2008年2月20日号
地球温暖化防止のために
今、日本ができること すべきこと――

衆議院議員

環境大臣 地球環境問題担当

鴨下 一郎さん

 海に沈むサンゴ礁の島、崩れ落ちる氷河、薄く小さくなってゆく北極の氷―。今、地球規模で環境が変化している。地球温暖化―これはわれわれ人類が、豊かさの代替に野放図に排出し続けてきたCO2などのせいだ。

 今年2008年は、地球温暖化をストップするために京都議定書で日本が世界に約束した、温室効果ガスの「マイナス6%」を実行する時期に突入した。世界トップレベルの省エネ技術を持つ日本。日本は環境立国として何ができるのか、何をすべきなのか。

 地球温暖化防止に国際的なイニシアティブを発揮し、「環境立国」を実現しようと全力で取り組んでいる鴨下環境大臣に話をうかがった。

(インタビュー/津久井美智江)

「マイナス6%」を実現するために
われわれが今、すべきこと

――ここ数年「地球温暖化」という言葉をよく耳にします。

鴨下  「地球温暖化」という言葉が注目されるようになったきっかけは、1997年に京都で行われた気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)で、京都議定書が議決されたことです。そこで日本は、温室効果ガスの排出を1990年度比で「マイナス6%」とすることを世界に約束しました。いよいよ今年から2012年までの5年間で実現しなければならない、いわば実行時期に入ったのです。

 それから、ポスト京都議定書の枠組みをどうするかという議論が、去年12月のバリ島で行われたCOP13で進められました。

 それと軌を一にして、地球温暖化問題に取り組んでいるアル・ゴア前米副大統領と、IPCCという国連の気候変動に関する政府間パネルがノーベル平和賞を受賞しました。

 こういうことがいくつか重なって、環境に対するみなさんの意識が非常に高まったのでしょう。

――90年比で6%減らすのが目標ですが、マイナスどころか増えているのが現実です。

鴨下  最新のデータによると6.4%増えています。ということは合計で12.4%下げなければいけないということですね。

 ただ、森林などの吸収源活動で3.8%、外国に環境技術を提供する共同実施や排出権取引で1.6%、合計5.4%は補えますから、実質的には6%のうちの0.6%を日本で減らすことになります。

 その上で基準年から増えた6.4パーセントは、実際に下げなければならない。これは並大抵のことではありません。

――増えた分をさらに減らさなければならないということは、この5年間で相当努力しないといけませんね。

鴨下  実は90年に比べて増えているのは、いわゆる国民生活全般から排出される分です。みなさん気軽にエアコンをお使いになるし、冷蔵庫も昔に比べたら大型化しています。もちろん省エネ製品になってきてはいますが、電化製品の使用量は増えているわけで、結果的にいうと生活から出てくるCO2は相当に増えています。

 電気はCO2を出さないと思っている方もいるかと思いますが、電気は火力や原子力、水力などでつくっているわけですから、使えば使っただけ空気中にCO2は出て行きます。

 シャワーの時間を1分間減らすとか、こまめに電気を消すとか、冷蔵庫を壁から離して置くとか、冷房の温度は28度以下にしないとか、国民ひとり一人の協力が不可欠なのです。

地球規模で環境を守るために
ひとり一人ができること、すべきことをする

――頭ではわかっていても、なかなか実行に移すのは難しい。例えば、家族4人がばらばらにお風呂に入るより、続けて入るほうがガス代や水道代がこれだけ安くなりますというように、具体的な金額で示すと実行しやすくなるのでは?

鴨下  はい。そこで今、「私のチャレンジ宣言」という運動をやっています。これは、みなさんの身近なところでできる温暖化防止のメニューの中から「実践してみよう!」と思うものを選び、毎日の生活の中で1人1日1kgのCO2排出量削減を目指そうという取り組みです。

 一般にわれわれが生活する中で1日に出すCO2は1人6kgです。それは石炭でいうと2.5kgの塊を燃やしていることになる。それを1kg減らしてもらう。

 そのためには、電気を何時間つけているとCO2がどのくらい空気中に出るのか、といったことをイメージとして分かっていただくことが重要です。

――1kg削減というのは、無理なくできる数値なのですか?

