2008年5月20日号
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医療NOW

(4)下肢静脈瘤って何?

東京慈恵会医科大学総合健診・予防医学センター センター長

銭谷幹男さん

 足の静脈が浮き出ていることはありませんか? また、夕方になると足がむくんだり、つったり……。そんな症状がある人は、下肢静脈瘤を疑う必要があるかもしれません。


 静脈瘤というと大出血を起こす、肝硬変などの門脈圧亢進症による食道静脈瘤を思い浮かべる方が多いと思います。

 静脈瘤は、かなりの方が持っているにも拘わらず、本人も周りの人も病気という認識がなく、放置されていることがあります。特に下肢の内側にミミズのように曲がりくねった血管が浮き出ている方は少なくないと思いますが、これが下肢静脈瘤です。下肢静脈瘤は、一般には放置していても、命にかかわるような重篤な病態に陥ることは稀ですが、実は気がつかない症状があり、その結果として日常活動に影響をあたえ、皮膚炎や皮膚潰瘍となる場合もあるのです。

 また、静脈瘤が下肢の表面に瘤となっている場合には美容上の問題も生じます。下肢がだるい、下肢が夕方になるとむくむ、下肢がつりやすい、下肢の皮膚が痒い、下肢の皮膚が黒ずむなどといった症状がある場合、下肢静脈瘤の存在を疑って診断を受けることが大切です。


下肢静脈瘤ができるわけ 

 どうして静脈瘤、下肢静脈瘤ができるのでしょうか?

 静脈は、心臓から押し出された血液が末梢で毛細血管になり、体の各部分に酸素や栄養を供給した後の血液が流れる血管で、血液を心臓へと返す導管です。動脈と異なり、心臓というポンプの圧力、いわゆる血圧はありませんので、もともと流れにくいのです。上半身に比べ、静脈瘤が下肢に多いのも、この流れ難さが原因で、立ち仕事が多い人に良く見られることもうなずけます。

 では、どうして静脈血は流れているかというと、主に筋肉の収縮によって流れています。さらに、静脈には、動脈にはない静脈弁という逆流防止装置がついています。これによって静脈血は逆流せず心臓へと戻っているのです。

 しかし、長時間立ち仕事をしていると、重力に逆らっての流れがうまくいかなくなり、下肢に静脈血が滞ってしまいます。ケガなどで静脈弁が壊れている場合も逆流は起こり、血液は静脈内にどんどんたまって、静脈が拡張してこぶのように腫れてきます。この状態が静脈瘤です。

 下肢静脈瘤は女性、特に妊娠、出産後に出現することが多いとされています。妊娠・出産などで腹部の圧が高くなるためです。また、加齢により下肢の筋肉が少なくなってきた場合も静脈瘤は起こりやすくなります。長時間の立ち仕事をする人には男女を問わず出現します。


エコノミークラス症候群とは? 

 もう一つ静脈瘤ができる要因としては深部静脈血栓症があります。これは、静脈血液の流れが表面ではなく筋肉の奥にある静脈で悪くなり、血栓ができるもので、この血栓が心臓に戻り、その後肺に詰まると肺動脈血栓症になります。エコノミークラス症候群ともいわれます。

 当然、深部の静脈血が流れにくいので、表面にある静脈は血液量が多くなり、前に述べた、下肢静脈瘤はできやすくなります。従って、下肢静脈瘤がある場合、深部静脈血栓症がある可能性を考慮する必要があります。

 エコノミークラス症候群は、肺の動脈が急に詰まるので、血栓が大きい場合は命にかかわる病態になります。エコノミークラス症候群は下肢静脈瘤の大きな合併症ともいえるでしょう。長時間座っていると、下肢の筋肉の収縮は少なく、また下肢は座位により静脈の屈曲が起こります。しかも、下肢の静脈血は重力に逆らって心臓へ返る必要があります。

 こうした状況が飛行機内の狭い座席に座り続けると起こるのです。水分補給が不足して血液が濃くなった場合、静脈血の流れはさらに悪くなります。飛行機に乗っていなくても、長時間の同じ姿勢、特に下肢の循環を悪くする姿勢でも起こりえます。

 症状もない、下肢の静脈怒張といって放置することは危険です。日常生活でも、適宜に下肢の筋肉を動かし、水分補給をまめにしていくことが大切で、特にお年寄りで、動きが少なくなってきた場合は注意が必要です。

 下肢に静脈瘤が既にできてしまった場合、血液の逆流を防ぐためにも弾性ストッキングが有効です、表面の静脈血流は減少し、深部静脈の血液量が増すからです。しかし、深部静脈血栓がある場合、ストッキングは無効です。静脈瘤といっても正しい診断に基づく適切な処置が必要なのです。

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