基本となる4つの機能の画面(提供:東急)

基本となる4つの機能の画面 (提供:東急)

掲示板、譲渡、相談、スポット紹介
4つの機能で地域の「今」を共有

『common』は大きく4つの機能から構成される。

一つ目は「投稿機能」。いわゆる「街の掲示板」として、イベントなどの最新情報から、不審者情報など地域の防犯につながる情報なども共有できる。投稿は誰でも匿名で行うことができる。

二つ目は「譲渡機能」。子育てで不要になった洋服や引っ越しで処分したい家具や電化製品などの情報を共有し、地域内で譲渡を行うことができる。譲渡する物品の交換は『common box』という沿線内に設置した専用ボックスの使用が可能だ。この機能を利用する場合には、本人確認が求められる。

三つ目は「相談機能」。子育てについて相談できるママ友が欲しい、介護について地域の繋がりが欲しいなど、プライバシーに関わる内容を個別に相談、情報共有することができる。これも本人確認が必要だ。

四つ目は「スポット機能」。沿線に暮らす人たち自身が史跡や施設、飲食店などの情報を共有し、独自のデジタルマップを作ることができる。投稿する場合は本人確認が必須だ。

2019年リリース当初は対象エリアを二子玉川に限定、「投稿機能」のみでスタートしたが、徐々に他の3機能を追加し、エリアも東急沿線から周辺沿線にまで拡大。2026年3月現在、アプリのダウンロード数は24万件を超え、累計登録者数は約15万人に達した。

こだわったのは、地域住民が「当たり前に使える」プラットフォームにすることだ。そのため、あえて「駅」という実際の生活圏を単位とした。また、「投稿機能」は匿名としてハードルを下げながら、「譲渡」「相談」と信頼関係が前提となる機能には本人確認を設け、同じ地域に住む人同士の「顔」の見える安心感をもたせた。さらに、投稿にはルールを設定し、定期的に検閲を行い、誹謗中傷によるトラブルが起こらない環境づくりも徹底した。

『common』の構想段階から事業立ち上げ、現在の運用まで行う、デジタルプラットフォームデジタル戦略グループの小林乙哉参事は、そのこだわりを強調する。

「本人確認や検閲は、正直コストがかかりますが、安全・安心を優先しました。また、デザインも安心感を感じてもらえるよう、シンプルでありながら温かみを重要視しました」

譲渡機能の交換場所として設置が広がる「common box」。2026年3月現在東急沿線に20カ所設置されている(提供:東急)

譲渡機能の交換場所として設置が広がる「common box」。2026年3月現在東急沿線に20カ所設置されている(提供:東急)

「City as a Service」を目指し
デジタルを生かした地域プラットフォーム

デジタルツールであるため、利用者の中心は若年世代を連想しそうだが、『common』は30?40代の子育て層、50?60代のシニア層が主軸だという。

「悩み、譲渡など子育てをする主婦層が利用しやすい機能をしっかり持たせたことの影響でしょうか。また、子育てや住宅購入をすることで自分のまちに愛着が生まれる傾向もあるようで、そうした意識が醸成され、よりこのアプリの良さを感じてもらえるのかもしれません」

すでにSNSというデジタルプラットフォームが社会全体に普及した今、あえて同社が『common』を始めた背景を、小林参事はこう振り返る。

「弊社は2019年、長期経営計画を発表し、交通、都市開発をしてきたオフラインの強みを生かしながら、デジタルを融合させることでウェルビーイング、持続可能性のあるまちづくりを目指し、『City as a Service』というコンセプトを打ち出しました。そうしたDX構想を強化しようとしたときに、新型コロナウイルスの感染拡大が起こり、外に出られない環境の中で、地域内の人と人とのコミュニケーションを促進することが求められる状況になりました。すでにSNSなどコミュニケーションツールは普及し、『common』のような地域特化型のサービスも存在していましたが、成功事例は存在しませんでしたので、東急というリアルなまちづくりをする企業の強みを生かしてできることがあると考え、『common』の構想が形成されていきました」

開発を後押ししたのが、東急沿線に留まらない、まちづくりの機能不足の問題だ。本来、まちづくりは自治体が主体となって担うものだが、人口減少が進み税収も減少すれば、その機能は低下せざるを得ない。同時に、町会や自治会などの地域内縁故も弱まっていくことも避けられない。そんな状況下、新たな担い手の裾野の拡大に『common』が貢献できる可能性が見えてきたのだ。

武蔵野市と連携して現在本格始動している「市民目安箱」。吉祥寺、三鷹、武蔵境エリアの投稿タイムライン上部に設置。市に対するアイデアや提案などを投稿すると、定期的に市に情報共有するだけでなく、市長からコメントをもらえるサービスも開始した(提供:東急)

武蔵野市と連携して現在本格始動している「市民目安箱」。吉祥寺、三鷹、武蔵境エリアの投稿タイムライン上部に設置。市に対するアイデアや提案などを投稿すると、定期的に市に情報共有するだけでなく、市長からコメントをもらえるサービスも開始した
(提供:東急)

自治体との連携事例も増加
AIも活用し有益な地域情報を共有

「地域行政の重要な役割の一つに、住民の要望を吸い上げ、サービスに生かすことがあります。その情報収集のプラットフォームとして、地域特化型の『common』は適していると思います。また、地域内には時間や問題意識があるけれど、まちづくりに関わるきっかけがないフリーランス、シニア層が一定数いて、それを『common』により顕在化し、きっかけを提供することで、自治体などに代わる新たな担い手として育てていくこともできると考えます」

自治体側も『common』の機能性に注目し、2023年には座間市で「譲渡機能」を活用した社会実験を実施。2024年7月には武蔵野市と締結し、「投稿機能」を用いた「市民目安箱」の社会実験を開始、2025年9月から本格始動している。そして同年6月には世田谷区と協定締結し、同区内28カ所ある「まちづくりセンター」での情報発信に加え、区庁舎内に『common box』の設置を開始した。

小林参事とともに『common』を担当する小林晃久主事は、この実績をもとにさらに自治体の事例を増やし、このアプリを社会インフラとして定着させていきたいと意気込む。

「私は昨年入社したばかりですが、前職で地域の社会インフラに関わる仕事をしており、それをさらに突き詰めたくて弊社に転職しました。『common』は目安箱などこれまでにない発想のサービスを提供できるだけでなく、まだ発展途上でバージョンアップさせる面白さもあり、さまざまな地域を支える仕組みづくりに貢献できると思っています」

小林参事は、『common』自体の機能性の向上にも力を入れていきたいと語る。

「現状はまだまだインフラというには遠い状況です。沿線にはまだ地域の人が知るべき有益な情報や、悩み事などが集積しており、AIなどを活用して『common』で迅速かつ効率よく集め、共有できる仕組みを構築していき、利用者の裾野を広げていきたいです。自治体にとどまらず、交通機関や商業施設など外部との連携も増やし、リアルとデジタルを融合した、地域にとって必要とされる情報プラットフォームに育てていきたいと思います」