HOME » トップインタビュー一覧 » トップインタビュー Vol.30 東京商工会議所副会頭 井上裕之さん
インタビュー
2010年6月20日号

 

東京商工会議所副会頭 井上裕之さん

東商の英知を結集して『個』が光るイノベーションを巻き起こす

東京商工会議所副会頭

愛知産業株式会社 代表取締役社長

井上裕之さん

 未曾有の経済危機は一部に改善の兆しを見せつつあるものの、中小企業や地域経済は依然として厳しい状況にある。今後、日本が力強い経済成長を実現していくためには、明確な成長戦略の実現に向けて企業と地域のイノベーション(自己革新)が不可欠だ。中小企業経営者として初めて副会頭に就いた井上裕之さんに東京商工会議所が果たすべき役割をうかがった。

(インタビュー/津久井美智江)

中小企業は日本の企業数の99.7%
従業員数の約7割を占める大きな存在

―東京商工会議所の前身である東京商法会議所が設立されたのが明治11(1878)年。明治維新の直後なんですね。日本の商業や工業がある程度成熟してからできたものだと思っていました。

東京商法会議所初代会頭の渋沢栄一氏

東京商法会議所初代会頭の渋沢栄一氏

井上 とんでもない。渋沢栄一・初代会頭をはじめとする興国の気概にあふれた実業人たちが、未だ黎明期にあった日本経済を明日の隆盛に導かんと志をひとつにして設立したんですよ。大した人たちだと思いますね。
 翻って今の政治家は何をやっているのか。目先の選挙のため、票稼ぎのためだけに一生懸命で、日本の将来のことなど何も考えていないに等しい。不満でなりません。

―上場企業でない企業の方で副会頭になられたのは初めてとか。

井上 中小企業から上場した企業の方はおられますが、中小企業の経営者では私が初めてではないかと思います。
 前会頭の山口信夫さんに、「副会頭に指名するがどうか」と言われましてね。最初は「中小企業の経営者には余裕がない」とお断りすべく考えましたが、「中小企業については、中小企業経営者でなければ分からないことがたくさんある」と思い、「私は金はないが、水泳部で鍛えた体力と行動力はある」と、お引き受けすることにしました。

石原都知事と井上副会頭

「東京ビッグトーク」で、石原都知事と一緒に(2008年9月17日)

―中小企業は、日本の企業数の99・7%、従業員数の約7割を占めている重要な存在です。それに相応しい発言力を持ってもいいのではないでしょうか。

井上 今までは、中小企業は弱体で、大企業の従属的な存在のように取り扱われてきた気がしてなりません。国の仕組み、予算にしても、中小企業が日本を支えている大切な存在だから育てようという考えになっていない。
 中小企業の製造業は2008年、55兆円の付加価値を生み出しています。大企業は46兆円。大企業より多くの付加価値を生み出しているんですよ。雇用だって中小企業は約2800万人、大企業は約1100万人です。これだけの雇用を抱え、これだけの付加価値を生み出しているのに、国はどうして中小企業に重点施策を振り向けないのか。いろんなところに訴えていますが、なかなか声は届きませんねぇ。

―中小企業を育てれば、雇用も自然と膨らむと思うのですが。

井上 今、中小企業の廃業率はどんどん増えて、開業率はちっとも上がりません。開業率を上げるためには、税制面でバックアップするとか、個人がベンチャーに投資する金は税控除にするとか、倒産した場合でも経営者の再起を可能とする仕組みを作るとか、いろいろ考えられると思います。
 借金まみれで国が資金を出せないなら、民間ベースで実行できるようにすべきだと思いますね。

 

カナダと同じ予算を持つ東京都
独立して技術開発に金をかけるべき

―東商でもそういう働きかけは行っているのでしょう。

井上 中小企業庁に対してもそうですし、国に対しても「農業に比べて中小企業対策予算が非常に少ない」とずっと訴え続けています。
 農業に従事している人は専業・兼業含めて280万人くらいですが、予算は2兆7000億円ですよ。中小企業はたったの1911億円。しかも、農業戸別所得保障とやらが5600億円でしょう。中小企業は所得保証なんて一銭もしてもらってないですよ。

―桁が違いますね。農業の予算の一部を中小企業の技術開発に回すだけでも、日本の現状は変わると思います。

ロボットに搭載した愛知産業のシーム溶接機

ロボットに搭載した愛知産業のシーム溶接機

井上 アメリカには中小企業の研究技術開発とその成果の事業化を一貫して支援するSBIRという制度があって、毎年約2000億円という資金を投下しています。日本もそれを見習ってやり始めましたが、まだ360億円ちょっとです。

―日本には資源がありません。勝負できるのは人材と技術力ですが、その技術が海外に流出し始めています。

井上 大企業の技術力を支えている中小企業の技術はたくさんあります。ところが大企業はグローバル化の時代だと、製造工場を人件費の安い海外へどんどん展開している。残されたのは日本の中小企業です。中小企業が海外で起業できるように、国も東京都もバックアップしようという状況になりつつありますが、本当に海外に進出して成功できるのかというと、私は難しいと思いますねぇ。

