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インタビュー
2010年7月20日号

 

西川産業株式会社 代表取締役会長 西川甚五郎さん

健康は快眠から― 快適な睡眠を提供するのが使命

西川産業株式会社 代表取締役会長

西川 甚五郎さん

 時は室町時代末の永禄9年(1566)。初代西川仁右衛門は近江国蒲生郡南津田村で商いを始めた。西川産業では、この年をもって創業としている。当時の商いの例にもれず、スタートは蚊帳をはじめとする生活用品を行商。先見性と創意工夫の精神でヒット商品を生み、卓越した経営センスで時代の荒波を潜り抜けてきた。創業444年を迎えた西川産業株式会社代表取締役会長の14代西川甚五郎さんに商いの極意をうかがった。

(インタビュー/津久井美智江)

蚊帳や畳表は、快適に眠るためのインテリア

―今年で創業444年ということですが、西川の歴史を拝見すると、蚊帳や畳表といった生活用品からスタートし、弓、寝具と、扱う商品が変遷しています。それぞれのつながりを教えてください。

明治初年ごろの日本橋つまみだな

明治初年ごろの日本橋つまみだな

西川 ジャンルでいうと、インテリアになるのでしょうか。蚊帳は、古事記にも出てくる古いもので、平安時代は紙帳(しちょう)といわれたように紙でした。それが室町時代になって織物に変わり、貴族や武士の上流階級に普及していたんです。
 蚊帳といえば、萌黄糸に紅布の縁のついたものをイメージしますが、これがいわゆる「近江蚊帳」で、そのデザインを考案したのが二代目を継いだ四男の甚五郎です。この男がアイデアマンで、江戸に向かって箱根越えをしていた折、疲れて木陰に身を横たえたところ、気がつくと一面に緑の野原にいた。生き生きとした若葉の緑が目に映えて、その爽やかな気分はまるで仙境にいるようだったそうで、そのイメージを蚊帳に再現したと伝えられています。今の色彩学でいえば補色関係の組み合わせで、たいへんモダンだった。このデザインが評判となり、西川家繁盛の基礎を築いたんです。
 ところで、蚊帳(かちょう)と書いて「かや」と読むのは、不思議ではありませんか。ポルトガルの古語に「カヤ」というのがあるんだそうです。いわゆる蚊帳のことなんですね。私は「パン」とか「テンプラ」と同じように、ポルトガル語の「カヤ」に「蚊帳」という字を当てたのではないかと考えています。

―「蚊」を寄せ付けない「帳」というわけですね。

喜多川歌麿に描かれた萌黄の蚊帳

喜多川歌麿に描かれた萌黄の蚊帳

西川 もうひとつの主力商品は畳表、今でいうカーペットですね。畳表も、古事記に出ていますが、平安時代は全面的に畳を敷いていたわけではなくて、高貴な人たちが2枚をひとつに重ねて座るというのが慣わしでした。それに、昔は敷布団なんてないので、畳がまさに敷布団だったわけです。

―蚊帳は蚊除け、畳表は敷布団。蚊帳も畳表も、快適に眠るためのインテリアという点で、現在の西川を象徴する寝具につながっているのですね。

西川 布団が販売アイテムに加わったのは明治になってからです。それまでは布団は家庭で作るもので、打ち直しをしながら長く使うものでした。それを商品化し、商売の対象にしたのは画期的なことでした。蚊帳は季節品ですが、布団はオールシーズン商品なので、これによって売り上げの安定が図られたんですね。
 その後、昭和33年には「合繊安眠デラックスわた」という商品を開発し、その品質と真綿に似たやわらかな感触、打ち直しを必要としないメンテナンスフリーの手軽さなどが受けて、爆発的に売れたのがターニングポイントになりました。

 

江戸時代に保険やボーナス?
経営センスも卓越していた

―激動の昭和を乗り切った先代は、明治の頃にアメリカに留学されていますね。会長もどちらかに留学されたのですか?

西川 私には青春時代がなかったんですよ。というのは結核に罹りましてね、療養していたんです。その代わり、デッサンから油絵まで習い、レコードをコレクションしと、芸術に熱中していました。それが後にプラスになり、デザイン企画室として実を結びました。入社試験の最終選考は私がやったんですよ。デッサンや作品を見ながら、その人を判定できますのでね。とても楽しい経験でした。
 この部署は海外のデザイナーと提携して、いろんなブランドを取り扱っているのですが、これまでどちらかというと閉鎖的で、人に見られることのなかった日本の寝具に、インテリアとしてのファッション性を取り入れたことで、近年では大きな転換になりました。

―先見性や商品の創意工夫もそうですが、経営面でも卓越したセンスを発揮しています。不慮の事故や災害などの復旧費用を積み立てておく「積立金制度」はその典型ですね。

西川 「火事と喧嘩は江戸の華」といわれるくらい江戸市中ではたびたび火災が起こりました。七代目利助も家督を継いで早々、2店舗を類焼し、この経験から自己救済の保険システムを考えたんです。それが「積立金制度」で、純益の中から「普請金(債権費用)」「仏事金」「用意金(本家の不慮の出費に対応する)」の3名目の積み立てを行い、資金は確実な担保を取って貸付けをして利潤を上げ、さらに土地や家屋を購入して賃貸に出しました。このように、積み立ての目的、資金の用途と運用方法まで制度化したのはめずらしいことでしょうね。寛政11年(1799)には「定法書」として明文化され、代々受け継がれることになりました。
 七代目が当主だった時期は、田沼時代と緊縮財政の「寛政の改革」時代。田沼時代は消費活動が活発であったが故に、新興商人が力を持ち始め、旧来の商人たちが没落していくという現象が起こっていました。そうした厳しい商況にあって、経営基盤の安定を図ることが、時代の大きな課題だったんですね。

