らくがきスポーツカフェ(28)
最終決定は初判定
が球審の心得
スポーツ・プロデューサー、NPO法人スポーツ見物協会 堀田 壽一
プロ野球日本シリーズ第5戦、ファウルからデッドボールへと判定を変え、多田野投手を危険球退場としたのは明らかな誤審。線審は優柔不断だった。そして私は、30年以上前に住んでいた室蘭市での早朝野球大会のことを思い出した。
盗塁に気づいた時、ランナーは滑り込んでいた。見えたのはショートがタッチするグラブだった。「アウト~!」と私は声と右手をあげた。
「ふざけるな!」激怒したランナーは顔を真っ赤にして叫んだ。「草野球だ。盗塁はない」と、私はぼんやりと仕事のことを考えていたのだ。
球審に攻撃側の監督が猛烈に怒って抗議している。球審は線塁審4人をマウンドに集めて「大誤審だ。判定を変えなければ放棄試合にするぞと脅された」と言った。
日本シリーズでは、一番近いところで見ている球審が、遠くのベンチから見ていた監督の抗議を受け入れて判定を覆したが、テレビには超スローVTRが流れる。つまり視聴者はデッドボールでない事を知っていたのだ。多くの人は、危険球判定とした球審を腹立たしく思っただろう。
サッカーの場合、「プレーに関する事実についての主審の決定は最終である」と競技規則にある。野球も同じだろう、判定は覆らない。正誤ではない「最終決定」だ。
テレビは1秒のプレーをスローで10秒にも20秒にも見せることができる。しかも、球を追うカメラの台数は多く複眼だ。また、VTRは素早く放送され、時には球審より正確な情報が視聴者に送られる。
ルールに詳しく経験を積んだ球審が、最も近い場所で見ていても判定を変更するというような難しいプレーなら、VTR判定もアリだと思う。それなら、だまし演技も見破れる。
集まった私たちに、職場一野球を良く知る球審は「堀田がよそ見していて間違えた。でもアウトにする。試合放棄というのが絶対に許せない。アウトだ。放棄するなら受ける。いいな」と告げて本塁へ向かった。そして、球審は抗議監督に向かって毅然と手を上げ「アウト!」と告げた。試合は混乱なく続いた。
試合の勝ち負けなどは忘れたが、以後、私に審判員の依頼はなく、職場の野球仲間から「ホッちゃんは“永久追放”だよ」とからかわれた覚えはある。
審判員は複眼ではない、眼は2つだ。間違いもする。抗議してもいいが、“初”判定を受け入れて楽しむのもスポーツではないか。
ちなみに、私は3年前まで日本サッカー協会公認3級審判員だった。私に誤審はなかった。
え!「ウソ」だって、そりゃあそうだよ。
<筆者紹介>
堀田 壽一(ほった じゅいち)
愛知大学経済学部卒業。NHK入局。報道カメラマンを経て、NHKスペシャル「アフリカに架ける橋」「飢餓地帯を行く」「呉清源」など幅広いジャンルでカメラマンとして活躍。スポーツも各種目を取材、スポーツ報道センターチーフプロデュサーとしてサタデースポーツ、サンデースポーツ副編集長を務める。オリンピックはリレハンメル、アトランタ、シドニー、サッカーは1998年のフランス大会を現地取材。特にJリーグは1983年から取材を続けている。1997年、NHK退職後、関連会社でスポーツ番組制作に参加。2007年からフリーランス・スポーツプロデューサー。日本トップリーグ連携機構マネージメント強化プロジェクトアドバイザー、NPO法人スポーツ見物協会会員。