2008年10月20日号
〜My Life Work〜
仕事に命を賭けて Vol.8
消防法に定める
危険物か否かを判定
東京消防庁消防技術安全所
危険物質検証課 消防司令補
佐藤 和広

 文字通り、仕事に自分の命を賭けることもある人たちがいる。一般の人にはなかなか知られることのない彼らの仕事内容や日々の研鑽・努力にスポットを当て、仕事への情熱を探るシリーズ。

 今回は、渋谷区幡ヶ谷の東京消防庁消防技術安全所・危険物質検証課に勤務する佐藤和広・消防司令補。第2回で紹介した調査課と連携して火災鑑定をしたり、危険物課からの依頼を受けて危険物の判定試験を行う。また、各種の検証も職務とする、縁の下の力持ちの活躍をご紹介したい。

(取材/袴田宜伸)


多重交通事故現場での活動。危険物の流出による二次災害を防止するために、可燃性ガスを測定し、消防活動を支援

 消防技術安全所が設置されたのは2006年4月。消防器具などの研究開発を軸にしていた消防科学研究所が前身だが、名称変更・組織改革に伴い、職務内容も時代のニーズに合わせて改変された。

 消防技術課、装備安全課、活動安全課、そして危険物質検証課の4課からなり、都民の安心・安全を守ることを第一に、最前線で活動する隊員や職員の要望を聞き入れ、より安全で効果的な活動ができるよう、さまざまな案件を検証することが職務の柱だ。

 危険物質検証課が現在、検証課題としているのは、道路上に漏れたガソリンなどを吸着させる油処理剤。従来使用してきたものは風が吹くと飛散して目に入ることがあるため、市場調査をして代替品を探し、その使い勝手を検証している。

 このほか、金属粉の火災時には乾燥砂をかけて消火するが、特殊な金属粉の火災には乾燥砂が適さない場合もあるので、乾燥砂の有効性を検証したり、新たに開発された金属消火器具の検証をすることも検証課題の1つ。

 また、残火処理時や火災調査時に舞う粉塵が消防隊員や住民にどのような影響をもたらすかも検証している。

 こうした検証以外に職務の柱となっているのが、危険物の判定・確認試験。

 危険物の判定では、立入検査時に危険物と疑わしい物品について、消防法に定める危険物に該当するか否かの試験を実施する。

 さらに、放火の立証のために焼損物に可燃性の液体が含まれているか否かを分析する、火災鑑定も大きな仕事。まさに現場を支える縁の下の力持ちだ。

 これまで佐藤司令補はポンプ隊員として多くの消火活動を行い、調査課時代には地下鉄サリン事件の現場にも出動。「いろいろな因縁がある」新宿歌舞伎町ビル火災では現場の図面製作を担当した。

 「火事の精神的なショックで人が崩れる場面も何度も目にしてきた」と振り返るが、そうした経験から今の職務をこう語る。

 「現場や火災調査の苦労を知っているからこそ、自分の職務が火災の原因究明をするうえでいかに重要かを実感しています。ですから『慣れてきた時にこそ初心に返れ』という上司の教えを肝に銘じ、一生懸命職務に取り組んでいます」

機械が出した分析結果をいかに咀嚼するかが大事

道路脇の未知の物質を収去し、消防技術安全所に持ち帰って分析。その結果を現場にフィードバックする

 火災鑑定の件数は、年に約90件。1件につき複数の分析を依頼されることも度々で、1つの分析が終わるまでには早くて1日、長ければ1週間以上を要し、昨年は3カ月かかったものもあった。

 毎日、同時に多数の分析を行う計算になるが、大変なのはそればかりではない。

 「分析というと機械に入れてスイッチを押せば済むように思われがちですが、試料の前処理や分析機器の調整など人の手を加える必要があります。それに、機械が分析を終えても、そこには答えがないことが多いのです」

 佐藤司令補は、少し間を置いて続けた。

 「機械が出す答えは、あくまで1つの指標。分析結果をいかに咀嚼するかが大事で、それによって正しい答えが出る。単なるルーティンワークでは通用しません。それが大変な部分ですが、毎回違うパズルを解くような感じでもあるので、そこに面白さがあったり、結果が火災調査に貢献できることにやりがいを感じています」

 入庁後、横浜国立大学で委託研修した際、印象に残っている教授の教えが「ひらめきが大切。ひらめきさえあれば道は拓ける」。それを思い出すように佐藤司令補は話す。

 「今の職務にもひらめきが必要ですが、それを生み出すのは探求心。いくら知識があってもそれだけではダメで、自分としては、火災調査などでこれまでに培ったものが活きていると感じています」

危険物流出等の事故原因調査を支援

更新された電子顕微鏡を使っての分析作業

 仕事上で大切にしていることは「懇切・丁寧・親身になって都民に接すること」「日々精進、日々勉強」。

 最近、電子顕微鏡などの分析機器が更新され、「使いこなせるようになるまでが大変」と口にしながらも「それもまた勉強」と、面白さを感じている。

 「最初はわからなくても勉強していれば突然、パッと開けてわかるようになるものです。今年から危険物流出等の事故原因調査が消防の職務に加わったので、電子顕微鏡をフルに活用して調査を支援していきたいです」

 幼少の頃、避難訓練で消防隊員に抱えられた時の腕の力強さが印象強く、それが一つのきっかけとなって歩んできた消防の道。佐藤司令補はこれからも多くのことを学びながら、その道を確かな足取りで歩み続ける。


[プロフィール参照]

<プロフィール>

1963年、東京都生まれ。東邦大学卒業後、東京消防庁へ入庁し、ポンプ隊員として成城消防署に配属される。以後、調査課や査察課などを経て、2008年4月より現職

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