スーパーフード海苔のストーリーを全部伝えたい。

  • インタビュー:津久井 美智江  撮影:宮田 知明

株式会社NUMATA HARUO SHOTEN
ぬま田海苔4代目当主 沼田 晶一朗さん

 17年間勤めたアパレルブランドを辞めて、実家の海苔屋を継いだのは2年前。全くの畑違いと思いきや、物を売るのは同じこと、商品の価値、つまりストーリーを伝えるためにどれだけ提案ができるかだときっぱり。“有明産の初摘み海苔”にこだわる株式会社NUMATA HARUO SHOTENぬま田海苔4代目当主、沼田晶一朗さんにお話をうかがった。

海と山の栄養を最初に吸収して育った有明産の初摘みの海苔にこだわる。

—かつて東京湾でも海苔が作られていましたが、その頃から海苔屋を営んでいらしたのですか。

沼田 はい。私の祖父が1937(昭和12)年に海苔と鰹節の店「沼田治雄商店」を川崎で開業しました。今の社名は当時の店名をアルファベットにしたもので、母が代表を務め、私がこの店舗「ぬま田海苔 合羽橋本店」を営んでいます。

1937(昭和12)年に海苔と鰹節の店として川崎で開業

 川崎というと、工場地帯というイメージがあるかもしれませんが、かつては“大師のり”という上質な海苔が養殖されていたんですよ。多摩川から鶴見川にかけては、山のミネラルと東京湾の海のミネラルが溜まる場所で、そこが川崎の海苔漁場だったんですね。

 でも、東京湾の羽田沖がオリンピックに向けてインフラ整備されることになり、川崎もコンビナートなど大規模な埋め立てが進むということで、みんな漁業権を放棄し、1973年、川崎漁場は約100年の歴史に幕を降ろすことになったんです。今は有明海産の海苔を販売しています。

—なぜ有明海産なのですか。

沼田 東京湾って富津と横須賀がつながるみたいに、すごい湾になっていますよね。有明海も形が一緒で、多摩川と同じように、いろんな川からおいしい山のミネラルが流れてくる。そうすると、海苔のうまみが強くなるんです。それに、川の水が流れ込むので、真水の割合が高くなります。真水の割合が高くなると、海苔はやわらかく育つんですね。

 うちのお客様は、川崎でもともと海苔を作っていた人たちです。だから海苔にうるさい。「昔、自分が作っていたのと同じくらいおいしい海苔を食べたい」という彼らを納得させられたのが、有明産の、なおかつ初摘みの海苔だったんです。

 今は養殖も進化して、冷凍網も使ったりして年間20回近く摘み取りできます。でも、初摘み海苔にこだわるのは、海と山の栄養を最初に吸収して育つのが、初摘みの海苔だからです。

—牡蠣養殖の漁師さんが山を耕すということを聞いたことがありますが、川から注がれる豊かな山のミネラルがあって初めて海が豊かになるんですね。

沼田 注ぐ川によって味も香りも全然違います。例えば佐賀県の鹿島市は30年前から植林をしているんです。おいしい海苔を採るためだけではなく、いろんな農産物をおいしく採るために、農業者の方とか漁業組合の方が協力して毎年植林をしに山に行く。結果が出るのに20年かかりますから、鹿島市はすでに10年アドバンテージがあることになり、それだけおいしい海苔ができるんですね。

 海苔屋は今、自分たちが作った松竹梅のランキング、自分たちのネーミングで海苔を販売していますが、それは信頼関係の中でずっと成り立ってきたものです。

 今はコーヒーにしてもお茶にしても生産者が見えるようになってきています。うちは漁場の名前を出し、漁場ごとのストーリーをちゃんと伝えた上で、海苔の価値を提案していきたいと思っています。

海という広大な畑で海苔を育てる

海苔はうまみ成分がすべて入ったスーパーフード。

—ホームページを拝見して、海苔がスーパーフードだということを初めて知りました。海藻なのでミネラルが豊富だということは理解できますが、どんなところが評価されているのですか。

沼田 まず、ほぼ全てのビタミンが入っています。それに葉酸、食物繊維、たんぱく質、タウリンなども入っていますね。脳にも心臓にもいいですし、夏バテにもいい。葉酸は妊婦さんにすごくいいと言われていますよね。

—どれくらい食べたらいいものなのですか。

沼田 市販されている全型の海苔を2枚食べたら、栄養ばっちりみたいなことをうちの母はよく言っていました。おにぎりで食べるだけでも十分だと思いますよ。それから、しじみのお味噌汁とかに海苔の粉を入れると、しじみの栄養分を引き出すみたいですね。栄養価の高い食べ物と組み合わせて食べると、より体にいいと言われています。

 うまみについて言えば、海苔には昆布や鰹節と同じうまみ成分が全部入っています。日本のうまみ成分と言われているイノシン酸、グルタミン酸、あまり知られていませんが、干し椎茸に入っているグアニル酸。この3つが入っている食べ物は海苔しかないんですよ。

