服は自信を与えてくれるパートナー

  • インタビュー:津久井 美智江  撮影:宮田 知明

Princess Hiromi(プリンセス・ヒロミ) デザイナー 島津 洋美さん

 子供の頃から服が好きだった。ニューヨークの弁護士時代には、自らスタイリストをつけてTPOの着こなしを研究するほど。大手アパレルメーカーに職を転じ、海外ブランド戦略を手がけた後、自らブランドを立ち上げた。フェミニンでいて凛とした服が、多くのキャリアウーマンに支持されているPrincess Hiromiデザイナー、島津洋美さんにお話をうかがった。

弁護士時代からスタイリストをつけ、給料の大半をスタイリストと洋服につぎ込む。

—もともとニューヨークで弁護士をされていたそうですね。

島津 幼い時から父に「男尊女卑な日本から出て、アメリカに行って弁護士になれ」と言われて育ったんですね。うちは女性でもすごく教育を重んじる家系で、手に職をつけるということはいつも言われていました。

 最初は、実は外交官になりたいと思ってジョージタウン大学に行ったんです。そこで私はあまり外交官向きじゃないと感じて、エコノミクスとか国際政治を勉強したんですが、父が弁護士、弁護士と言うので、経済を支える法律もあるかと(笑)。ですからワシントンにある連邦取引委員会で最初のインターンをやったんです。法律が経済理論に沿ってつくられているかとか、どうあるべきかについて意見も書けて、すごく充実していました。

 でも、いざ卒業して法律事務所に入ったら、思っていたよりも細かいことばかり求められておもしろくない。ネガティブなことを予想しなければならないところも、向きませんでした。もちろん、クライアントを守るためなんですが、ちょっと違うなと1年半でやめたんです。それで、ビジネスに転向しようと思い、コロンビア・ビジネススクールに入ってMBAをとりました。

—具体的にはどんなことがしたかったのですか。

島津 ファッション業界のビジネスコンサルティングです。ファームに入ってファッション業界に特化するか、あるいはファッション業界に入って戦略をやるかですが、まずはビジネスコンサルティングに入っていろんな業種をやってみようと思い、国際的なファッション会社の求人に申し込みました。

 募集内容はファイナンスの仕事ということだったんですが、PRとかマーケティングはどうかというオファーがあり、次の面談でアジア全部を見て欲しいということになって、そこに入ることにしました。でも、その会社がすぐにリズクレボーンという会社に買収され、私もそちらに行くことになったんです。

—自分でデザインするようになったきっかけは? 

島津 私はとにかく服が好きなんですね。日本人で小柄ですし、弁護士になったのは24歳くらいですから、すごく若く見えてしまいます。デキる弁護士に見られたいということもあって、弁護士時代からスタイリストをつけて、給料の大半をスタイリストと洋服につぎ込んでいました。

 でも、あるブランドをずっと着たいかというとそうではないんですね。それで、ショールームに行く時はもちろんそのデザイナーのものを着ますが、それ以外の時は、自分でデザインをしてテーラーに作らせたり、パタンナーを雇って作らせたりして、オリジナルの服を着るようになったんです。

 私はクリエイティブサイドではなくビジネスサイドの人間です。自分でデザインしたとはあまり言いたくなかったんですね。別にそれは隠すべきことではないんですが、やはりちょっと気恥ずかしいというか……。だから、これは母のビンテージとか、オートクチュールと言って、自分でデザインしたものとは言っていなかったんです。

海外MBAを持つ人たちを対象に行われている朝の勉強会で講演

女性らしさはあっても凛としている そんな服を作ろうと決意。

—なぜ人のために洋服を作ることになったのですか。

島津 私は自分の楽しみのために洋服を作っていたんですが、海外出張の際に自分のデザインした服を持って行ったり、パタンナーにデザインを渡して作ってもらったりしていたら、「それいいわね、私のも作ってよ」と友だちに言われるようになって……。でも、サイズの違う人のものを作るのは本当に大変だから、どうやったらいいかもわからないし、聞いてないふりをしていたんですね。

—自分には似合うかもしれませんが、友だちは違いますものね。

島津 スタイリストをつけている時、自分に似合う服ということ以外にも、どんな人にどんなものが似合うのかということを勉強していたんですね。それで、友だちに着せてみたらすごく似合って、とても喜んでくれたんです。これは人のためになることかもしれないと思い、ブランドを立ち上げることにしました。

 それから、私は仕事柄、同僚やボスと日本やアジアにミーティングに来ることが多かったんですね。その時、日本の管理職の女性たちと会っても、管理職だとわかってもらえないケースが非常に多かったんですよ。皆さん、すごく優秀なのに、ただジャケットを着ていないだけ、ただカジュアルにしているだけでアシスタントに思われるなんて、いやだなと思ったんです。

