2008年10月20日号
商店街は、地域の
「安全・安心、環境、福祉」を担う
コミュニケーションの場

東京都商店街振興組合連合会理事長

桑島 俊彦

 商店街は、暮らしに必要なものを買うだけでなく、地域住民の交流の場であり、子どもの社会教育の場でもある。経営者の高齢化や過疎化によって、商店街は「シャッター通り」と言われるようになり、街全体の活気も失われている。数々の革新的な取り組みで知られる東京都商店街振興組合連合会理事長の桑島俊彦氏に、商店街復活のポイントや今後の役割などをうかがった。

(インタビュー/津久井 美智江)

世田谷から東京を変え、東京から日本を変える

――いまや全国1200以上の商店街に広がっているスタンプ・サービスですが、1965年に世田谷区の烏山商店街が始めた事業なのですね。

桑島  「烏山方式」といって、加盟店で買い物をするとスタンプ・シールがもらえ、それを貯めると買い物や預金、各種イベントに参加できるシステムです。ICカードを導入したのも日本で初めて。最近はエコに対する関心が高まってきましたので、2年前から環境や地域貢献をテーマにしたコミュニティ・ポイントを搭載しました。

子どもたちに絵を描いてもらい、フラッグギャラリーと称して商店街に飾っている。ご褒美はもちろんコミュニティ・ポイント。親はもちろん、おじいちゃんおばあちゃん、親戚の人も連れ立って見に来るという

子どもたちに絵を描いてもらい、フラッグギャラリーと称して商店街に飾っている。ご褒美はもちろんコミュニティ・ポイント。親はもちろん、おじいちゃんおばあちゃん、親戚の人も連れ立って見に来るという

 例えば、地域の清掃活動に参加したら「ボランティア・ポイント」、買い物の際にマイバッグを持参したら「ノー包装ポイント」、自転車を駐輪場に入れたら「マナーポイント」、ペットボトル回収に協力したら「エコポイント」、防災訓練に参加したら「安心・安全ポイント、それから、NPO法人“笑顔せたがや”に相談に来た方には「よろず相談ポイント」を差し上げています。

――相談料をいただくのではなく、ポイントを差し上げるのですか?

桑島  私は、商店街は“出会い、ふれあい、コミュニティの場”と捉えています。相談に訪れるということは、商店街を頼ってくれているということですから、ポイントを差し上げるのです。誰かに話を聞いてもらいたいという人は大勢います。商店街は比較的双方向で会話ができますから、家庭内の悩みなどを吐露する人が結構いるんですね。実際、すごく相談が多く、1年間で2000件くらいあるでしょうか。介護し続けて疲れたとか、深刻な相談もあります。

――話せる人がいる、話せる場所が商店街にあるのは、とても心強いことだと思います。

桑島  本当に皆さん、30分も話すと見事に癒されて、元気になって帰っていくんですよ。

コミュニティ・ポイントはスタンプとして買い物に使用できるほか、サッカーやコンサートなどのチケットとも交換できる

コミュニティ・ポイントはスタンプとして買い物に使用できるほか、サッカーやコンサートなどのチケットとも交換できる

 このコミュニティ・ポイントは、1万ポイントになると地域社会に貢献した証として、世田谷区長に表彰してもらうことになっています。1万ポイント貯めるには、10年はかかるでしょう。でも10年間、地域社会のために汗をかくということは大変なことです。行政からの表彰は、ご本人にとっても誇りでしょうし、貴重なことだと思います。

――世田谷の一商店街が、全国の商店街を変えているわけですね。

桑島  石原都知事は“東京から日本を変える”とおっしゃっていますが、私たちは“世田谷から東京を変える”と、いろいろやってきました。

 例えば、「商店街加入促進条例」を、04年、日本で初めて世田谷区でつくりました。商店街に加盟せず、イベントにも参加しないチェーン店などに商店街への加入を促すものですが、現在47の県と市で条例ができました。条例のある地域ではチェーン店などの70%が商店街に加入し、組合費負担率も50%になったそうです。

 商店街で商売をする人は、商店街に加入して協力するのは当たり前。企業市民として地域社会に参画するのは当然だと思います。

商店街が担う役割、これからのあるべき姿とは

――世田谷の産業が区民生活の質を高め、また、地域社会の発展に寄与するものとして、今年度から10ヵ年計画で「世田谷区産業ビジョン」ができました。商店街は、どのような役割を担っていくのでしょう。

ペットボトルの回収機を2台設置。回収機にカードを差し込むとポイントがつく。1日に2000本以上集まるという

ペットボトルの回収機を2台設置。回収機にカードを差し込むとポイントがつく。1日に2000本以上集まるという

桑島  ビジョンでは、商店街を「地域区民の日常の生活を支える公共的な役割を担う」と位置づけています。つまり、地域の安全・安心、環境、福祉、食育、それから子どもの社会教育、お年寄りの相談相手などを、商店街は担っていくということです。

 そのためには、商店街経営をしっかりやっていかなければならない。コミュニティ・ビジネスにするのか、それとも商店街企画会社にするのか―。株式会社的な組織をつくって、商店街をしっかりとコーディネートできるスキームづくりが大事だと思います。

 ただ、地域社会を経営していくには、商店街だけではどうにもなりませんから、町会、自治会、NPO、農業、工業、医師会……ありとあらゆる方々と協力しなければならない。その司令塔に商店街がなれないかと思っています。

――商店街は、住民の一番身近にあるわけですからね。

桑島  そのために、地域の担い手になる若者を育てようと、世田谷区では「商人塾」、東京都では「商店街大学」をつくりました。ところが若い人たちが育つには時間がかかる。間に合わないんですよ。

