外国人実習生の受け入れは、
小さな外交、国際交流の一環です。

―監理団体として多くの技能実習生を受け入れていますね。今は何人くらいの方が、日本で働いているのですか。

紀岡 25年くらい前から外国人技能実習生・特定技能実習生の受け入れをスタートし、今は約6000人の人材をいろんな企業に技能実習生や特定技能実習生という形で入れていただいて、管理支援しています。毎年2000人くらいの実習生を受け入れていますので、延べ人数でいえば数万人は受け入れていることになりますね。

当初は中国人実習生が大半を占めていたのですが、今はベトナムの方が一番多くて約7割近くを占めていて、カンボジア、インドネシア、ミャンマーと続きます。

ベトナムの一般の労働者の給料は手取りで400ドルくらい。カンボジアが200ドルくらいで、ミャンマーにいたっては100ドルくらいしかありません。やはりより貧しい国の方が日本に来て頑張ろうという気持ちが強いので、比率も変わってきています。

ただ、スタートした当時は、生活費だけ残して、ほとんど母国に送金するという人が多かったですが、最近は自分のために使うというケースが増えました。外食したりゲームに使ったり、そういう楽しみがないとやっていけないのだと思いますね。

―技能実習生を受け入れる組織を作ろうと思われたのはどうしてですか。

紀岡 外交の一環というか、国際交流というか、日本の良さを知ってもらいたいということからスタートしました。ですから労働者を受け入れるというよりも、日本のことを学んでもらって、国に帰って日本の良さを広めてもらいたい。技術技能を身につけてもらって、国へ帰って、稼いだお金で事業を始めるなり、子どもを大学に入れるなりしてほしい。本来の目的はそこなんですよ。

―途中で失踪してしまったりとか、外国人労働者の問題が話題になっています。

紀岡 それは企業のコンプライアンスやガバナンスの問題が大きいと思いますね。日本に来るときはみんな真面目に働いて、技術を覚えて、ずっと日本にいたいと言うんです。でも、環境が良くないとか、残業代が払われないとか、人種差別や人権問題とか、そういった風潮が企業によってはいまだにある。すると、どうしても失踪とかありますよね。

―受け入れる側の問題も大きいということなのですね。

紀岡 うちは今、約6000人の人材を管理していると言いましたが、大手企業のグループが多いんですね。

それぞれの企業には実際に訪問して、この企業はしっかりと実習生たちを管理し、面倒を見ていける体制があるのかどうかというのをきっちりと確認した上で受け入れていただいているので、大きな問題はないのだと思います。

―受け入れる人材もそうですけれど、受け入れてもらう企業もチェックされているということなのですね。

紀岡 そうです。誰でもいい、どこでもいいというわけではありません。

カンボジアでの入国前講習の様子。朝礼を行う実習生たち

カンボジアでの入国前講習の様子。朝礼を行う実習生たち

いろんな選択肢がある中で、
日本を選んでもらわなければいけません。

―人材受け入れの流れはどうなっているのですか。

紀岡 企業によっては、例えば現地に工場があるとか、将来的に進出したいとか、あるいは日本で働いた方を現地の工場の幹部候補生なり責任者になってもらいたいといった希望がありますので、基本的には、企業から、どういった職種についてもらいたい、どこの国の人を入れたい、あるいは勤務条件がこうだという募集依頼をいただいて、企業の方と一緒に現地へ行って、面接をするという流れです。

―面接をして合格となったら、その後は?

紀岡 現地の提携先の送り出し機関で、日本に来るまでの約半年間、日本語や日本の文化、ゴミ出しといった日本の生活を訓練します。日本に来てからは、各地にある研修センターで1ヶ月間、日本の労働基準法などを勉強して、企業に配属になります。

―去年、技能実習制度を廃止し、人材の育成と確保を目的とした新制度「育成就労制度」への移行が決定されました。どのように変わるのですか。

紀岡 これまでは実習生の職種と特定技能の職種が必ずしもイコールではなかったんです。それが育成就労から特定技能まで同じ職種で一本化されますので、育成就労で日本に来て、そのまま特定技能になれるわけです。また、一定の条件を満たせば、本人の希望によって転籍(転職)が可能になりますから、労働環境の改善も期待されます。

―日本以外の国でも外国人労働者を受け入れていると思いますが、日本の実習生制度のようなものはあるのでしょうか。

紀岡 例えば韓国や台湾ですと、いわゆる労働者という位置づけで行きます。うちのような監理団体や支援団体があって、企業と彼らとの間に入って調整したり、問題を解決する機関がありませんから、やはりトラブルは多いですよね。日本は、日本に来ている方たちに非常に優しい環境だと思います。

