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インタビュー
2009年4月20日号
照明デザイナー石井幹子さん

光はもっといろんな使い方ができるはず。
光を見ることによって病が癒されるような光療法の研究をしてみたい―

照明デザイナー

石井幹子さん

 都市照明からライトオブジェ、光のパフォーマンスまでと幅広い光の領域を開拓し、日本のみならずアメリカ、ヨーロッパ、中近東、東南アジアの各地で活躍する照明デザイナーの石井幹子さん。近年はオペラや野外能の照明にも取り組み、特に日本の光文化の継承と発展、海外への発信に力を注いでいる。そんな石井さんに、照明デザインの魅力や光の癒しの力などについてうかがった。

(インタビュー/津久井 美智江)

都の公園を明るくし、
夜も人々が集える空間にしてほしい

東京タワー50周年記念ライトアップ〈ダイヤモンドヴェール〉

東京タワー50周年記念ライトアップ〈ダイヤモンドヴェール〉

―私の部屋から、ライトアップされた東京タワーがちらりと見えるんです。その明かりがとてもきれいで温かくて、ほっとした気持ちになります。照明によって人々の心が癒され、また、豊かになるということが理解されるまでには、ずいぶん時間がかかったのではないでしょうか。

石井 1930年代くらいからヨーロッパでは、電気エネルギーを使って都市照明をやろうという機運が高まりました。第二次世界大戦で一時中断しましたが、その後、街の復興とともにさまざまプロジェクトが進められ1974年、ロンドンのテームズ河畔の復権を目指すということで、河畔の照明が刷新され、見違えるように美しくなりました。

 ヨーロッパで照明の勉強をし、テームズ河畔の例などを見ておりましたので、日本でもそういう照明デザインをやりたかったのですが、最初はなかなかご理解いただけなかったですね。

 それに、帰国した後が第一次石油ショック、第二次石油ショックで、高速道路からネオンまで省エネが課せられていた時期ということもありました。

レインボーブリッジ

レインボーブリッジ

―建物や都市を照明するなんて考えられませんね。

石井 ですから、最初は建築家の方々にご協力いただいて建物の照明をしたり、いろんな機会を見つけては実験的に照明をやらせていただいていました。ずっと手弁当でやってきて、やっと大勢の方にライトアップの効果を強くアピールできたのが東京タワーの照明だったと思います。

 それと前後して、横浜ベイブリッジや東京港のレインボーブリッジの照明も注目を集めましたが、ライトアップという言葉が浸透するまでに10年くらいかかったのではないでしょうか。

 今では、美観だけでなく安全という観点からも、照明は必要だと思っていただくことが多くなりましたね。

―大都市東京でも、意外と生活道路が暗くて、何か犯罪が起こってやっと防犯灯がつくようなケースが、まだまだあります。

石井 生活道路の明かりはもちろんですが、私は、東京都にお願いしたいことがいくつもあるんです。その一つが、都の公園を夜きれいに照明していただきたいということ。夜の公園が明るく美しくなれば、夕涼みをしたり、ジョギングしたり、体操したり、いろんなことができますでしょう。たとえば日比谷公園など昼間は人が多いのに、夜は放っておかれている感じで、都心のあんなにいい場所にあるのにと、たいへん残念に思います。

―今は、夜の公園なんて、暗くて危ないから近寄らないという感覚です。せっかく多くの人が集まれるすばらしい空間なのですから、昼間しか活用されていないのはもったいないですね。

石井 その気になればできるはずです。公園が、夜でも人々が集えるような場所になったらいいですね

 

ビンテージ・アーキテクチャーの観点で
明治大正昭和の建造物を保存すべき

―シュノンソーとかシャンポールの城で行われる、光と音のコラボレーション「ソン・エ・ルミエール」というのがあります。初めて聞いたときは、光と音だけで何をするんだろうと思いましたが、実際に見てみたらすごく感動しました。

石井 びっくりしますよね。私もヨーロッパを旅行していて、ソン・エ・ルミエールがあるというと必ず見に行きます。光と音がそれぞれ増幅してイメージをつくるという技術は、フランスで生まれてフランスで発達したものでしょうね。

上野公園の東京国立博物館で開催された「光彩時空」

上野公園の東京国立博物館で開催された「光彩時空」

 私どもで企画した「光彩時空」というイベントを、上野公園(2006年は東京国立博物館、2007年は国立西洋美術館)で開催いたしましたが、あれは一種のソン・エ・ルミエールではないかと思っております。日本人があまりにも自国の文化を知らないのではないかという危惧と、夜になると暗い森の中に沈み込んでしまう建物を、光によってよみがえらせることができないかという問題提起からスタートしたのですが、3万人以上もの観客が訪れ、たいへん好評をいただきました。

―「横浜あかりアーツコラボレーション」もソン・エ・ルミエールに近いのですか。

石井 ちょっと違います。ソン・エ・ルミエールは機械的に装置を使うのに対し、横浜のイベントはライブの音とライブのパフォーマンスと光を組み合わせている。日本の伝統文化を新しい都市空間の中で実現しようというもので、伝統の芸能を最も新しい光で、都市空間の中でコラボレーションしようという試みです。今年は6月の半ばに、横浜みなとみらい21の美術館前の広場で、日中韓の伝統舞踊をやる予定です。

