地域防災力向上を目指して【4】
南町田自主防災組織(町田市) 後編
ふだんからの近所付き合いが、地域の自主防災を支える
防災計画はマニュアルを作っておしまいではない。大切なのは、実際に訓練を行い、そこから見えてきたさまざまな問題点を検証、マニュアルに反映して、実際の活動や行動を見直すことだ。南町田自主防災組織が素晴らしいのは、このサイクルが確立しつつある点。実際の訓練の様子や訓練から見えてきた問題点等をご紹介する。
2㎞先の給水拠点へ水汲み
「自主防災マニュアル」を作りつつ、具体的な備蓄の検討に入ったときに、「水や食べ物の備蓄は行政がやるものではないのか」「なぜ自分たちが金を出し合って備蓄しなければならないのか」といった疑問や質問が多く出たという。市や避難所である小学校に調査を行ったところ、町内の住民に配られるのは1日分3食程度と判明。行政に備蓄の完備を要請するにしても、それには時間がかかる。生死にかかわる問題なので自己防衛しようということになり、さっそく飲食糧、日用品、医薬品、弱者用品、救助機器具などの品目の検討に入った。
一方で、飲料水はプールの水をろ過するか、2㎞先の公園にある給水拠点まで汲みに行くことになっていた。たった2駅とはいっても災害時にそこまでたどり着けるのか。
「リヤカーにバケツを積んで実際に行ってみました。片道45分。しかも、坂道とか段差がある。帰りは100㎏以上の水を積んでいるわけですから、かなり難儀するだろうと思いました」と、本部員の皆さん。
ちなみにこのときは、バケツに蓋をしていなかったので水は半分になってしまったとか。バケツに蓋かビニール袋持参。些細なことだが、こういったことも実際の訓練からしか分からないことなのだ。
「実はこの訓練、真夏にやったんですけど、水を汲みに行く途中でハアハアゼイゼイ。コンビニで水を買いながら行ったんですが、本当に災害が起こったら買えないんですよね(苦笑)」
明るく前向きな姿勢が、組織の運営を潤滑にしていると実感した。
被害状況は付箋に箇条書き
昨年の東日本大震災を機に始めたのが本部立ち上げ訓練だ。
「本部立ち上げ訓練をやろうやろうと言いながら、なかなかできなかった。そこに去年の震災です。本部に集まったはいいが、おたおたして混乱した。やはり訓練をすべきだということになり、奇しくも今年の3月11日に本部員だけで予備訓練を行いました」
昨年の震災時には、電話がつながらず、各ブロックからの情報が上がってこなかった。そこで、トランシーバーを各ブロックに1台配置することにした。
「実際にやってみると、トランシーバーの使い方にしても、受け答えの仕方にしても上手くいかない。伝えるべき情報があいまいになることが多く、受ける側が分かりにくいのです」
確かに、要点をきちんとまとめて、端的に伝えることは難しい。そこで、受け答えの標準話法を作ったという。
「情報は高等コミュニケーションです。その訓練をやらないとだめなんですね。それから、被害状況も地図や被害表に実際に書くのではなく、付箋に箇条書きにしてぺたぺた貼っていくことにしました。貼ってはがせるということは、何より被害と対応の移り変わりが一目瞭然になりますから」
今月8日には第1回目の本格的な本部立ち上げ訓練を実施。使用チャンネル2局の選定や本部局アンテナ設備の再検討など、新たな課題も多く見つかったという。
地域の防災は行政任せにしない
「地域の防災は、行政任せにしないことだ」と本部員の皆さんは口をそろえる。地域の細部の問題は、行政の担当者には調べきれない。また地震や洪水、土砂崩壊などの災害の状況は、地域によってまったく異なる。しかも、自治体の防災専任の担当は驚くほど少ないのが現状だ。
「町田市の場合、人口42万人に対して実質的な防災専任者は4、5人とのことです。彼らに町の隅々までの対策を求めるのは無理というもの。それより、行政にしかできない仕事をやってもらったほうがいい。例えば『地域にこういう防災組織を作りなさい』と指導するのが行政の役目だと思うのです」
行政にできない部分を埋めるのが町内会や自治会であり、地域の自主防災組織の役目なのだろう。
「地域には、豊富な知識とノウハウと人脈を持った方がたくさんいます。それぞれのもてる力を結集して事に当たれば、市の職員の仕事を充分に補完することができると思います」
南町田では、夏祭りやどんと焼き、いも煮会といった自治会の行事が活発に行われており、その一部は防災訓練を兼ねてもらっているという。いわゆる防災訓練以外にも、機をとらえては防災意識の向上を図っているのだ。
こうした自治会を通じたふだんからの近所付き合いが、地域の自主防災を支えているのは間違いない。
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