航空自衛隊 幹部学校 航空研究センター長
1等空佐 杉山公俊

  • 取材:種藤 潤

 文字通り、仕事に自分の命を賭けることもある人たちがいる。一般の人にはなかなか知られることのない彼らの仕事内容や日々の研鑽・努力にスポットを当て、仕事への情熱を探るシリーズ。  今号では、航空自衛隊の「航空研究センター」を紹介する。この組織は「防空の知の集団」として、将来を見据えた航空防衛力の整備や部隊運用のための各種調査研究を行っている。そのセンターをまとめる航空研究センター長に話を聞いた。

航空自衛隊 幹部学校 航空研究センター長 1等空佐

「真に必要な防衛力」を 調査研究する専門組織

  航空自衛隊は、24時間365日、対領空侵犯措置を中心とした「空の防衛」を行っているが、その状況は年々厳しくなっているという。周辺国である東アジアの国々は世界屈指の軍事力を持ち、その強化や活動の活発化も目立つ。また、軍事技術自体の発展も著しく、対象も空だけでなく「宇宙」や「サイバー空間」まで広がり、各種事態への対応は多様化・複雑化していると言われている。

 今回取材した「航空研究センター」はそうした社会状況を踏まえ、将来にわたり各種事態に実効的に対応するために求められる「真に必要な防衛力」を調査研究するために創設された専門組織である。

 その前身は、1954年に幹部学校内に設置された研究部であり、時代とともにその役割は拡大。ちょうど60年を経た2014年、幹部学校の組織改変に伴い、各術科学校研究部および航空教育集団司令部の研究課を整理し、現在のセンターが創設された。そして6年目を迎えた昨年、杉山公俊氏がセンター長に就任した。

外部機関との交流を深め、最新の研究結果や情報を取り入れるのも、同センターの重要な役割だ。写真はある年のシンポジウムの様子(提供:航空自衛隊)

自衛隊内外問わず 専門性と意欲ある人材が集結

  同センターは、3つの研究室と企画管理室で構成されている。

 「運用理論研究室」では、最新の技術を前提とした運用思想について、「防衛戦略研究室」では安全保障環境を考慮した国内外の戦略課題について、「事態対処研究室」では研究成果を取り入れたシナリオづくりに基づく演習やシミュレーション等の各種事態対処能力向上について、それぞれ調査研究が行われている。

 そうした各種研究の企画調整、業務の統括および部隊等が実施した研究成果等の電子化、蓄積等を、「研究企画管理室」が行っている。

 各研究室に所属する研究員は、自衛隊内での職域や勤務歴、大学院等での研究歴などを参考に、意欲と専門性の高い人材を採用している。加えて、自衛隊外からも大学院で博士課程を修了した即戦力となる人材を公募。自衛隊内外問わず、空の防衛に関するスペシャリストが集結しているのだ。

 同時に、国内外の大学、シンクタンク、企業等の幅広い外部研究者たちとも連携し、アメリカには連絡官を派遣して、米空軍とも緊密に連携。そうした外部機関と活発に情報交換をすべく、シンポジウムやセミナーに加え、小規模勉強会や意見交換会も定期的に開催している。

杉山センター長は昨年着任。新型コロナウイルスの影響で、オンラインでシンポジウムを企画開催した(提供:航空自衛隊)

日本の安全な未来のための エア&スペースパワー

  杉山センター長も、前出のスペシャリストの1人である。空自入隊直後は、戦闘機やミサイルのレーダーを管制する「警戒管制」の現場で経験を積み、航空幕僚監部勤務時代には空自全体のレーダー整備計画立案に従事。「防衛白書」の制作にも携わった。

 近年は「警戒管制」の現場を指揮する立場に立つ一方で、海外の大学で外交や国際問題の研究を行い、現在はセンター長としての任務と並行して、国際軍事情勢全般の研究も行っている。

 「各部隊長経験者や外部から、第一線の研究者が多く集まっているので、そのトップとしての任務には重責を感じていますが、同時に大きなやりがいもあります」

 昨年は新型コロナウイルス感染拡大により、国内で予定していたシンポジウムを初めてリモート形式で行うことになり、杉山センター長が中心になってその準備を行った。苦労もあったが、リモートだからこそのメリットもあったと振り返る。

 「オンラインであったことで、普段参加できないような地域の方々が参加でき、新たな交流が生まれました。ウィズコロナ時代の知見の集め方があると実感できました」

 冒頭でも触れた通り、現在は空だけでなく、宇宙空間も防衛の対象に含まれる。杉山センター長は「エア&スペースパワー」と表現し、その力をどう活用できるかを模索していきたいと語る。

 「昨年のブルーインパルスの飛行のように、国民に勇気を与えることができるのも『エア&スペースパワー』の一面だと思います。その長所と特性を最大限活用するために、センターが一丸となり、さらに調査研究を進めていきたいと思います」

航空研究センターのある航空自衛隊幹部学校の一角で(提供:航空自衛隊)

航空自衛隊 幹部学校 航空研究センター長 1等空佐

杉山公俊 すぎやまきみとし
1971年8月富山県生まれ。1990年防衛大学校に入校、国際関係論を専攻した。その後幹部候補生学校に移り、1997年に中部航空警戒管制団に配属。以後、警戒航空隊(浜松)、北部航空警戒管制団を経て、2005年幹部学校にて指揮幕僚課程。その後防衛政策局、航空幕僚監部、内閣官房、統合幕僚監部などを歴任、2017年には北部航空警戒管制団北部防空管制群司令、2019年には中部航空警戒管制団副司令に。2020年10月より現職。上智大学大学院外国語学研究科研究生、タフツ大学フレッチャー法律外交大学院修士課程修了、ハーバード大学ウェザーヘッド国際問題研究所客員研究員。

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