「災害時に命をどう守るか」に特化
子供たちは楽しく、講師は使いやすく

『防災クイズ10(テン)』は、市民防災研究所が東京都をはじめとする学校現場で、子ども向けに防災教育を行う際に使用する教材の一つとして開発されたプログラムだ。その名の通り、10の防災にまつわるクイズがアニメーション形式で出題され、子どもたちはそれに回答しながら防災について学んでいく仕組みだ。

具体的には、「火事になった時、消火器などで消火できる高さはどのぐらいまででしょうか」「火災の煙の速さで正しいのはどれでしょうか」「津波のスピードは最高どのぐらいになるでしょうか」など、実際の災害場面を想定した設問に、選択形式で回答していく。例えば津波のスピードへの回答は「車」「新幹線」「飛行機」などに置き換え、子どもたちにも数字などが伝わりやすい内容になっている。

今回、miraiiに開発を依頼した同研究所の江原信之事務局長は、完成までの経緯をこう振り返る。

「防災と一言で言っても、学ぶべきことは非常に多岐にわたります。ですが、子どもたちが興味を持ち、楽しく学んでもらうためには、内容を絞り込む必要があると感じました。そこで、このプログラムでは災害時に命を守るために何をするべきかに特化しました。その上で、『みらいいパーク』で非常にわかりやすく子ども向けプログラムを作っていたmiraiiさんの開発力を活かして、親しみやすいデザインと子どもが関心を持つような動きを盛り込み、飽きさせないシンプルな構成に仕上げていただきました」

開発窓口となったmiraiiの齊藤陸(りく)取締役は、学校現場で使用する点も考慮しながら開発を進めたと語る。

「弊社はこれまで民間企業さまを中心に、100以上の子ども向けゲーム教材を作ってきた実績がありますが、学校現場で講師の方が使用するケースはなく、授業という限られた時間の中で講師の方が使いやすいよう、子どもたちの状況などに対応しやすく、シンプルかつ進行も調整しやすい操作性を意識しました」

『防災クイズ10(テン)』プログラムの一例(提供:miraii)

『防災クイズ10(テン)』プログラムの一例(提供:miraii)

子ども向けプログラムを活用し
親子防災イベントなどで集客アップも

市民防災研究所は、1972年に故旗野次郎氏が私費で避難研究所を設立、1981年現在の研究所の形となり、防災の講師派遣や人材育成、災害に関する調査研究などを行ってきた、日本の防災教育機関のパイオニア的存在だ。一方、miraiiは「みらいいアカデミア」や「みらいいパーク」など自社コンテンツに加え、本紙185号で紹介したように(その際は旧社名イノビオット)、さまざまな企業と子ども向けの独自プログラムも開発してきたが、今回の市民防災研究所のような公益社団法人との協業は初となる。その経験は貴重だったと齊藤取締役は語る。

「市民防災研究所さまという歴史ある防災の第一人者といえる組織と連携して開発できたことは大きな実績になりますし、防災教育の貴重なノウハウを得ることもできました。さらに、学校現場という教育の最前線の現場で使用する教材を開発できたことは、弊社が掲げる『オンライン教材を通じて教育格差をなくしたい』という理念を、さらに高いレベルで実現することができたと思います」

江原事務局長も、miraiiと連携できたことで、防災の普及活動の新たな展望が見えてきたという。

「すでに学童保育などから子ども向け防災教育の相談も受けており、学校以外での裾野が広がりつつあります。さらには、親子で学べる防災イベントなどにも活用できたらいいと考えます。近年は防災情報も氾濫し、単にイベントやセミナーを企画しても、集客すること自体難しい状況です。しかし『防災クイズ10』のような子ども向けのプログラムを生かして親子で学べる場にしていけば、集客アップにもつながるのではないかと推測しています」

『防災クイズ10(テン)』を実際に学校現場で使用している様子(提供:市民防災研究所)

『防災クイズ10(テン)』を実際に学校現場で使用している様子(提供:市民防災研究所)

大人の防災教育の課題解決にも
楽しく学んで地域の防災力向上に

江原事務局長は、現状の大人向け防災セミナーの課題解決にも『防災クイズ10』は役立つと期待する。

「我々はこれまで数多くの防災セミナーや講座を行ってきましたが、大人はすでに防災に関する知識や情報も多く、訓練なども経験していて、むしろその先入観が防災活動を阻害する可能性もあると感じていました。一方、子どもたちは純粋に防災への興味関心を持ち、その学ぶ姿勢は防災において非常に重要だと感じます。『防災クイズ10』はそうした思考や姿勢を大人たちに気づかせてくれるツールと言えるかもしれません」

齊藤取締役も、『防災クイズ10』が子どもだけでなく社会全体で幅広く導入されていくことを望むという。

「楽しく、しかも本格的な知識が学べるこのプログラムは、企業や自治体の防災教育にも十分応用できるものです。特に地域の防災を担う自治体担当者さまにこのプログラムを知っていただき、自身の学びとともに、地域の防災教育に生かしていただけると、開発した我々としては非常にうれしく思います」

かつてはゲームやクイズは子どもの遊びの一環であったが、今や大人もオンラインゲームなどを日常で楽しむ時代。年齢問わず、防災を楽しく本格的にクイズ形式で学び、それが家庭、さらには地域の防災力を高める。そんな教育プログラムの価値は、今後ますます高まっていく可能性を秘めている。

市民防災研究所の江原信之事務局長

市民防災研究所の
江原信之事務局長

miraiiの齊藤陸取締役

miraiiの 齊藤陸取締役