―奉公人に対するボーナス制度もありましたね。

三ツ割銀預け帳

三ツ割銀預け帳

西川 「三ツ割銀制度」ですね。これを制定したのも七代目です。寛政元年(1789)以降、年2回の決算を終えると、純益の3分の1を従業員に分配したのです。いわゆる能率給が導入されていて、それがみんなのやる気を向上させ、売り上げアップにも貢献したんじゃないかと思っています。

―「宵越しの金は持たない」江戸っ子のこと、遊びに使ってしまう人も多かったのでは?

西川 その通り(笑)。だから、七代目は改革を行い、ボーナスは本家で預かり、のれん分けや退職する時に利子をつけてまとめて渡すようにしたんです。今でも当社の賞与には、「三ツ割銀制度」のようなシステムが残っていますよ。

 

質の良い睡眠を提供することで予防医学に寄与

―会長が社長だった昭和59年、眠りの質について研究する日本睡眠科学研究所を作られました。眠りを科学するという発想は画期的ですね。

三層特殊立体構造コンディショニングマットレス「エアー」

三層特殊立体構造コンディショニングマットレス「エアー」

西川 健康と睡眠は密接に関係しています。質の良い睡眠をとると、朝の目覚めが良く、活力がわいてきますよね。快適な睡眠を提供するのは、寝具メーカーの使命だと思ったのです。
 寝具は機能性が非常に大事なんですね。当社の商品はデザイン性と機能性、つまりファッションとファンクションを掛け合わせたものです。だからこそサイエンスを商品作りに取り入れなければならない。研究所で睡眠のメカニズムや生理的な成り立ちを研究し、科学的な裏づけを取った上で商品に反映させています。

―現代人は生活も不規則ですし、ストレスも多いです。食事の質と同じように、睡眠の質も問題なのでしょうね。

西川 睡眠について不満がなく、夜はすっと眠れて、朝はすっきり起きられることが質の良い睡眠といえるのではないでしょうか。そのためには、規則正しい生活や適度な運動、心と体のバランスを整えたりすることのほかに、寝室の環境や自分にあった寝具選びも重要になります。
 鬱の人が増えて心療内科等がクローズアップされていますが、そこで最重要視されているのが睡眠です。寝不足になると症状が悪化するのだそうです。当社の場合は予防としての睡眠の重要性を多くの方に知っていただいて、病気にならないための予防医学、セルフケアとして寄与したいと考えています。

―質の良い睡眠を得るための条件というのはあるのでしょうか。

西川 寝室のスペースや温度・湿度、色彩、照明、騒音、振動といった環境はもちろんですが、「寝床内(しんしょうない)気象」という体と寝具の空間の環境面においても、快適な睡眠に適した温度や湿度が分かってきました。温度は33℃±1℃、湿度は50±5%RH。この領域を「SLEEP COMFORT ZONE」と名づけ、快適寝床内気象の目安として提案しています。

―高齢化社会になって寝たきりの人も増えています。そういう人たちにとっては寝床環境は非常に大事だと思います。医療用の寝具も研究されているのですか。

西川 研究の結果、体の圧力を分散させて、より良い寝姿勢を保つことが一番良いと理解しています。「整圧敷きふとん」など体圧分散性に優れた敷き布団は、実際に床ずれ防止にも役立っています。体圧を分散させることは、健常者にとっても良いことなんですよ。

―最後に、これから先の100年、200年を考えた時の軸となるのは何でしょうか。

西川 新たにチャレンジしているマーケットはスポーツと美容。眠りがスポーツのパフォーマンスに与える影響や睡眠不足による美容のトラブル等を研究しているところです。
 いずれにしても、睡眠と健康に軸足を置いていくことは間違いありません。

―西川産業の原点である蚊帳も畳表も、快適な睡眠を得て健康になるためのインテリアだったのですものね。

西川 近江八幡の山に近いところに本家があるのですが、夏は蚊がいて眠れないので、今でも蚊帳を吊っているんですよ。虫もいろいろいますけど、蚊帳を吊っていると干渉されないので、安心して眠れます。

―お元気の秘訣は、蚊帳とファッションとファンクションを兼ね備えた布団のおかげですね。

西川 そうかもしれませんね(笑)。

 


西川産業株式会社 代表取締役会長 西川甚五郎さん

撮影/加藤 ゆみ子

<プロフィール>
にしかわ・じんごろう
1931年6月7日、滋賀県近江八幡市生まれ。1961年、同志社大学経済学部卒業後、西川産業(株)入社。同社代表取締役社長を経て、2000年より代表取締役会長(現職)。ほかに日本橋西川ビル(株)、(株)西川の代表取締役社長、西川テックス(株)、西川リビング(株)の代表取締役会長を兼務。東京寝具製造卸同業組合理事長、日本寝具製造卸組合連合会会長、全日本寝具寝装品協会会長なども務める。

 

 

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