らくがきスポーツカフェ(5)
割れる優勝カップ
引き分けの美学とは
スポーツ・プロデューサー、NPO法人スポーツ見物協会 堀田 壽一
蹴ったボールがバーを超え、PKは外れた。
映像はサッカー日本代表・駒野友一選手が呆然と立ち尽くし、空を見上げた顔のアップに切り替わった。これが今年一番のすごいスポーツ・シーンだろう。
日本がワールドカップ(W杯)で負けたPK戦の善し悪しが話題になった。順々に勝ち進み優勝を決めるトーナメントに、PK戦を導入したのが1970年。W杯で初めてPK戦が行われたのは1982年スペイン大会だから、長いサッカー史では新しいルールなのだ。
スポーツには「引き分けの美学」があるという。勝敗にこだわらない訳ではなく、全力を尽くしたフェアプレーの結果が同点ならば、双方の健闘を称え、「引き分け」を「正当な結末」とする考え方だ。ゆえに決勝の引き分けは両チームとも優勝。
面白いカップがある。1967年から開催された日本サッカーリーグ「東西対抗戦」の優勝カップは、引き分けの場合、二つに割って両チームに渡せるように製作された。両チーム優勝だったら、半分に割れたボール型という、なんとも粋なカップになるはずだった。
サッカーJリーグは引き分け制の90分間の真っ向勝負だ。勝3、負0、引き分け1点の総得点で優勝を競う。時に1点が悲喜の結果を生む。今年、J1残留争いで1点差の上位だったFC東京は、最後の試合に負けJ2に降格。東京からJ1チームは消滅した。
スポーツは時代とともにルールを変えた。PK、サドンデス、敗者復活などいろいろな方式を考案したが、エキサイティングでスペクタクルな変化でないと選手が嫌い、観客は足を運ばない。良いルール変更は、駒野選手が見せたドラマ、「新しいスポーツの美学」をもっともっと生み出すと思う。
●日本サッカー協会 http://www.jfa.or.jp/
●Jリーグ http://www.j-league.or.jp/
●日本サッカーミュージアム http://www.11plus.jp/
<筆者紹介>
堀田 壽一(ほった じゅいち)
愛知大学経済学部卒業。NHK入局。報道カメラマンを経て、NHKスペシャル「アフリカに架ける橋」「飢餓地帯を行く」「呉清源」など幅広いジャンルでカメラマンとして活躍。スポーツも各種目を取材、スポーツ報道センターチーフプロデュサーとしてサタデースポーツ、サンデースポーツ副編集長を務める。オリンピックはリレハンメル、アトランタ、シドニー、サッカーは1998年のフランス大会を現地取材。特にJリーグは1983年から取材を続けている。1997年、NHK退職後、関連会社でスポーツ番組制作に参加。2007年からフリーランス・スポーツプロデューサー。日本トップリーグ連携機構マネージメント強化プロジェクトアドバイザー、NPO法人スポーツ見物協会会員。