 今は、サラリーマンの方も楽じゃないですよね。独立して商売を始めようという中高年は結構いると思います。そういう人たちを商店街がどう受け入れるかが、重要になるのではないでしょうか。

 私は、商店街の活性化のカギは“よそ者、若者、ばか者、女性”と言っています。よそ者の人たちは客観性がありますから、新しい風を吹いてくれます。地元の土着の人たちは、その人たちに能力があったら、それを評価して温かく受け入れる。そうすると、先輩が温かく迎えてくれたということでおのずと長幼の序が生まれ、人間関係はうまくいきます。

 若者は、お客のニーズを的確に把握する柔軟性と積極性。ばか者というのは一生懸命汗をかく人、行動する人ですね。一番大事なのは女性です。お客様の8割は女性、店頭でお客様の相手をしている8割が女性なんですから。女性のニーズを的確に把握し、女性の知恵を生かすことで、商店街は活性化してくと思います。

――商店街振興の予算というのは、どれくらいあるのですか。

桑島  国全体の予算83兆円の予算のうち、農業には2兆6000億使われています。ところが商業は107億、日本の基幹産業である中小企業でも1900億です。2兆6000億対1900億対107億。桁が違います。

 東京都の場合は、都議会と行政の理解のもと「新元気出せ商店街事業」に25億円という予算をつけてくれました。2717の商店街がそれを活用し、80数%の商店街が活性化してきたと喜ばれています。

 しかし、いくら都や区市町村が一生懸命やってくれても3分の1は受益者負担なんです。ですからイベントをやりたい、賑わい創出をやりたいと思っても、3分の1は自分たちが負担しなければならない。現在の経済状況を考えると、非常に厳しいですよね。

 じゃあ、どうするか。商店街の街路灯にペナント広告を出してもらい、その収益を商店街経営の一助にするとか、3分の1の負担金に充ててはどうかと検討しているところです。もちろん、収入はすべて公共的役割に使うとか、広告も公序良俗に反するものとか、宗教や政治、その他いかがなものかというのはダメとか、しっかりした規定をつくってね。

 都は公共物に広告を出せない条例になっているので、条例の運用の緩和を求めているところです。

消費税率を上げる前に やるべきこと、できること

――消費税率のアップが政局になっていますが、当然商売にも影響しますよね。

桑島  1989年、竹下内閣のときに消費税3%を導入しました。それから1997年、橋本内閣のときに3%から5%に上げた。増収をもくろんで増税したわけですが、景気が失速し、結果として2度とも政府の税収は減ってしまいました。

 今の状況で消費税を上げれば、絶対に景気は良くなりません。

――家計のエンゲル係数みたいなもので、所得の低い人にとっては消費税の負担は重い。

桑島  小さなお店にとっても同じです。結局、売り上げが落ちますからね。経団連や一部の税制委員、政治家は、「外国では15%は当たり前、何で日本は5%なのか」と、簡単に消費税アップを言いますが、その前にやるべきことがある。それは行財政改革です。

 政府の出費を少なくする一例として、私は、明大前の商店街の「民間交番」と「ピースメーカーズ」を紹介しています。

 あるとき明大前の商店街の理事長から相談がありました。どうして駅前に交番ができないのかと。実は、駅から150mくらい離れた甲州街道の、ほとんど人も通らない陰に隠れたところに交番があるにはある。そこに交番があるがゆえに、距離制限があってつくれないんだそうです。

 できないなら仕方ないと、商店街で民間の交番をつくることになった。それからピースメーカーズと称して、5、6人の人がチームで1日2回地域を警邏することにした。

 民間ですから、現行犯以外は逮捕もできないんですよ。なんの権限もないのに、結果として、北沢警察署の管内で、それまでワースト1だった治安が、1年間でベスト1になったんです。

――治安が良くなったおかげで、明大前の資産価値が上がったとか。

桑島  土地の値段が14%くらい上がったそうです。周辺の資産価値が上がるということは地域住民にとってもいいことですからね。

 そこで注目されて、国家公安委員長や都の職員なども視察に来て、NHKでも報道され、今では全国で4万ヵ所もの自衛団による地域パトロール活動に広がりました。年間の経費はいくらだと思いますか。300万円ですよ。ちなみに交番を一つつくると、人件費も含めて1億だそうです。

 もちろん北沢警察署と連携はしているようですが、何の権限もない民間交番でもそれだけのことができるわけです。300万対1億の費用対効果を考えてもらわないと困ります。

 このように政府をスリム化して出費を抑え、国民総生産を上げれば税収も増えるはずです。両方あわせれば相当な金額になる。消費税を5、6%上げたに匹敵する結果が出るんじゃないでしょうか。

――アイデア次第でいろんなことができるのですね。

桑島  商店街には生活者の声が集まります。できなかったことをできるようにするのは政治の力ですから、そういう声をバックグラウンドにボトムアップを目指し、これからも行政に働きかけていきたいと思います。

<プロフィール>

くわじま としひこ
1941年、東京都生まれ。薬局・化粧品店「新生堂」社長。93年、烏山駅前通り商店街振興組合理事長、2001年、東京都商店街振興組合連合会理事長に就任。現在は、全国商店街振興組合連合会理事長、東京商工会議所常議員なども兼務。大規模店舗の郊外出店を規制する「まちづくり3法」改正や、チェーン店などの商店街加盟促進条例制定に尽力。全国の商店街に広がるスタンプ方式のモデルとなった「烏山方式」の生みの親でもある。

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