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暮らし・文化
2013年6月20日号

らくがきスポーツカフェ(35)

サッカーW杯出場を決めた試合

スポーツ・プロデューサー、NPO法人スポーツ見物協会 堀田 壽一

 実力で取ったPKだ。決めると、信じていた。ゴールラインから11mにあるペナルティマークに、ボールを右脇に抱えて直立する本田圭佑選手の姿が目に焼き付いている。日本対オーストラリア戦、引き分けでもブラジル行きが決まる。

 前半を終わって、私はメモに「日本55%、オーストラリア45%」と戦いの評価を書き込んだ。後半に入ると、オーストラリアは守り重視に思えた。失点しては日本に勝てない。勝つためのリスクを負うより、ドローで終わるのが賢明という戦術だった。

 ザッケローニ監督は、71分、フォワードの前田僚一選手をデフェンスの栗原勇蔵選手に代えた。賢明な策だったが、交代で陣形が整いかけた頃に攻められた。

 トミー・オアー選手が左サイドから軽く蹴ったボールが、ゴールのクロスバーに沿ってまるでスローモーションのようにゴールに吸い込まれた。

 オーストラリアは美技といったが、あれはアクシデント。ゴールキーパーの川島永嗣選手は座り込んだ。私は、いや、周りの記者も黙り込んだ。

 オーストラリアとは相性が悪い。イヤな記憶が蘇った。2006年FIFAワールドカップ・ドイツ大会で、日本は残り10分でオーストラリアに3失点し大逆転された。選手のポジションの混乱という、信じられないミスから敗戦した試合だ。

 「大丈夫か?」とピッチを見た。あのときとは全く違っていた。選手は前向きになっていた。

 オーストラリアはゴール前を固める。日本はデフェンスが薄くなっても攻め、諦めずシュートを打つ。それで良いのだ。一秒でも時間が欲しいから、通常は選手交代をしないが、日本は残り5分でフォワード2人が交代した。

 「得点する!」「点をたぐり寄せる!」。そんな意識が固まりとなったピッチに、選手たちは立っていた。「取れる、取れる。行け、行け」と私は心の中で叫んでいた。

 多くの記者が「ハンド!」と叫んだ。

 ショートコーナーを受けた本田選手のクロスが、オーストラリアの選手の右手に当たった。主審はペナルティマークを指差した。

 スポーツを観戦していると、鮮烈に記憶に残るプレーに出会うことがある。そんな試合だった。

 この日、埼玉スタジアムは観客数6万2172人。サポーターは本田選手が冷静に決めたPKゴールをいつまでも語ることだろう。

 


<筆者紹介>

堀田 壽一(ほった じゅいち)

愛知大学経済学部卒業。NHK入局。報道カメラマンを経て、NHKスペシャル「アフリカに架ける橋」「飢餓地帯を行く」「呉清源」など幅広いジャンルでカメラマンとして活躍。スポーツも各種目を取材、スポーツ報道センターチーフプロデュサーとしてサタデースポーツ、サンデースポーツ副編集長を務める。オリンピックはリレハンメル、アトランタ、シドニー、サッカーは1998年のフランス大会を現地取材。特にJリーグは1983年から取材を続けている。1997年、NHK退職後、関連会社でスポーツ番組制作に参加。2007年からフリーランス・スポーツプロデューサー。日本トップリーグ連携機構マネージメント強化プロジェクトアドバイザー、NPO法人スポーツ見物協会会員。

 

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