第65回 南イタリアの人々に愛されるサボテンの実“フィーキ・ディンディア” (2)

  • 記事:加藤 麗

皮を剥いた果実は、そのまま食べるほか、蜂蜜と砕いたピスタチオや生のアーモンドをまぶして食べる

 先月にひき続き、南イタリアのウチワサボテンの実、フィーキ・ディンディアの話題です。

 サボテンなだけあって、肉眼では見えないほど細かい無数のトゲを有するのがこの実の特徴。サボテンは一度傷を負うと再生しないため機械での収穫はできず、果実はひとつひとつ手摘みされます。40℃を越す真夏の灼熱の太陽のもと、重厚なビニール製の防護服に厚手の長手袋と、重装備の男性たちが木製のはしごに登り、高さ4〜5mにまで成長するサボテンに実る果実を収穫します。実は工場に運ばれ、特殊なブラシで表面の細かいトゲをできる限り取り除いてから出荷されます。

 南イタリアで暮らしていた頃、働いていたレストランの厨房にフィーキ・ディンディアが届くことがありました。届くたびに、まるで小さな子供に注意するかのように「危ないから、絶対に触っちゃだめだよ」と念を押されていました。しかし、たまたま落ちていたトゲに触れてしまい、いつまでも「チクチク」ということもしばしば。その店では、決まって年配の皿洗いの女性が慣れた手つきで、皮を器用に剥いていました。決して、素手で実に触れることはなく、フォークで実を固定し、実の両サイドに切り込みを入れ、皮に沿ってナイフを入れ中の果実をくるりと取り出します。

 ちょっと信じられない話ですが、収穫作業をする男性たちのなかには、Tシャツ1枚、ほぼ素手で収穫をする強者たちもいるのだそう。彼ら曰く、「トゲの痛みは始めの3日間で、その後、人の皮膚はトゲに慣れる」のだとか……。

 ミネラル分をはじめ、豊富な栄養素を含むフィーキ・ディンディアは、第二次大戦中の食糧難の際の貴重な栄養源のひとつでもありました。薪を燃し熾火の状態にして、木箱に並べた完熟の実を約24時間乾燥。乾燥により実が縮み、甘みが凝縮、保存がきくので兵士にも持たせていたのだそう。戦争を体験した高齢者の方々によってそう語られてきましたが、残念ながら現代では、その製法を再現できる人はいなくなってしまったということです。

加藤 麗 かとう・うらら(旧姓 大庭)

加藤麗東京都生まれ。2001年渡伊。I.C.I.F(外国人の料理人のためのイタリア料理研修機関)にてディプロマ取得。イタリア北部、南部のミシュラン1つ星リストランテ、イタリア中部のミシュラン2つ星リストランテにて修業。05年帰国。06年より吉祥寺にて『イル・クッキアイオ イタリア料理教室』を主宰。イタリア伝統料理を中心に、イタリアらしい現地の味を忠実に再現した料理を提案し、好評を博している。

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