競技会場の消毒をするフィールドキャスト
コロナ禍での献身的な活動が称賛
史上初の1年延期、厳格なコロナ対策。コロナ禍の影響を受けたのはアスリートだけではなく、ボランティアも同じだ。転勤や進学など生活環境の変化、感染拡大への不安などから、ボランティア活動をやむなく辞退する人もいた。
それでも、大会の本番には7万970人のフィールドキャスト(大会ボランティア)、1万1913人のシティキャスト(都市ボランティア)、合わせて8万人を超えるボランティアが集まり、それぞれのフィールドで活躍した。
大会は、世界で30億人超がテレビ等を通じて観戦。インターネット配信の再生回数は、280億回にも上ったという。競技会場は無観客だったが、画面を通じて世界中の観客が声援を送った。
その画面には、コートに落ちた選手の汗を拭き、競技用具を消毒するボランティアの姿がたびたび映し出された。その献身的な活動は世界の人々を魅了し、選手からの感謝の声をはじめ、SNSなどを通じて世界中から称賛の声が寄せられた。
大会応援メッセージで使用した折り紙を紹介する石﨑さん(中央)
有明アーバンスポーツパーク(仮称)の整備
多くの会場が無観客となる中、競技会場周辺や主要駅、ライブサイト等で活動するシティキャストは、当初想定していた観客の案内が難しくなるなど、その影響は大きかった。
東京都は、そうした状況を受け、新たな活動内容を検討するため、シティキャストの意見をヒアリングした。すると「現場で活動したい」、「応援メッセージを届けたい」、「オンラインで活動したい」など、意欲的な声が多く寄せられたという。
そうした声を受けて、東京都は、羽田空港における選手のお迎え等の現場での活動に加え、オンラインでの大会応援メッセージの発信や東京の魅力発信などを企画。1万人を超える人が活動した。
シティキャストの石﨑さんは、大会応援メッセージを届ける活動に参加した。石﨑さんは、東京都メディアセンターでの「シティキャストインタビュー」に出演し、自身が送った大会応援メッセージを「宝物」だと活動を振り返った。
また、ボランティアの魅力として「素晴らしい仲間からの刺激」、「チームで活動することによる一人では得られない達成感」、「活動による充実感」の3つを挙げた。他のシティキャストも、「新しい仲間ができ、自分自身が成長できること」が最大の魅力であり、活動を継続する原動力になっていると口を揃えた。
石﨑さんは、今後の活動についても「環境問題や今まで続けてきた子供に向けての活動を、今回の東京2020大会で学んだことを活かしてこれからも続けていければ」と、意気込みを語る。
大会後、東京都がシティキャストに行ったアンケート調査によると、今後もボランティア活動に「積極的に参加したい」、「機会があれば参加したい」と答えた人は、全体の96%超に上ったという。
大会で盛り上がったボランティア活動への機運を一過性のものとしてはならない。東京都が実現を目指す「未来の東京」においても、人と人が理解し合い共に暮らす「段差のない社会」に価値を見出している。その実現に当たっては、人と人のつながり、支え合いの輪をさらに広げ、ボランティアが日常に溶け込んだ社会をつくっていくことが求められる。
昨年11月、東京都と東京都つながり創生財団は、ボランティア向けのサイト「東京ボランティアレガシーネットワーク」を開設した。サイトのコンセプトは、「選べる・学べる・交流できる」。サイトでは、スポーツのみならず福祉や防災、観光など様々なボランティア情報にアクセスできる。
さらに、ユーザー登録をすると、ボランティア体験談の投稿や興味・関心のあるボランティア団体のフォロー、ユーザー同士のコミュニケーションができるコンテンツの利用などができるようになる。ボランティア初心者でも気軽に登録でき、サイト上で新しい仲間とつながることができるのが大きな特徴だ。
サイトの登録者は、既に8000人を超えた。大会を契機に培われたボランティア精神・支え合いの心が社会に根付き、次の時代へとつながっていくことを期待する。
東京ボランティアレガシーネットワーク
大会の経験をレガシーに より良い未来へ
世界では今、脱炭素化やデジタル化の流れが急速に進展しようとしている。東京も時代の流れに乗り遅れるわけにはいかない。
東京都は、昨年3月に策定した「『未来の東京』戦略」の実行を通じて、「成長」と「成熟」が両立した持続可能な都市の実現を目指している。戦略はつくって終わりではなく、実行こそが重要だ。そのためにも、時代の状況に応じて内容をバージョンアップする必要がある。
先月4日、東京都は「『未来の東京』戦略 version up 2022」を公表した。大会のレガシーをいかにして発展させ、どのように都市を進化させていくのか。次号では、東京が目指す将来の都市の姿を見ていきたい。