鴨下  いや、かなり意識しないとできません。でも、何でもかんでも我慢してくださいというのは難しいですから、私が申し上げているのは、エアコンを自分の快適な温度にすることによって、南の島の海水面が上がるとか、北極の氷が溶けて白クマが困ることになるとか、想像力を働かせていただきたいということです。

――テレビや雑誌で北極の白クマの様子などを目にすると、地球温暖化が現実のものとして迫ってきていると肌で感じます。

鴨下  私は、今年の正月元旦からツバルに行きまして、実際に見てきました。本当に小さなサンゴ礁の島です。タロイモなどを栽培して暮らしているのですが、畑に海水がかぶってしまい作物もできない。大潮のときには床上まで浸水する……。彼らにとってそれは切実で深刻な問題です。

 ツバルの総面積は約26キロ平方メートル。品川区ほどの大きさだ。極端な気候変動により、海岸の侵食、高潮、干魃の被害が年々深刻化している。鴨下大臣は今年1月現地を視察。海水に浸った畑、浸水した建物、山積みにされたゴミ……。さまざまな問題を目の当たりにした

――温暖化は、私たちが豊かな暮らしをすることにより、地球規模で思いもよらない国や地域の人々、動物や植物にも迷惑をかけているのですね。

鴨下  バリ島でのCOP13で一番問題になったのはその点です。途上国や貧しい国の人たちに「地球環境が危ないから、あなたたちはもう石炭や石油を燃やしてくれるな」と言っても、「それは先進国の身勝手な理屈だ」と言われるとなかなか反論できません。先進国は産業革命以来200年間、そういうことをやって豊かになってきたわけですからね。

 しかし、みんなが自分たちだけ良ければいいという考えでは、地球の温暖化は必至です。大きな被害を出したカトリーヌのようなハリケーンが襲うかもしれないし、今まで作物が取れていたところが砂漠化するかもしれない。食糧不足が深刻になって、紛争が起こるかもしれない。

 地球上のすべての人が、地球環境についてもう一度考え直さなければいけない時代に入ったと言えるでしょう。

 ですから、新興工業国である中国やインドなども、環境問題をまったく無視して化石燃料をどんどん燃やし、空気を汚して、工業化して行くかというと、必ずしもそうはならないと思います。

省エネ技術で世界に貢献
環境立国として歩みを進める

――地球レベルで地球環境を考えるとき、日本はどのように世界に貢献できるのでしょうか。

鴨下  日本は2度のオイルショックを経験したおかげで、鉄鋼をはじめセメントや紙などをつくる省エネ技術は世界最先端を行っています。自動車も独自の発達をしてハイブリッドも生まれました。

 しかし、そういう技術を駆使して化石燃料などをなるべく使わずに、それでいて豊かに発展していく環境負荷の少ない社会かというと、日本は必ずしもトップではありません。社会のシステムやライフスタイルのあり方においては、北欧諸国などはとても優れていて、学ぶべき点がたくさんあります。

 ただ、われわれの持つ省エネ技術は世界トップレベルなのですから、きちんと世界に貢献しないといけないでしょう。

――確かに日本の省エネ技術は世界が必要としていますが、温室効果ガスの排出量が一番多いのは、日本の経済を支えている産業界です。

鴨下  環境問題は経済と表裏一体ですから、経済を損なわずに温室効果ガスを削減するのは容易ではありません。産業界がCO2削減に努力するのは当然ですが、一方で環境技術は、そのものが日本に富をもたらす戦略商品になる可能性もあるのです。日本にとって環境問題は、必ずしも経済のマイナスだけではないのです。

――では、省エネ技術というアドバンテージがあるうちに、もっともっと世界に貢献しなければなりませんね。

鴨下  日本が日本独自の文化や伝統を持つように、アジア、アフリカ、南アメリカ、それぞれのライフスタイルがあり、それぞれの価値観があります。それをお互いに尊重しあいながらも、経済などは共有しなければなりません。地域的伝統的な価値観と、グローバルな競争社会の中での価値観、その上手な配分を考えなければならない時期に入ってきたとつくづく感じます。

 日本は、今持っているさまざまな省エネ技術をもっと洗練させ、使いやすい技術にして世界に貢献し、その技術からまた富を得て豊かになる。これが日本がとるべき環境立国の立場だと思います。

[プロフィール参照]

<プロフィール>

かもした いちろう
1979(昭和54)年、日本大学大学院医学研究科修了。医学博士。1993(平成5)年、東京13区より衆議院議員に選出。厚生労働副大臣、衆議院厚生労働委員長などを歴任。当選5回。2007年8月より現職。

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