―結局、技術だけ盗まれてしまうのではないかと懸念されています。

井上 笑い話のような話があるでしょう。新幹線を作るために技術者を派遣して教えたら、その後は自分たちで注文とって歩いてるという(笑)。
 ソフトというのは頭と体が持っているものであって、それを盗まれてしまったら企業はどうやって生きていくのかということです。中小製造業の海外進出はよほど気をつけないといけないと思います。日本で作って、それを輸出する、その手助けをもっともっとやるべきでしょう。
 これからは地方分権の時代です。東京都は6兆何千憶円というカナダと同じくらいの予算を持っているわけですから、カナダと同じように一国としての政策ができるはずです。東京都が独自の政策として、技術開発に重点的に金をかけるということも非常に大事だと思います。

―特に東京は技術の宝庫でもありますし、情報の集積地でもありますからね。

井上 うちの会社が何とか仕事ができているのは、ユーザーが求めている情報をキャッチし、そのニーズに基づいて製品を作っているからです。新しい技術は海外にもいくらでもあるわけで、そういうものを日本に持ってきて、ユーザーの生産性を上げるために役立つ製品販売をし、また、そのニーズに適う製造設備を作ることにより、どうにか生きながらえている(笑)。

今年4月21日~24日に開催されたウエルディングショーに出展

今年4月21日~24日に開催されたウエルディングショーに出展

―会社の歴史を拝見しますと、創業してすぐに海外との取引を始めていらっしゃいます。ずいぶん早い時期からグローバル化していらしたのですね。

井上 金属文化は西欧のほうが進んでおり、航空機産業技術にも見られるように、次々に新技術が生まれています。
 ドイツは技術の集積地ですが、教育方法もいいと思います。デュアルシステムといって教育と職業時訓練を同時に進めるのですが、専門学校で勉強した後、マイスターに進むか大学に進むかを選べるんです。日本でも導入が始まっていますが、もっと参考にするといいと思いますね。

 

企業として使っている資産は、
相続税から除外すべき

―現実に中小企業がどんどんつぶれています。問題はどの辺にあると思いますか。

井上 非常に大きな問題は相続税だと思います。中小企業はみんな一生懸命頑張って、ある程度資産を作って、実際にはその資産を担保にして事業資金を借りています。私の資産も全部担保に入っていますよ。そういうところから相続税をとるということは、中小企業の事業運営を不可能にするようなものです。
 政府系の金融機関は8000万円までは無担保で貸すけれども、それ以上は担保提供が必要ですよね。資産のないところは、どうやって大きくなっていくのでしょうか。
 資産の再分配という話も分かるけれど、企業として使っている資産については、相続税の対象から除外すべきだと思いますね。

―相続税というのはある意味、文化や技術の継承のために使うべきものであって、企業の資産から徴収するのはいかがなものかと思います。

井上 まったくですね。それと、もうひとつ悪いのは、大企業の支払い条件。今は下請取引適正化法というのができて、工賃などの下請代金には監視の目が届きますが、売買取引での商品代金はこの法律の対象になっていません。例えば、うちの会社で機械を作って納めるでしょう。現金化されるまでに、何だかんだで1年くらいかかるケースが多数あります。

東京都産業労働局長へ要望提出

5月18日、東京都・前田信弘産業労働局長へ要望提出
写真提供:東京商工会議所

―その間どうやって資金繰りをするのか、ということですよね。

井上 資金負担も金利負担も中小企業がしているわけですからね。中小企業融資制度があるからいいじゃないかと言われるけれど、大企業のために借りるんだ、といいたいですね。大企業の人は、そういう支払い条件を意外に知らなくて、現状を教えると「ええっ」って驚く(笑)。

―未曾有の経済危機は一部に改善の兆しを見せつつありますが、中小企業や地域経済は依然として厳しい状況にあります。首都・東京を基盤とする東京商工会議所が果たすべき役割は。

井上 一昨年、東京商工会議所は創立130周年を迎え、「東商サミット」を開催し、渋沢栄一・初代会頭が提唱した「道徳経済合一説」の趣旨に立ち返って、それぞれの社会的責任を十分理解し、実践するとともに、英知を結集して『個』が光るイノベーションを巻き起こしていくことを宣言しました。商工会議所というと大企業が集まるという感覚ですが、会員の大部分は中小企業であり、中小企業の人や技術など光るものは大いに取り上げ、伸ばしていこうと取り組んでいます。

―講座を開くとかマッチングとか、東商ではいろんな支援活動もされていますね。

井上 東商は素晴らしいことをいっぱいやっているんですよ。これをうまく活用したら、年会費なんて安いもんです。送られてくる新聞やパンフレット、ホームページなどを丹念にチェックしてみてください。何かしらヒントがあるはずですから、次のステップアップにつながると思います。

 


東京商工会議所副会頭 井上裕之さん

撮影/加藤 ゆみ子

<プロフィール>
いのうえ・やすゆき
昭和11年、東京都生まれ。34年、慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、愛知産業株式会社入社。51年、愛知産業株式会社代表取締役社長、54年、愛晃エンジニアリング株式会社代表取締役社長に就任。現在、財団法人国民工業振興会理事長、東京都中小企業振興公社理事、東京商工会議所副会頭、日本商工会議所特別顧問、東京都都市計画審議会委員、東京都地方独立行政法人評価委員会委員、東京都中小企業再生支援協議会全体会議委員などを務める。

 

 

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