 それは、もしかして働く大人の女性が着たい服がないんじゃないかと思って皆さんにうかがうと、「実は、会社に着て行く尊厳があって素敵な服があまりない」と言うんですね。それで、男性スーツの女性バージョンではなく、フェミニンすぎず、女性らしさはあっても凛としたところがある服、これを作ろうと決意しました。

—Princess Hiromi の特徴はどういうところですか。

島津 まずは、立体裁断のモダンなカッティング、それでいてクラシックでトレンドに左右されず、かつ体形をカバーするデザインです。私は女性がいちばんきれいに見えるのはノースリーブだと思っているんです。でも、日本人は、実際は細いのに、腕が太いと気にされる方が多い。それで私は、例えば肩上のところに裃みたいに布を持ってきて腕が細く見えるノースリーブを考えました。

 それから、プリント柄を作る時わざと半分白く残して、全体のシルエットを細く長く見えるようにするとか、ウエスト位置を上にして足が長く見えるようにするとか、脇のダーツを工夫して、胸がない人はあるように、胸がすごくある人は形がきれいに見えるようにするとか、女性の悩みをカバーするようにしています。

—とても興味があります。どちらで買えるのですか。

島津 店舗展開はしていなくて、デパートやセレクトショップで毎シーズンイベントを行っています。ファッション業界はだいたい春夏、秋冬に分かれているのですが、直近では10月9日から23日まで松屋銀座2階のHP France Boutique で Princess Hiromi 新作AW2019フェアを開催します。12日から14日は私が店頭でアドバイスをしますので、ぜひいらしてください。

松屋銀座2階のHP France Boutiqueで開催したフェアの様子

ファッションはその人の思想であり表現。もっと女性であることを楽しんでほしい。

—主なターゲットは?

島津 日本の働く女性ですね。

 出張でいろんな国に行ったり、プレゼンをしたり、ミーティングをしたり、また、バケーションに行ったり、ウィークエンドを楽しんだりという経験をして、いろんな場面でフェミニンでかっこよくということを追求してきた人がデザインしているブランドは少ないと思います。そこがPrincess Hiromiのポイントでしょうか。

—デザインはいつ考えるのですか。

島津 私は布を見た時ですかね。その布と対話をするみたいな感じでデザインが決まっていきます。これはジャケットにしようとか、これはこういうドレーピングにしようとか、バイアスにしようとか。物作りは本当に大変です。でもやっぱり好きだからできるんだと思いますね。

—素材にもこだわっているそうですね。

島津 はい。日本人は生まれた時から化学繊維がまわりにたくさんあるので、化学繊維がいいと思うようですが、世界的には天然素材が好まれます。人間にも優しいし、環境にも優しいので、私はなるべく天然素材のいいウール、いいコットン、いいシルクを探して、使うようにしています。

 ただ、日本は合繊のメッカですから、やはりすばらしい合繊があります。ですので、天然素材と合繊のいいとこ取りをしようと思って、石川県の優れた機屋さんとコラボしたりもしています。それからプリントの技術もすごく高いので、私のオリジナルのプリントも日本の優秀な技術のあるプリント工場にお願いしています。

—これからPrincess Hiromiをどのようにしていきたいですか。

島津 今までは物作りに重点をおいていたので、これからはPRに力を入れて、もっと多くの女性にPrincess Hiromiを知ってほしいと思っています。

 働く女性はもちろんですが、自分らしい大人の服を着たい方たちに、モダンでクラシックで、どこに行っても一目おかれる感覚を味わってほしい。いい素材で、いいカッティングで、体形がきれいに見えて、飽きがこない、自分らしいものを広めていきたいと思っています。

 服がいいと自信を持って行動できるじゃないですか。私は服を通して女性の背中を押そうと思ってブランドを立ち上げたんですね。服はいいパートナーとして考えていただければ嬉しいですね。

—やはりパンツよりスカートですか。

島津 女性がスカートをはくというのは、それなりにパワーがありますからね。実際、私は前職の時、よくパンツスーツを着ていたんです。ところがスカートをはいていくと、取引先の社長が「今日は何か言うことがあるな」と緊張感を持ってくださる。それくらい違うんです。

 それに、スカートははいていないと、はけなくなってしまいます。ヒールもちゃんとはけなくなるし、足もちゃんとそろえられなくなる。リハビリが必要になってしまうんですよ。

—全くそのとおり(笑)。

島津 私の同級生に会っても、足を出したくないとか、絶対に腕を出さないと聞くと、ちょっと残念に思います。女性であることを楽しまないと。

 日本の方たちには、もっと女性であることを楽しんでいただきたいと思います。ファッションはその人の思想であり、表現なんですから。

(インタビュー/津久井 美智江)

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