フランス料理には地域の名称や人物名などが、そのまま付けられるものがとても多いとか。一般的に知られているもの、あるいはまだまだ知られていないフランス料理についての由来・歴史などを、ARGO総料理長の山下シェフが紹介します。
第8回 『マドレーヌ』はメイドの娘の名前!?
今回は、誰もが一度は食べたことがあるフランス菓子、「マドレーヌ」の歴史についてお話します。
第1回からフランス料理やお菓子の歴史について話してきましたが、それらの多くには人名が使われています。今回のマドレーヌの名に関しても色々なエピソードがあります。一番有力と思われる説を紹介しましょう。
1755年、当時フランスのロレーヌ地方を治めていたのが、元ポーランド王、スタンスラス・レクチンスキー公でした。そのスタンスラス公がロレーヌ地方のコメルシーという町でパーティーを催していた時、デザートを担当していた菓子職人が、料理長と喧嘩をして帰ってしまいました。料理長がお菓子を作ればよかったのですが、とても忙しかったのでしょう、その料理長はメイドの娘、マドレーヌにお菓子を作らせます。この料理長の判断が、超有名菓子を誕生させるきっかけとなったのです。
マドレーヌは、あり合わせの材料と、厨房にあった帆立の貝殻を使って、祖母から教わったお菓子を作りました。その焼き菓子がお客様に大変好評だったことから、メイドの娘の名前をとって「マドレーヌ」と名付けられました。
スタンスラス公は、この評判のお菓子をルイ15世の元に嫁いでヴェルサイユ宮殿で暮らす愛娘マリー・レチンスカ王妃に送ります。するとマリー王妃もこのお菓子を大変気に入り、ヴェルサイユ宮殿内はもちろんのこと、パリ中に広まっていきました。
色々な型を使って焼かれている方もいますが、マドレーヌ誕生の話からすると、帆立の貝殻模様の型で作るのが、本来のやり方かもしれません。
<山下敦司プロフィール>
フレンチレストラン「アルゴ」(千代田区麹町)総料理長。
服部栄養専門学校卒業後、銀座「フランス料理清月堂」、大阪欧風菓子「ケンテル」を経て、1995年渡仏。
エクス・アン・プロヴァンス「ル・クロー・ドゥ・ラ・ヴィオレット」(ミシュラン二ツ星)、パリ「ル・ディヴェレック」(二ツ星)、アヌシー「オー ベルジュ・ド・レリダン」(三ツ星)、ロアンヌ「トロワグロ」(三ツ星)、パリ「ピエール・ガニェール」(三ツ星)と数々の名店で部門シェフを務め、クラシックから最先端のフレンチまで幅広く研鑽を積む。
2000年に帰国後は、ガニェール氏の推薦により「ル・コルドン・ブルー・パリ」にて6年半、料理講座教授。
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