HOME » トップインタビュー一覧 » トップインタビュー Vol.17 オイスカ・インターナショナル総裁 中野良子さん 
インタビュー
2009年5月20日号
オイスカ・インターナショナル総裁 中野良子さん

地球は私たち人類にとって唯一の住処
太陽の恵みへの感謝の気持ちを忘れないでほしい

オイスカ・インターナショナル総裁
財団法人 オイスカ会長

中野良子さん

 今でこそ地球環境対策は、人類にとって最も重要な緊急課題として論じられるようになっているが、「オイスカ(OISCA)」は半世紀も前から、「自然と調和して生きる世界」の実現に向け、持続可能な農業開発や植林活動などに取り組んできた。その活動は93年に「国連地球サミット賞」を受賞するなど、国際的にも高く評価されている。国際NGOとしてその活動分野をますます広げるオイスカの理念と活動について、オイスカ・インターナショナル総裁で財団法人オイスカ会長の中野良子さんにうかがった。

(インタビュー/大竹 良治)

アジアの貧困を救う農村開発が
オイスカの活動の原点になった

「子供の森」計画参加校にて さあ植林(ミャンマー)

「子供の森」計画参加校にて さあ植林(ミャンマー)

―まず、オイスカの設立経緯についてお聞かせください。

中野 オイスカ(OISCA)の名称は、機構、産業、精神、文化、促進のそれぞれの単語の頭文字からとったものですが、そこには人間の生存に不可欠な三要素である「産業・精神・文化」のバランスを大事にした発展を世界規模で推進していくという意味が込められています。

 オイスカ・インターナショナルは私の父(中野與之助)が創立したのですが、そのきっかけになったのが1961年に開催された「精神文化国際会議」です。当時、日本は戦後の廃墟の中からようやく立ち上がり、経済発展を目指して急速な成長を始めていましたが、父は“人間は物質的な発展だけではいけない。同時に精神的な発展があってこそ、本当の幸せにつながる”と考え、世界に呼びかけてこの会議を東京で開催したのです。

 世間には“田舎から出てきたじいさんが何を言っているのか”と言う人もいましたが、在京の若い独立国の大使らが共感してくれ、20カ国から179名が参加、日本政府を代表して当時の愛知揆一文部大臣も出席しました。その後、常設機関として「精神文化国際機構」が発足し、それがオイスカ・インターナショナルの前身となりました。

―アジア地域の農村開発に取り組むようになったのもこの頃ですか。

マングローブの苗を手に植林の事前説明(フィジー)

マングローブの苗を手に植林の事前説明(フィジー)

中野 当時、インドでは旱魃で大勢の餓死者が出ているなど、多くのアジアの国々は貧困に苦しんでいました。

 そこで、いまは議論している場合ではない、まずは食糧増産、「FOOD FIRST」だということで、各国に農業開発のための調査団を派遣することになったのです。

 ですから、オイスカの活動は最初から理論立てて始まったわけではなく、いま行動しなくてはいけない、という人間本性の発露がスタートだったと言ってもいいかもしれません。

 

毎年3百名以上の研修生を受入れ
アジア各地での植林は2百万本に

―オイスカの活動は非常に多岐にわたりますが、その概要を説明いただけますか。

中野 現在、主にアジア・太平洋地域で農村開発や環境保全活動を展開しています。とくに人づくりには力を入れており、毎年JICA(国際協力機構)からの受託も含め300名以上の研修生を受け入れ、全国に4カ所ある研修センターで農業や工業分野の実技研修を行っています。

 これまで累計で3800名以上の修了生を送り出しており、その多くは、それぞれの国でリーダー的存在として活躍するとともに、オイスカ活動の担い手となっています。

―修了式を何回か取材させていただきましたが、技術を身につけ、たくましく成長した修了生が必死に覚えた日本語で感謝と今後の抱負を語る姿に、毎回、感銘を受けます。

中野 修了式の会場に、都議会議事堂の会議室を使わせていただいているのですが、立派な場所での式典に修了生たちの気持ちも引き締まるようです。

 これはオイスカを長年にわたり支援していただいている都議会オイスカ促進議員連盟の保坂三蔵名誉会長(前参院議員)、三田敏哉会長(元都議会議長)をはじめとする議員連盟の方々や、東京都のご理解があってのこととたいへん感謝しています。

―アジア各地での植林活動も大きな成果をあげているようですね。

中野 1980年から、住民と協力して、スリランカ、インドネシア、フィリピン、タイ、バングラデシュ、カンボジア、フィジーなどで山や野に、さらには海岸に植林し、そのほか中国での砂漠化防止に取り組んできましたが、これまでに植えた木は2百万本を超え、植林面積は約1万3千ヘクタールに及びます。

 バングラデシュ、タイ、フィリピン、インドネシアなどではマングローブの森が立派に育ち、サイクロンの際の被害軽減にも役立っているほか、サンゴの自生が回復するなど生態系の改善にも貢献しています。