 味噌汁に海苔の切れ端や海苔の粉を入れるだけで、より海苔のうまみが広がっていくので、ぜひ試してみてください。

—海苔茶漬けとか、まさにそうですね。

沼田 その通り。何なら焼き海苔でしゃぶしゃぶをしたっていいんですよ。海苔が好きで、よりうまみ成分を感じたい方は。

 日本のスーパーフードで、なおかつうまみ成分がすべてそろっていて、しかも長期保存が可能でという海苔は、すばらしいと思います。

—合羽橋という土地柄、海外からの観光客も多いと思いますが、海苔のおいしさは外国人にわかるものなのでしょうか。

沼田 日本では海外の人は海苔を食べないとか海苔が嫌いだというふうに伝わっていますが、「おいしい」は世界共通。おいしい海苔が海外にないだけなんですよ。日本製ではない海苔の生産量が多く、日本の海苔自体が少ないんです。だからうちの海苔を食べると、外国の方も「おいしい!」と感動してくれます。

 海外では海苔=寿司。日本食の食べ方しかないと思われているんですね。それを何とか変えたいと思っていて、例えば、海苔って乳製品ともすごく合うので、どの海苔にどのチーズが合うかといったことも提案しています。

 口溶けのいいタイプの海苔はセミハードチーズ、中でもゴーダチーズとかコクの強いタイプがよく合います。味が濃くて塩味が強いタイプにはバター、特に発酵バターを少しだけつけて。コクが強く風味があるタイプは、クリームチーズがおすすめ。どれもすごくおいしい。お酒のおつまみにもなりますよ。

有明産の初摘みの海苔にこだわる

販売業に共通するのは商品の価値、つまりストーリーを伝えること。

—お店を継がれてどれくらいになるのですか。

沼田 海苔屋としては2年くらいです。もともとアパレル業界にいて、去年の5月にここをオープンするまでは、母が一人で切り盛りしていました。店舗はなくて、昔からの常連さんからの注文を電話とファックスで受けて届けに行くという販売方法で。

 元気とはいえ母も高齢ですし、今後、海苔屋をどうしていこうかと家族で話し合ったんですね。うちは姉と妹、そして弟の4人兄弟で、小さい時からうちの海苔を食べてきました。でも、自分たちが食べてきた海苔はどこにも売っていない。海苔の味にこだわって、うちで買ってくださるお客様にこれからも海苔を届けたい。なんとか店を続ける方法はないかと……。

 私は長男ですが、今まで家のことを何も手伝わず、ずっとアパレル業界にいましたが、その頃から提案するのが大好きだったんですよ。洋服もそうですが、買い物をするというのは組合せを楽しむことなんですね。

 海苔って実はすごく可能性があるのに、それがうまく提案できていない。「おいしい」とか「口溶けがいい」くらいで、食べ方とかもっと具体的に提案をしていけたら、海苔の可能性が広がるんじゃないかなと思って、転職を決意しました。

幻のアサクサノリを探して多摩川を探訪

—売る物が変わっただけで、物を売ることに変わりはないと。

沼田 販売業に共通するのは、その商品の価値、つまりストーリーを伝えるためにどれだけ提案ができるかだと思うんですよ。自分の中ではやりづらさとかは全くありませんでした。それに、勉強すればするだけ商品に対しての知識も深まるじゃないですか。この2年間は徹底的に勉強しました。

 ありがたいことに私のような新参者を、昔から付き合いのある川崎の海苔組合の方たちが応援してくださり、今は東京の海苔屋さん、特に大森の海苔組合のベテランの方たちがバックアップしてくださったおかげで、知識を深めることができているんです。

—ところで店内に飾られている写真は海苔のできる様子ですか。

沼田 はい。生産者のもとを実際に訪れて撮影した写真です。

 あまり知られていませんが、海苔は日本では牡蠣殻を使って養殖をしているんですよ。3月に海苔の赤ちゃん(胞子)が1〜2割ついている状態の牡蠣殻を海水のプールに入れて、殻全体が真っ黒になる9月頃まで育てるんです。

 漁が始まるのは9月頃で、実は明日から鹿島漁場に行くんです。海苔の初摘みの漁が明日から始まるんですよ。

 初摘みだけでなく種付けなど、折に触れて漁場へ取材に行って、実際にお話をうかがっていますが、大変な作業をいくつも経て、海苔は作られているんですね。凍える海で1日中作業されることもよくあるんですよ。

 この標本は多摩川で生きている野生のアサクサノリです。あの辺ってめちゃくちゃ工事しているんですよ。その前で海苔がちゃんと生きている。海苔だけじゃない。カニもいれば、浜大根という野生の大根も明日葉も生えているんですよ。自然ってすごいと思いませんか。

 多摩川にまだ海苔が生きているってことも含め、生産者の努力やハードな行程といった、海苔のストーリーを全部伝えていきたいと思っています。

(インタビュー/津久井 美智江)

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