2008年3月20日号
変わる言葉、変わる辞書
〜当世の日本語事情〜
時代とともに変わる言葉。そして、辞書の形態まで変わってきている!?

ローマ字略語って何?

『KY式日本語』より(大修館書店刊)

『KY式日本語』より(大修館書店刊)

 テレビをみていたら、「とてもいいフインキでした」と言っている人がいた。「フインキ?雰囲気(ふんいき)でしょう!」と、思わず声に出してしまったけれども、この頃時々「フインキ」と言葉を聞く。

 二〇〇四年に発行されて話題となった『問題な日本語』では、「雰」を「ふ」と誤読し、「囲」を「因」と混同した結果だろうと推測している。同じような例で「あらた(新)→あたら→あたらしい」とか「さんざか(山茶花)→さざんか」と定着してしまった言葉もあるという。

 「ぜひ、続編を」という声が高まり、昨年の十二月『問題な日本語その3』が出版された。この本が生まれたきっかけは、二〇〇二年に発売された『明鏡国語辞典』。「変化する現代語に踏み込もう」という編集方針のもと、従来は「その日本語の使い方は誤りだ」と言われたものでも、必ずしもそうとは言い切れないのでは……と、その理由を探った結果、副産物として『問題な日本語』が誕生した。

 その後も大修館書店では「みんなで作ろう国語辞典」というキャンペーンを行い、国語辞典に載せたい言葉や意味、例文を募集している。二〇〇七年に行われた「第二回 もっと明鏡大賞」には、全国の小学校から高校まで三八二校の参加があり、計四万四千語もの力作が集まったという。

 そのなかで多かったのがローマ字略語。KY=空気読めない、JK=女子高生、ND=人間としてどうよ……など、携帯メールやブログを介して、学生たちのあいだから急速に広がったと言われている。

 「KY語は意味がぼかされている分、言葉の暴力に対して鈍感になっていきがちだ」と編者である筑波大学名誉教授・北原保雄氏が今年二月に発売された『KY式日本語』に書いている。「遠回しな言い方は、ある場合には思いやり、気遣いの表現にもなるが、言葉の暴力にもなる。この点はくれぐれも注意しなければならない」と北原氏は続ける。そして、その功罪を明らかにするために、あえてこの本をつくったという。

 本が発売されてからの反響を大修館書店・販売部の古川聡彦氏に聞くと、「思ったよりも年配の方にも読んでいただいているようです。『おじさん、おばさんでも使えるOJ式日本語とか、OB式日本語を作ろう!』というような感想もありました。『言葉の乱れを助長するのでは』という反応はほとんどなく、あくまでも言葉遊びの一種としてオリジナルのKY語を作って楽しんでいただいているようです」とのこと。STS!!(それはとてもすばらしい!!)

引く辞書から押す辞書へ

 言葉だけでなく、辞書のあり方も変わってきている。国語辞典の引き方を習うのは小学校三年生からというが、大学受験をひかえる高校生のあいだでは電子辞書の普及率が高くなっているという。カシオ計算機(株)広報部の廣瀬孝一郎氏によれば、「二〇〇六年から大学センター試験で英語リスニングが導入されましたが、それを受けて二〇〇五年より『センター試験 英語リスニングトレーニング』が入った電子辞書が発売されました。学生の購入台数が増えているのはそのことが大きいと思います。また、大学へ入って第二外国語を選択するときに対応する追加機能もありますので、高校・大学とあわせて七年間はフルに利用できると思います」とのこと。

 電子辞書には国語辞典や英和・和英辞典はもちろん、数学や物理の公式集、歴史や理科の事典、百人一首や漢字や英単語のドリルまでが入っている。価格は平均三万円台で、紙の辞書の十倍ほどするが、全部のソフトを使いこなすとしたら、お買い得感はいなめない。

 その上、辞書を一冊持つよりも軽く、時間的にもはやく引けるし、音声も聞くことができる。先頃発売されたツインタッチパネルが搭載されたモデルだと、漢字を手書きで入力して検索できるし、今年一月に十年ぶりの改訂版が出た『広辞苑』第六版も入っている。電子辞書業界全体としては年間三百万台の売上があるというが、今後の売上も伸びていきそうな勢いだ。

 こうなると、紙の辞書の販売数は激減しているのではないだろうか。

 『広辞苑』の発売元である岩波書店に聞いてみたが、現在のところ売上が落ちていることはないという。それどころか、『広辞苑』自体が紙媒体からの変革を図っている。電子辞書に搭載されているだけではなく、パソコンで使えるDVD―ROM版や携帯電話版もある。携帯電話版の担当者によると「当初は、二〇〇一年にNTTドコモさんから『やってみませんか』と打診があって、第五版を幅広くご利用していただくためにはじめました。月額利用料105円で、単語検索に加えジャンル別の検索、慣用句や漢字などいろいろな検索方法をご利用頂けます」というから驚く。分厚い『広辞苑』を持ち歩かなくても、ケータイで『広辞苑』を利用できてしまう時代なのだ。

 しかし、「学生時代は、紙の辞書を引く習慣をつけてほしい」と三省堂「クラウン」英和・和英辞典の編纂をした田島伸悟氏は言う。「電子辞書は小さな窓から見ているようなもので、調べた言葉の意味を全体的に見ることはできません。しかし、紙の辞書は広場のようなもので、全体を見通すことができます。電子辞書は便利ですが、よい召使いはわるい主人にもなるのです」と続ける。

 確かに、一つの意味しかない単語だったらいいかもしれないが、「go」や「come」などたくさんの意味や使い方のあるものは、全体を見通して調べたいものだ。そして、紙の辞書を引くにはあるコツがあるという。「箱に入ったまま本棚に並べておいてはいけません。箱から取り出して、いつでも使えるような状態にしておくことです。そしてある単語を引いたら、辞書をそのまま開いておくことです。そうすると、また辞書にすっと手がのびますよ」

 そういえば、初めて辞書を手にしたときのことを思い出すと、引きたい言葉の前や後も眺めながら、「へぇ、こんな意味があるのか…」と、思わず辞書をじっくりと読んでいた。そんな寄り道が、言葉との思わぬ出会いになるかもしれない。

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