせず入っても良いのかという質問に「うちの鶏たちはストレスが一切ないから病気にかかったことはないんですよ」と吉岡さん。足元には鶏たちがのんびりと雑草を食んでいた。
広大な敷地を思うままに歩き、食べて、育つ幸せな鶏。その卵一つひとつには、鶏をまるで子どものように手厚く育てる吉岡さんの思いが込められている。
※東京Xについては、本連載で今後掲載する予定。
本記事でご紹介した「東京うこっけい」を使った料理「東京うこっけいの巣ごもり卵」のレシピはこちらをご覧ください。