 一昨年夏の石原知事の海外視察(ツバル、フィジー)では、フィジーでのマングローブ植林地を視察していただきました。

―毎年夏にはボランティアによる「緑の植林協力隊」の派遣も行っていますね。

中野 目的は植林ですが、何よりも現地の生活を体験してもらうのが一番です。場所によっては電気も水道もなく、夜寝るところはバンブーハウスに雑魚寝というところもありますから。朝起きたらまず水汲み、夜はランプのもとで手紙を書く、そんな体験はいまの日本ではできません。

 虫も多いし最初は誰もがこんなところで、と思うのですが、そのうちにそれが楽しくなってくる。感想文を読むと、“行って本当によかった”という人が多いですし、卒業したらぜひオイスカの活動をしたいと言ってくれる人もいます。実体験にまさるものはないとつくづく思います。

 今年も夏を中心に、マレーシアのボルネオ島での植林をはじめ多くの派遣が予定されています。

日本からのボランティアとともに植樹(パプアニューギニア)

日本からのボランティアとともに植樹(パプアニューギニア)

―子供たちに木を植えてもらう活動にも力を入れていますね。

中野 学校の敷地などに苗木を植え、育てていく「子供の森」計画を推進しているところです。これは木を植える実践活動を通じて「自然を愛する心」「緑を大切にする気持ち」を養いながら、地球の緑化を進めていこうというもので、平成21年3月時点において世界26の国・地域の3千974の学校が参加するまでにその輪が広がっています。

 今後、家族や地域住民へと活動の輪を広げ、地域を巻き込むことでその地域全体の活性化を図っていきたいと考えています。

―中野総裁は宇宙への感謝、とくに太陽の恵みに感謝する気持ちが大切だと言われますね。

中野 私たち人類にとって、地球は唯一の住処(すみか)であって、ほかに住むところはありません。この地球に莫大なエネルギーを無償で送ってくれている太陽です。人は太陽などあって当たり前と思っていますが、とんでもないことです。この太陽がなかったら人間も動物も一日だって生きることはできません。金がすべてのような現代世界ですが、世界中のお金を集めても賄うことはできないわけです。

 日本には昔から太陽を崇拝する文化があり、何か悪いことをすれば、「お天道様がみている」と言われたものです。朝、おじいちゃんがお天道様を拝む姿を子や孫が見て、お天道様はあまねく世界に降り注ぎ、その下ではみなが平等なんだと感じる。そして、それが戒めになって道徳意識が自然と身につくのではないでしょうか。そういうことを伝えていくのもオイスカの役割だと思っています。

 実はオイスカの関連団体の「国際文化交友会」が静岡県の函南町、富士山の裾野に「月光天文台」という天体観測所を持っているのですが、ここで子どもたちに宇宙を見せると驚くほど感動して自然への認識が深まります。

 環境教育の充実がよく言われますが、自然の中で最も大きい存在が宇宙です。宇宙にはきちんとした秩序、計り知れない大きさ、圧倒的な美しさがあり、その「正・大・美」を教えてくれます。自然環境を学ぶ情操教育として、宇宙を見せることが最も効果的ではないでしょうか。

 

欲やエゴを抑え、ほどほどにすれば
みんながもっと幸せになれるはず

―最後に、今後の抱負をお願いします。

中野 いま経済不況や環境問題などで世界は混乱していますが、私は、みんなが欲やエゴのハードルをもう少し低くすることができれば世の中が変わると考えています。経済優先で金儲けに走るのではなく、これで自分は十分間に合う、やっていけるという考えに立てば、もっと多くの人が幸せになれるはずです。

 「商い」という言葉の語源は「空きがない」つまり、余っているところから、無いところに物を循環させるということです。また、「働く」という言葉は「傍を楽にする」こと。つまり他人のためにしてあげるという意味です。

 お風呂で温かいお湯を懸命にかき集めようとしても逃げていってしまうが、他人へと送ってやれば回りまわって自然に自分のところに温かいお湯が回ってくる。そんなイメージでしょうか。

 オイスカの活動理念の根本もそのようなことだと思います。2年後にはオイスカ創立50周年の節目を迎えますが、いまだに資金が潤沢にあるわけではなく、職員のボランティア精神やオイスカの考えに賛同してくださる会員のサポートで何とか成り立っているのが実態です。ですから、いま一生懸命会員を募っているところです。

 そうした人たちの期待に応えるためにも、今後も天から命(いのち)を授けていただいたという感謝を忘れずに活動に取り組んでいきたいと思います。

 


オイスカ・インターナショナル総裁 中野良子さんプロフィール

撮影/赤羽 真也

<プロフィール>

なかの よしこ
1933年京都府生まれ。岐阜大学教育学部卒業。74年オイスカ・インターナショナル総裁、75年財団法人国際文化交友会理事長、83年財団法人オイスカ産業開発協力団会長に就任、現在に至る。75年中華文化大学名誉哲学博士号。93年外務大臣表彰。94年タイ王国勲章。96年フィジー大統領勲章。97年藍綬褒章。99年マレーシア国王よりDATUKの称号を授与。著書に「アジア発、地球へ」(国際開発ジャーナル社)、「『つつしみ』の法則」(万葉舎)など。

 

 

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