局長に聞く
民主主義の根幹を支える裏方
選挙管理委員会事務局長
東京都の各局が行っている事業のポイントを紹介してもらう「局長に聞く」。12回目の今回は選挙管理委員会事務局の矢口貴行氏。同事務局の仕事は民主主義の根幹とも言える選挙を公正かつ確実に執行すること。先の都議選に続き、現在は8月30日に迫った衆院選投票日に向け、最終的な準備に追われる毎日だ。具体的な仕事の内容や、苦労する点などを聞いた。
(インタビュー/平田 邦彦)
立会人や投開票作業で5万人が必要
―まず、選挙管理委員会事務局の仕事の概要について。
地方自治体には、中立性を確保するため、教育委員会や人事委員会などの行政委員会がありますが、選挙管理委員会もその一つです。ただ、ほかの委員会では、知事が議会の同意を得て委員を選任するのに対して、選管の委員(4人)は議会の選挙で選ばれます。つまり知事の関与がまったくないわけで、独立性がより高いということが言えます。
都選管が執行する選挙には、都知事選挙、都議会議員選挙、国政選挙の衆院選と参院選、最高裁の国民審査があります。このうち衆院は4年任期ですが、平均すると2~3年に一度、6年任期の参院は3年に一度、半数が改選となります。
また4年ごとの都議選と知事選は2年ずれていますから、だいたい年一回は選挙があります。これらの選挙をきちんと執行するのが主な仕事です。
それから、東京都には62の区市町村があるので、毎年どこかしらの自治体で必ず選挙が行われます。この区市町村選管が執行する選挙に対して、さまざまなアドバイスを行っておりますし、区市町村選管職員を対象に人材育成のため研修も実施しております。
また、都内に約6千団体ある政治団体の政治資金収支報告書をチェックして公表するのも私たちの仕事です。
―選挙の準備で苦労するのはどういったことでしょうか。
大体、半年前から準備に入り、3カ月前から忙しくなりますが、一番大変なのは人の確保です。今度の衆院選では投票所が約1870カ所設けられますが、投票所の立会人や従事職員だけで約2万8千人、さらに開票作業に約2万2千人が必要となります。
昨年の秋口以降、衆院選がいつになるかが常に話題となりましたが、投票日が確定しない中でも、人の確保には万全を期さなければならないのが難しいところです。
―事前運動をチェックすることも重要な仕事ですね。
任期6カ月前を過ぎると個人のポスターは貼れなくなる、戸別訪問はダメだが電話はよい―など多くのルールがありますが、公職選挙法も毎回のように改正されていますから、かなり複雑です。
当事務局にも問合せや相談の電話が来ますが、間違えて答えて、「都選管が言っていたから」となるのが一番怖い。そのため、電話では回りに聞こえるよう、大きな声で話すよう徹底しています。万一、間違ったことを言っても、回りが指摘して訂正することができますから。その点で、うちの職員は常に緊張を強いられていると言えるかもしれません
若年層の投票率アップが課題
―投票率のアップも大きな課題です。
都議選の投票率は54・5%と、前回から約10ポイント上がりましたが、これまでの選挙では年齢層別で投票率をみると若年層が平均より低い。これは昔から変わらないんですね。ですから若い方々にいかに投票所に足を運んでもらうかが私たちの啓発活動の一番の課題です。
具体的には、キャッチコピーの募集対象を15~29歳に限定したり、大学の無料コピーの裏やフリーペーパーにPRを入れる、若者がよく使うコンビニで店内放送を流したりと、いろいろ試しています。
また、毎年実施しているポスターコンクールでは都内の小中高校から約1万5千点が集まっています。
ほかにも、民間のボランティアの方々でつくる「明るい選挙推進協議会」が成人式でのPRや、小学校で模擬投票などを行っていますが、決定的な妙案がないのが正直なところです。ティッシュを配るくらいなら、投票所に宝くじを置いたらいいという人もいますが、お金で呼び寄せるのも何ですから(笑)。
投票率アップの基本は意識改革、地道にやっていくしかないと考えています。
―いよいよ8月30日には衆院選の投票が行われます。
東京都の場合、有権者は約1千60万人、仮に投票率を60%とすると約6百万人が一斉に投票所に足を運ぶ一大イベントと言うこともできます。
主役は有権者です。政治への意思を表明する大事な権利ですから、ぜひ投票に行ってほしいですね。
当事務局としては、公平・公正かつトラブルなく選挙を執行するのが当たり前の仕事ですから、民主主義の根幹を支える裏方としてきちんと責任を果たしたいと肝に銘じています。