―最近、お能の照明などをはじめ、日本の文化や日本の明かりに関心をお持ちとか。

石井 日本の文化は、世界に冠たるすばらしい文化であると、このところ強く感じています。どこの国でもそれぞれの文化があるわけですけれど、日本の場合、非常に洗練されていて、その洗練のされ方が極めて独特で、世界的に見てもとても格調高い。

 それに、日本の文化はミニマムであり、自然に寄り添う形なので、21世紀の地球環境を守ろうという時代にはぴったりだと思います。

―木と紙と土の文化といいましょうか。障子という紙を通した明かりの採り方一つとっても独特ですね。

石井 ただ、木とか紙とか土とかでつくっているために、社会のストックとして建造物が残っていかないんですね。伊勢神宮のように、20年に1回建て替えることによって続いていくということはあるのかもしれませんが、パリの街などを見ていますと、150年前に建てられた建物、もっと前に建てられた建物が今でも生き生きとちゃんと使われています。しかも資産的な価値も高い。日本にはそういう文化がないのが残念ですね。

 ですから都には、東京に残っている江戸期のもの、明治大正昭和のものを、ぜひ大事にしていただきたい。今、昭和初期に建てられた建物がどんどん壊されていますけれども、それらはビンテージ・アーキテクチャーであると価値を認めて、都が買い上げ、きちんと保存し、活用するということを考えてほしいですね。

―法隆寺が建立されて1400年といわれますが、当時の建築技術が法隆寺だけ突出していたわけでなく、同じようなものはたくさんあったはずです。法隆寺が1400年の風雪に耐えてきたということは、つまりそれを守る人がいたということ。スクラップ・アンド・ビルドの風潮がある一方で、守っていくというソフトもあったということです。どうやって守っていくかということに目を向けないと、ビンテージ・アーキテクチャーは守れないように思います。

石井 江東区の隅田川沿いにある松尾芭蕉の像のたもとに、大正の終わりか昭和の初めにつくられた萬年橋という橋があり、今度、橋を渡る人のためにライトアップすることになったんです。溶接の技術がなかったので、全部リベットでとめてあるような、まさにビンテージ・ブリッジ。造形も鉄のアーチが重なり合って、なかなか優れています。照明器具をつけるのに苦労しましたけれども、橋を渡る人たちが、美しい橋を渡っていると感じていただけるような照明にしたいと思っています。

 

家では気持ちを落ち着かせる
「ほの明かり」がおすすめです

―最近はLEDなどを用いた照明器具も日進月歩です。いろんな発想がわいてくるのではないでしょうか。

石井 去年、パリのセーヌ川で25の橋を照らし、ノートルダムの下の岸壁に日本の国宝、文化財を大型プロジェクションするという大きなイベントを催したのですが、日本の光の文化をもっと海外に発信したい。これは私のライフワークの一つです。

 それから私は、光はもっといろんな分野で役立つはずだと考えておりますので、たとえば高齢者の方たちが心安らぐような光をつくりたい。実際、障害のあるお子さんが、美しい光で遊ぶことによって良い効果が得られるというデータもありますし、うつ病に効く光の使い方もあるといわれています。音楽と同じように光を見ることによって病気が快方に向かうような、光療法の研究もしてみたいですね。

―家の中での安らげる光とは?

石井 照明は、できるだけ間接光でお使いになるのがいいですね。それから、一番手軽でおすすめなのはキャンドル・ライトです。寝る前にキャンドルを1時間くらいつけると、気持ちが休まって、いい眠りにつけますよ。

―火というのは照明の原点ですからね

石井 人類が誕生して50万年とかいいますけれども、人間が電気を使った照明をしているのはこの100年くらいです。その前はずっと火を明かりにしていたわけですから、やはり火を見ると安らいだり、感動したりする気持ちが残っているのでしょうね。

―省エネの一環として、昼間の照度をもう少し落としてもいいのではないかと提唱されています。

石井 昔のように紙に書く仕事と違って、現在はパソコンのディスプレイ自体が光源になっていますから、目は非常に疲れています。家では目を休ませる明かりということを考えたほうがいいでしょう。

―つまり、間接照明やキャンドルの、ほの暗い明かりがいいと。

石井 「暗い」というと、その言葉自体をみなさん嫌がるので、私どもでは「ほの明かり」という言葉をおすすめしています。「少美生活」といって、少ないエネルギーで美しい暮らしをしましょう、ということです。

 人間の目は、明るさによく順応しますので、キャンドルの明かりで本を読めとか新聞を読めといったらできませんが、ほの明かりだと感覚はずっと鋭くなりますから、食べ物はより美しく見えますし、よりおいしくいただけますよ。

光都東京*LIGHTOPIA

光都東京*LIGHTOPIA

 


照明デザイナー石井幹子さんプロフィール

撮影/赤羽 真也

<プロフィール>

いしい もとこ
東京藝術大学美術学部卒業。フィンランド、ドイツの照明設計事務所勤務後、石井幹子デザイン事務所設立。主な作品は、東京タワー、レインボーブリッジ、横浜ベイブリッジ等のライトアップ、函館市や長崎市の景観照明、姫路城、白川郷合掌集落など。最近の作品は東京タワーダイヤモンドヴェール、光都東京・光のアートインスタレーションなど。日本照明賞、東京都文化賞をはじめ、北米照明学会より大賞および優秀賞を受賞するなど、国内外での受賞多数。光文化フォーラム代表として、国内外の光文化の伝承・発展にも力を注いでいる。

 

 

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