ただ、問題は賃金体系が他の国よりも低いということです。いわゆる残業ですよね。給料はそんなに変わらなくても、韓国や台湾では割と自由に残業できますから、より稼げる。残業を容認するわけではありませんが、世界的に見て日本は残業時間は決して長いわけではありませんから、ある程度は本人の選択肢に任せたほうがいいのではないかと思います。いろんな選択肢がある中で、日本を選んでもらわなければいけないわけですから、待遇面でも海外に追いつかないと。

―外国人労働者がいないと、日本の社会は回らないところまで来ているのでしょうか。

紀岡 確かに日本の人口は減ってはいますが、人口が減っているからその分を外国人で補えばいいという考え方は違うと思います。

例えば、シンガポールのように日本も小さな政府を目指すとか。シンガポールは人口600万くらいですが、国民一人当たりのGDPは日本よりかなり高くて、世界で5、6番ぐらいですよね。日本は国全体のGDPは高くても、国民一人当たりだと40番前後、韓国より低いです。外国人の労働力で補ってでも、国のGDPを維持しなければならないという考えは、違うのではないかという気がします。

カンボジアの職業訓練校を視察する紀岡氏と組合員

カンボジアの職業訓練校を視察する紀岡氏と組合員

キルギスの国立大学に日本学院があり、
今年、名鉄学科ができました。

―海外との関係が大事だと思いますが、そのつながりはどのように築いたのですか。

紀岡 もともとは保守系の国会議員の秘書をやっていて、いろんな国の方と接する機会が多く、政府の方とのご縁が深かったものですから、協力してもらいやすかったのだと思います。

例えば、パートナーになっているカンボジアは非常に親日的なんですよ。労働省の大臣も副大臣も日本の留学生ですし、事務次官も日本の留学組で、とにかく日本に力を入れてやってくれています。

―最初におっしゃいましたが、まさに民間レベルの外交ですね。

紀岡 そうですね。

最近は中央アジアのキルギスとの関係が深まっています。キルギスは人口は少ないのですが、国立大学の中に日本学院があって、そこの学生たちは、基本的に日本語はもちろん、日本の生活を勉強していて、日本に行きたいという方が非常に多いんですね。

実は今年9月に、その日本学院の中に、名古屋鉄道グループがカリキュラムやインターンシップを受け入れる「名鉄学科」という新しい学科が設けられたのです。トラックやバスの運転手や整備士として日本で働くことを想定して、日本の交通ルールや運転マナーを学び、最長で1年間のインターンを経て、名鉄グループで即戦力として働いてもらう予定で、4年制で1学年20人を受け入れます。

名鉄グループは2019年に運営するホテルやレストランで日本学院の学生をインターンとして受け入れたことを機に交流が始まったのですが、ホテルサービス学科や社会福祉学科などもできて、今は700人ほどが日本での就職を目指しています。

―先生は日本から行っているのですか。

紀岡 うちのパートナーの現地の国の機関が運営しています。彼らの中には日本にインターンに行って帰ってきた子たちがいますので、その子たちが中心になって日本語を教え、日本からも先生が行っているという感じですね。キルギスにはほとんど日本人がいないんですよ。現地にいる日本人は、JICAと大使館が大半で、おそらく6、70人くらいだと思います。

―そんな国の大学に日本学院があり、名鉄学科があるというのはすごいことだと思います。

紀岡 日本旅行も現地で講座を設けていて、基本的にそこを卒業した学生たちは、日本旅行と関係のあるホテルや旅館で働くという流れができています。

学生は確実に自分が好きな業種につけて、なおかつ支援する側も確実にその生徒さんを採用できる、すごくいいシステムだと思います。日本のいろんな企業がそういう取組を始めていますが、今後はもっと増えていくでしょうね。

―外国人労働者というと不法就労とか治安悪化とか、あまりいいイメージがありませんでしたが、本当は日本が好きで、真面目に働きたくて、ちゃんと勉強してやってきているということを知って認識が変わりました。

紀岡 家族のためとか、子供のためとか、あるいは自分で起業するためにその資金を貯めたいと思って日本にやってくる。みんな夢と目的がしっかりしているんですね。それが横道に逸れてしまうのは、やはり受け入れる日本側の問題も大きいのではないでしょうか。

日本社会が彼らを適切に受け入れ、互いに成長できる関係を築ければ、外国人材は単なる労働力ではなく、日本の未来をともに支える重要なパートナーになれると思います。

キルギスの国立大学に設置された名鉄学科の授業の様子

キルギスの国立大学に設置された名鉄学科の授業の様子

紀岡 直樹|きおか なおき 1958年岐阜県出身。82年中央大学商学部商業貿易学科卒業、同年より国会議員秘書を務める。学習塾経営を経て、2002年株式会社マイダス設立。同年流通産業協同組合を設立し、代表理事就任。