レーザ照射で錆や劣化塗膜を除去
安全面も配慮し女性でも操作可能
古河電工が生み出した「インフラレーザ®」とは、同社が培ってきた光ファイバ通信技術を応用して、金属の劣化部や錆を取り除く「レーザブラスト」技術を活用し、金属の錆や劣化部分を除去する新製品だ。百聞は一見に如かず。その技術開発を担う「インフラレーザ®ラボ」のある同社千葉事業所で、実際の様子を見学した。
女性スタッフが手に取ったのは、ガンタイプの照射装置。そこからレーザが照射され、ゆっくりと錆がついた茶色の板をなぞっていくと、照射したところから色が変化し、金属の地肌の色が綺麗に現れてくる。そこに粉末やゴミなどは確認できない。スタッフはレーザ用の遮光ゴーグルと防塵マスクはしているが、他は日常の作業着と変わらなかった。
実際に装置を手に取ってみると、男性記者の私であれば、少し重みを感じるものの片手でも操作できそう。実演した女性スタッフは両手で操作したが、さほど負荷はかかっていないようだった。
「これまで、船舶の壁面や鉄橋などのインフラの錆や古い塗装の除去作業は、男性でも危険な作業でした。しかし、この製品を用いることで、飛躍的に安全性が高まると思います」
同社営業統括本部レーザ応用事業部レーザ応用2部賀屋秀介(かやしゅうすけ)部長は、静かな物腰ながら自信をもって語る。
この錆や劣化部を除去するのは、「インフラレーザ®」の持つ「レーザブラスト」技術である。レーザを錆のある部分に照射すると、錆部分が昇華しプラズマが発生。あわせて照射部には微小な衝撃波が発生し、その衝撃波により物理的な残渣を吸収する。一方、錆の下にある金属母体に影響があるかというと、レーザ吸収閾値(しきいち)が異なるため、ダメージを与えることはないと、同部技術課梅野和行課長は解説する。
「この閾値の違いによって母体にダメージを与えないということが、当社独自の技術最大の強みの一つです。そして、レーザ照射のため、平面だけでなくボルト周りなど複雑な面でもきれいに錆を除去することが可能です」

「インフラレーザ®」を実際に使用すると、その錆除去の効果は一目瞭然だ

下部がレーザを照射した部分
日本の光ファイバ通信の草創期を担った技術で
インフラ整備という社会課題解決に挑戦
古河電工は、日本の光ファイバ通信の草創期である1970年代後半から技術の共同開発を開始。世界初のフィールド実験に成功したことはご存知の方もいるだろう。その技術はその後、通信インフラとして普及。1990年代以降は、長距離通信実現に向けて機能性光ファイバ、光増幅器、光源に使用する半導体などの研究開発を推進し、今日に至る光ファイバ通信技術の根幹を形成してきた。
2000年代に入り、こうした技術を集結し、高出力かつ品質の良い光ファイバレーザの開発、製品化を進めてきた。それを担うのが、「インフラレーザ®」を担当するレーザ応用事業部であり、その技術を応用し社会課題を解決するための事業創出に取り組んできたのだ。
これまでのインフラ整備における表面剥離作業は、「ディスクサンダー」と呼ばれる研磨機で削り取る、あるいは剥離剤など薬品を用いる方法、または「サンドブラスト」という研削材を表面にぶつけて削る「ブラスト工法」などがあるが、いわゆる「3K」と呼ばれる作業に分類され、労働環境の改善が求められてきた。また、環境面でも課題が指摘されていた。
「インフラレーザ®」を導入すれば、これらの課題が改善できると、同課齊藤愛実(まなみ)グループリーダーは言う。
「研磨機は振動と粉塵により、腕、肺や心臓などに負荷をかけると言われていました。剥離材は薬剤を吸引することで健康被害や火災被害も出ています。ブラスト工法は作業後の残渣が産業廃棄物として残ることが課題でした。
『インフラレーザ®』は、まず原料が不要で、残渣が出ず産業廃棄物が生まれません。また、振動もなく作業者に負荷もかかりません。さらに塩分除去効果もあるので、作業後の『戻り錆』予防の効果もあります。もちろん、レーザ自体の安全性も確保し、厚労省通達の指針およびISOにも準拠しています」

船体表面の錆をレーザで除去する様子
(提供:古河電気工業)
小型化、DXでオンライン管理&支援も
下水道などインフラ維持に貢献したい
操作性も特徴の一つだ。従来の作業技術は免許が必要だが、「インフラレーザ®」は一連のレクチャーを受けることで誰でも使用可能。レーザを発生する機器本体も、さまざまな場所に導入しやすいようコンパクトさを重視。第一弾としてリリースした700Wの設置型でも小型化を実現しているが、2025年5月に受注を開始した1kWタイプは、さらに小型化を進め、船舶等への持ち込み、移動を可能にした。
さらにDXにも対応し、LTE通信を用いて作業現場の情報をクラウドで管理。稼働状況の可視化やメンテナンス状況を把握することが可能で、オンラインによるサポートも提供している。
加えて、作業コストも従来の工法に比べて格段に安くできると、前出の賀屋部長は言い切る。
「機器の導入にはコストがかかりますが、原料が必要なく、費用はほぼ電気代のみで、小型化により輸送コストもかかりません。今後はレンタルでの提供に加え、小型ロボットやドローンを導入した無人化も進めており、一層のコストダウンに貢献できると考えます」
2024年より鉄道の車両やレール、船舶壁面、老朽化した鉄橋など、陸海のさまざまなインフラの現場で実証実験を開始し、その効果を立証してきた。今後はさらに幅広い活用の場を探し、老朽化する社会インフラ維持の役に立ちたいと賀屋部長は語る。
「近年、道路の陥没で注目された下水道配管の錆の除去や、発電所の送電鉄塔、風力発電や太陽光発電施設など、活用できる場所はまだまだあると思います。私たちも常にアンテナを張っていますが、ぜひこの技術を活用してみたいというインフラ管理関係者の方は、遠慮なくご連絡ください。我々がラボから機器を持ってすぐに検証に伺います」

「インフラレーザ®」の開発および推進を行う、営業統括本部レーザ応用事業部レーザ応用2部のみなさん。前列中央が賀屋秀介部長、左が同部技術課の梅野和行課長、右が齊藤愛実グループリーダー