アート・食・スポーツで地域の魅力を発信
『解体祭』は地域再生と活性の新たな選択肢に
株式会社都市テクノ

  • 取材:種藤 潤

建物の解体事業を手がける株式会社都市テクノは、今年3月、解体をアートとテクノと融合した『解体祭』を港区新橋で実施。解体という事業に、地域活性やSDGsという新たな可能性を示した。そしてまだ9ヶ月という短期間の間に、第二弾が新宿区下落合で行われた。今回は規模を拡大した上、前回以上に多様な形で地域とのつながりを体感できる企画を用意。『解体祭』はさらに進化していた。

当日の「落合ホームズ」の外観。カラフルな布が壁面を彩っているのが印象的だった(写真:すべて都市テクノ提供)

壁面ペイントなどアートに加え 食・スポーツなど多様な参加企画を用意

 今年12月2日(土)3日(日)に開催された『解体祭』の会場となった「落合ホームズ」は、西武新宿線下落合駅のほど近く、1979年築の10階建て、114戸を所有する集合住宅だ。周辺には神田川が流れ、古くは染め物のまちとして栄えた歴史があり、新宿区という都市部にありながら、東京を代表する住宅地として親しまれてきた。「落合ホームズ」はそのシンボル的な建物のひとつだが、2023年12月4日より解体することが決定。その解体事業を手がける都市テクノが、解体後の集合住宅建築を担う日鉄興和不動産株式会社とともに、『解体祭』の第二弾を開催することとなった。

 当日、建物には地元の染物工房「染の里おちあい」の協力のもと、カラフルに彩られた布が何枚も掲げられ、訪れる人たちはもちろん、通行人たちの目も引いていた。

 会場には、第一弾の中心企画のひとつ「壁面ペイントコーナー」が用意され、解体される予定の壁に、親子連れが気持ちよさそうに描きたい絵や文言を書き連ねていた。また、前回同様、主催の都市テクノの展示や再生コンクリートの解説に加え、共同主催者である日鉄興和不動産は、再生木材を用いたデコバックづくりや、敷地内で処分されるはずの植生を再配布する「ガーデンシェア」を実施。そして今回は、新宿落合エリアとつながりある企業・団体が多数出店していた。先の「染の里おちあい」による藍染ワークショップ、地元に工房を置くクラフトコーラメーカー「伊良コーラ」の販売、地元在住の栄養士やクラフトビールメーカーのキッチンカー、下落合図書館による「本のリサイクル市」、新宿のプロサッカーチーム「クリアソン新宿」のサッカー体験、新宿区による起震車の体験コーナー……イベントとしての規模はもちろん、地域の密着度、多彩さともに、第一弾を上回る内容だった。

建物入り口には4つのブースが。日鉄興和不動産は再生木材で作るデコバックづくりのワークショップを開催。近所に工場のあるクラフトコーラメーカー「伊良コーラ」は販売ブースを、染物工房「染の里おちあい」は藍染体験を実施した。地元の栄養士が手がけるキッチンカーも出店

「落合ホームズ」に隣接する「下落合図書館」の協力のもと、処分しなければならない書籍を無償提供するコーナーを設置

アートとテクノの力で 解体事業を地域の未来につなげる

 2023年4月号掲載紙面でも触れたが、『解体祭』のコンセプトは「アートとテクノ(技術)で解体を都市再生の始まりにする」こと。一般的に、解体は騒音、振動など地域にストレスを与えたり、解体作業によりCO2が排出されたりと、ネガティブなイメージがつきものである。だが、都市テクノは解体の事業者として、その課題解決とともに地域への還元を模索。東京・根津エリアの地域再生を共同実施している武蔵野美術大学ソーシャルクリエイティブ研究所と、再生コンクリートの研究を行う東京大学生産技術研究所と連携し、『解体祭』の構想を作り上げていった。

 第一弾は今年3月に港区新橋6丁目にあるオフィスビルの解体現場で開催。前述の「壁面ペイントコーナー」に加え、特殊印刷手法の「リソグラフ」のワークショップを実施。さらに、入居テナントを中心に出品物を募って無償提供した他、再生コンクリートの技術展示を行った。特に「壁面ペイントコーナー」が好評で、2日間の参加人数は、延べ800人に及んだ。

第一弾の『解体祭』で実施した壁面ペイントコーナーは今回も継続。参加者は建物をキャンバスにアートを満喫していた

隣接する駐車場には、落合のプロサッカーチーム「クリアソン新宿」選手によるストリートサッカー体験と、新宿区が提供する起震車の体験コーナーが設置

解体が地域との交流のきっかけに 目指すは全国で解体祭を

 今回の第二弾は、前回のコンセプトを受け継ぎつつ、先にも触れた通り規模を拡大し、地元落合の企業や団体とのつながりを強めることを意識したという。それは「染め物も染め直しという行程があり、再生というコンセプトと合致した(染の里おちあい)」「ずっと暮らしてきた建物を単に壊すのではなく再生に繋げることに共感した(伊良コーラ)」と、地域から「解体を都市再生の始まりにする」というコンセプトを深く理解するきっかけとなったようだ。新宿区という行政の後援も、イベントの地域性を高めたポイントだった。

 さらに、再生を請け負う事業者=日鉄興和不動産との共同開催という点も、新しい試みだった。同社も「一般的に、集合住宅は販売時から地元との交流が始まるが、解体時から交流できることは、その後の建物やサービスに生かすことができる」と『解体祭』への参加を評価。このメリットは、参加したプロサッカーチームにも言えることで、解体時から周辺地域と交流でき、サッカー教室などを行う際のつながりを作ることができるわけだ。

 結果、集客も前回を超え、2日間で延べ1100人が来場したという。

 すでに第三弾以降の依頼も出てきているようで、都市テクノの展望として「今後は解体自体だけでなく、仮囲い、地鎮祭、竣工式などさまざまな建築シーンと関係性をつなげ、壊しながら再生していく一連の流れを確立し、業界内外に浸透させたい」と、都内に限らず全国で展開していきたいと意気込む。

 解体が地域再生と活性のきっかけとなる可能性をさらに強めた、今回の「落合ホームズ解体祭」。まずは今後の落合エリアがどのように変化していくか、注目していきたい。

建物奥の駐車スペースでは、都市テクノがサポートする本紙でも紹介した「ねづくりや」と、落合を拠点とするクラフトビール工房「ハニカムホップワークス」のキッチンカーが出店。その周りにはリサイクル家具を配置した飲食スペースが用意されていた

第一弾に引き続き、主催する都市テクノの解体技術展示ブースや、コンクリートの再生技術を提供する東京大学生産技術研究所の展示ブースも設置。解体を「再生」や「継承」の架け橋と捉えた展示は、参加者の「解体」へのイメージを、ポジティブに変えていた

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