計量・MAP包装・値付作業を
1台で完結できる小型機が誕生

今回、寺岡精工が生み出した「LX―5600」は、肉や魚などの生鮮食品や惣菜などを食品トレーに入れ、「LX―5600」に乗せると、①食品の重さを計量し、②MAP包装を行い、③重量に応じた価格を印字したラベルを貼り付ける―この一連の作業を数秒で完全自動化で行うことができる。そして、このオールインワン機能を、従来にはない小型機器で実現したことが最大の特徴であり、世界唯一の技術と言える。

そもそもMAP包装とは、食品トレー内の空気を二酸化炭素や窒素などのガスに置き換え、完全密閉することで消費期限を伸ばす包装技術だ。この技術により、肉や魚などの生鮮食品や惣菜の消費期限を1日から3日程に伸ばすことができるという。海外ではすでにこの技術の導入が進み、日本でも近年はコンビニの惣菜などに用いられたりしている。

ただ、MAP包装機は日本のスーパーなどの小売店での導入は進んでいない。その理由の一つは、機器の大きさにあった。従来の機器のサイズでは、広い敷地のある食品工場や、海外のスーパーなどでは設置可能だったが、日本国内のスーパーのバックヤードなどのスペースでは難しかった。

同社は従来のラッピング技術を用いた計量、包装、ラベル貼付のオールインワンタイプの小型機器は開発製造してきたが、MAP包装対応機器は存在しなかった。だが、これからの社会変化を見越し、独自にMAP包装技術を開発、「LX―5600」を誕生させたのだ。

「LX―5600」の営業を担当する、同社包装事業部グローバルマーケティンググループの鈴木啓太係長は、開発の経緯をこう振り返る。

「近年、環境配慮の観点から、食品スーパーでも3つのロス(チャンス、値引き、破棄)は急務の課題である一方、バックヤードはコンパクト化が進んでいます。さらに、人手不足も深刻であり、作業の省力化を実現する小型のオールインワン型MAP包装機は、世の中に必要だと考えていました。MAP包装技術は一からの社内開発で、苦労が多かったと聞きますが、100周年という節目に間に合わせることができました」

MAP(Modified Atmosphere Packaging)包装とは、食品トレー内の空気を二酸化炭素や窒素などのガスに置き換え、完全密閉することで消費期限を伸ばす技術だ(提供:寺岡精工)

MAP(Modified Atmosphere Packaging)包装とは、食品トレー内の空気を二酸化炭素や窒素などのガスに置き換え、完全密閉することで消費期限を伸ばす技術だ (提供:寺岡精工)※クリックすると全画面が表示されます

1日の期限延長が労働環境を改善
販売、値引き、廃棄ロスを削減

MAP包装により消費期限が1日伸びると、販売するスーパーやメーカー側はもちろん、消費者にとっても様々なメリットが生まれる。

まず、販売時間が延びることで販売ロスが起きにくく、値引きセールの頻度を下げ、さらに廃棄ロスを減らすこともできる。また、消費期限が伸びれば、生鮮食品や惣菜の仕込み時間を前倒しすることができ、これまで深夜や早朝にしなければならなかった作業を、前日に余裕を持ってすることができ、労働環境の改善にもつながるのだ。

一方で、消費者にとっては販売時間が延びることで、夜の遅い時間帯でも購入できる選択肢が生まれる。また、消費期限が伸びることでまとめ買いもしやすくなる。

「弊社の独自調査ですが、現在スーパーで生鮮食品を買う方の8割が週1?3回の購入で、7割が夕方以降に購入するという結果が出ています。共働きが当たり前になっている昨今、スーパーでのまとめ買い、遅い時間の購入は自然の流れですが、従来のスーパーの生鮮食品の消費期間ではそのニーズに対応しきれないでいました。MAP包装はそれを大きく改善する可能性を秘めています」(鈴木係長)

「LX―5600」の営業を担当する、寺岡精工包装事業部グローバルマーケティンググループの鈴木啓太係長(提供:寺岡精工)

「LX―5600」の営業を担当する、寺岡精工包装事業部グローバルマーケティンググループの鈴木啓太係長
(提供:寺岡精工)

「Grow with Green」を象徴する
100周年を代表する機器に成長させたい

現在は使用できるトレーサイズが限られ、それが課題の一つだと鈴木係長はいうが、今後解決していけると確信を持つ。

「現在、食品スーパーの食品トレーも多様化しており、その対応は必須です。ですが、MAP包装機を自社独自で作り上げたことで、多様なトレーサイズへの対応も可能になりました。現在、岩手の自社グループ工場で準備を進めています」

これまでにないものを生み出す。創業以来、寺岡精工が掲げるスピリッツだ。

創業時に生み出した「商業用敏感自動秤」に始まり、1965年の「電子(デジタル)料金はかり」、1980年の「サーマル(感熱)印字式バーコードプリンタ」、翌年の「自動計量包装値付機」と、世界初の技術機器を世に送り出してきた。

「食品スーパーの人材不足解消と効率化を実現するために生み出した、スキャニングと会計を分離したPOSシステムやセルフレジシステムなどは、当初は『人と接するのが前提のお会計においてありえない』と、現場でも抵抗がありました。しかし今やスーパーのスタンダードになっています。そうした世の中の先のニーズを読み取り、まだ世にないものを生み出す。その姿勢は今も社内に息づいています」

環境問題にも、同社は国内でいち早く取り組み始めた。「LX―5600」を開発した背景には、毎日おにぎり1個分が廃棄されている食品ロスを、自社事業を通じて解決していきたいという思いもあったという。

「弊社は『Grow with Green』というスローガンを掲げています。これは、環境課題を解決することによって、ビジネスは成長する、という考え方に基づいています。『LX―5600』は真空ポンプやコンプレッサーという付帯装備をなくすことで、使用電力自体の削減を実現しています。100周年のシンボルとして、『Grow with Green』を実現する代表機器に『LX―5600』を育てていきたいと思います」