フランス料理には地域の名称や人物名などが、そのまま付けられるものがとても多いとか。一般的に知られているもの、あるいはまだまだ知られていないフランス料理についての由来・歴史などを、ARGO総料理長の山下シェフが紹介します。
第11回 “クレープ”で運だめし?!
今回はクレープ(Crêpe)についてお話します。
日本でクレープと言えば、薄く焼いた生地に生クリームやチョコレートを塗り、フルーツやアイスクリームをトッピングしたスイーツをイメージすると思いますが、元々はフランス北西部のブルターニュ地方が発祥の、蕎麦粉で作った塩味のパンケーキ、ガレット(Galette)という料理です。
ブルターニュ地方の土地は小麦の栽培に適さず、蕎麦が常食とされていました。蕎麦粥を偶然焼けた石の上に落としたところ、そこに薄いパンのようなものができているのを発見。以来、蕎麦粉を焼いてパンの代わりに食べるようになったと言われています。石で焼いたことから、フランス語で小石を意味するガレ(Galet)にちなんでガレットと名付けられたというのが通説です。
その後、生地は小麦粉へと変わり、粉と水と塩だけだったものが牛乳やバター、卵、砂糖などが使用されるようになりました。クレープという名称は、焼いたときのこげ模様が、縮緬(ちりめん)を連想させることから、フランス語で「細かな縮みじわをつけた薄手の織物」という意味の「クレープ」が由来となっています。
フランスでは、このクレープを使ったおもしろい占いが行われています。2月2日のシャンデレール(Chandeleur)と呼ばれる聖燭祭(せいしょくさい)には、右手にクレープの生地を広げたフライパンを持ち、左手にはコインを握ります。クレープを高く放り投げ、うまくフライパンで受け止められれば幸運が訪れるということです。かのナポレオンも、このクレープ占いにはまっていたとか。
ちなみに、なぜ右手かというと、日本人は鍋やフライパンを使うとき左手で持つ人が多いですが、フランス人は右手の方が圧倒的に多いので、占いも右手でするのだと思います。皆さんもぜひクレープ占いにチャレンジしてみてください。
<山下敦司プロフィール>
フレンチレストラン「アルゴ」(千代田区麹町)総料理長。
服部栄養専門学校卒業後、銀座「フランス料理清月堂」、大阪欧風菓子「ケンテル」を経て、1995年渡仏。
エクス・アン・プロヴァンス「ル・クロー・ドゥ・ラ・ヴィオレット」(ミシュラン二ツ星)、パリ「ル・ディヴェレック」(二ツ星)、アヌシー「オー ベルジュ・ド・レリダン」(三ツ星)、ロアンヌ「トロワグロ」(三ツ星)、パリ「ピエール・ガニェール」(三ツ星)と数々の名店で部門シェフを務め、クラシックから最先端のフレンチまで幅広く研鑽を積む。
2000年に帰国後は、ガニェール氏の推薦により「ル・コルドン・ブルー・パリ」にて6年半、料理講座教授。
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