HOME » トップインタビュー一覧 » トップインタビュー Vol.46 (株)乃村工藝社 代表取締役社長 渡辺 勝さん
インタビュー
2011年10月20日号

 

株式会社乃村工藝社 代表取締役社長 渡辺  勝さん

人びとに歓びと感動を与えたい。

株式会社乃村工藝社 代表取締役社長

渡辺 勝さん

 1892年(明治25年)、芝居の大道具方として創業。以来、人びとをワクワクさせ、感動させる集客空間をプロデュースし続けてきた。100年以上にわたって培われてきたノウハウは世界でも高い評価を受け、クールジャパン戦略の一翼を担っている。ディスプレイ業界のリーディング・カンパニー乃村工藝社代表取締役社長、渡辺勝さんにお話をうかがった。

(インタビュー/津久井美智江)

人びとを感動させる空間を創るプロデューサー集団

―ホームページを拝見すると、「ディスプレイの進化と共に歩む乃村工藝社」というフレーズが目に留まります。ディスプレイというとデパートのショーウインドウくらいしか思いつかないのですが…。

渡辺 私たちの仕事は「集客空間創造」、つまり人びとをワクワクさせたり、感動させる集客空間をプロデュースすることです。例えば百貨店やブランドショップなどもそうですし、博物館や資料館などの展示、イベントや博覧会などもそうです。

スピーディな舞台転換で観客を仰天させた十二段返し
※クリックで拡大表示

―そもそものスタートは芝居の大道具方ということですよね。

渡辺 創業者の乃村泰資はもともと、香川県高松の足袋職人でした。芝居が好きで、大阪から来たという芝居小屋を訪ねてみると、着ぐるみを作る職人がいなくなり困っていました。そこで泰資が「私が作ります」と手をあげて、翌日には馬の着ぐるみを作っていったそうです。馬と馬主が別れる感動的なシーンで、馬主が馬に「人間の気持ちはわからないよな」という台詞があるのですが、その時に馬の目から涙がこぼれる仕掛けがほどこされていました。それが観客に大好評となり、大道具方の世界に入ったときを当社の創業としています。明治25年のことです。

―創業時から人を驚かすとか感動させることが得意だったのですね。

乃村工藝社は商業施設などの空間のディスプレイが事業のベース

商業施設などの空間のディスプレイが事業のベース

渡辺 それが乃村工藝社のDNAだといえますね。
 その後、大正時代には両国国技館で菊人形の大規模な段返しを手掛けたり、戦時中には真夏に雪を降らせたり、戦後は百貨店にサンタクロースを登場させたり……。人びとに驚きや感動を与えるために、従来にないアイデアをディスプレイという形で百貨店や博覧会など多彩なジャンルに展開してきました。
 現在、デザイナーとプランナーを合わせて約350人、プロダクトディレクター等も含めると1500人くらいの社員がいます。ディスプレイ業において、これだけの集団を持つ企業は、日本にはありません。しかも私たちは、企画・デザイン・設計・制作・施工という空間創造事業だけでなく、空間活性化事業(販売促進・施設運営・メンテナンス)まで手掛けています。

―さまざまな機能が集まっていると。

渡辺 そうです。デザインならデザイン、さらにデザイナーは飲食・物販店舗などの商環境デザイナーや展示会イベント、ショールーム・博物館の展示デザイナーなどに分かれています。しかし最近は、仕事のジャンルがボーダーレスになってきたというのでしょうか、例えばショールームでもきれいに見せるデザインだけでなく、実際に売れるプランにしないと意味がないというように流れが変わってきています。そういった面で当社には多彩なソフトを提供できる人材がそろっていますので、多様な人材をコラボレートして、お客様のニーズに合わせて企画を提供することが可能です。

 

長年培ってきた信頼が経常顧客の多さにつながる

―店舗やショールーム、展示会などの集客空間のディスプレイは、自社で提案されるのですか。

渡辺 やはり最初はお客様のコンセプトありきです。ディスプレイ業は未だ、基本的に受注産業です。私たちは年間7000件以上のプロジェクトを手掛けていますが、多くはまずお客様から基本構想やコンセプトのお話しをいただいてから、企画・デザインのアイデアを出し、具現化していきますから在庫を抱えることがなく、リスクは比較的低いといえます。
 しかし、この業界は企業の宣伝広告費や設備投資で成り立っていますから、世の中の景気に左右されやすいところがあります。ベースとなる設計・施工を中心とする空間創造事業は大切にしつつも、今後は自ら提案し、集客に結びつけ、収益を上げていくような空間活性化事業に力を入れていきたいと考えています。

―具体的にはどんなことを。

渡辺 最近ニーズが高まっているのは施設やイベントなどの運営管理です。
 例えば、2003年に施行された指定管理者制度などの公共施設の運営管理への取り組みがそうです。現在、長崎歴史文化博物館や東京都水道歴史館など10施設くらいの運営管理に携わっていますが、公共の文化施設の価値を高め地域の活性化と変革の触媒として成長させることにより、豊かな地域づくり、まちづくりに貢献できればうれしいですね。

―行政のプロジェクトは随意契約が難しいので、何年かに一度はプロポーザルや入札が行なわれます。それまで培ってきたものが白紙に戻ってしまうのはもったいないです。

長崎歴史文化博物館では指定管理者として運営管理に携わっている
※クリックで拡大表示。

渡辺 それはもったいないですね。そうならないように私たちは、ノウハウを蓄積し、新しいアイデアを生み出しながら、地域に密着していきたいと思います。行政のプロジェクトも継続性がはかれるように、もっと信頼関係を高めていきたいですね。世の中には、継続性が必要な仕事というものがあると思います。あ・うんの呼吸で物事が進めば効率も良くなりますよね。
 私たちは、民間企業において経常的にお取引をいただいているお客様が非常に多いです。売上高の75%以上が経常顧客からのものです。それは長いお付き合いをさせていただいている中で培った信頼の賜物だと自負しています。

―仕事も人間関係も、まず信頼関係がなければ成り立ちませんからね。

渡辺 バブル崩壊のときに、安いという価格面だけで当社のお客様とお取引を始めた施工会社もありました。しかし、施設が完成してからのやり直し、手直しの発生で、最後に「ノムラさん何とかして」というお話をいただいたことがありました。結局、そのお客様は付加価値のない、高い買い物をされたことになります。
 今もまた同じような状況になっていますが、価格競争に巻き込まれると実はお互いメリットがありません。そこを我慢しながら、いかに良いソフトの提供と提案ができるかが、私たちのような企業の正念場でしょうね。

 

日本の文化の基本にあるのはクリエイティブな分野の付加価値

―それにしてもいろいろな領域を手掛けていらっしゃいますね。

渡辺 当社のグループ会社では、ファミリーレストランのメンテナンスを行なう会社があったり、飲食・物販店舗の運営や博物館などの文化催事を企画運営して、そこでお土産物を販売している会社もあります。都庁の展望台のお土産ショップ、江戸東京博物館のミュージアムショップも私たちが手掛けていて、商品の開発から行なっています。
 再開発の商業施設にどのように人を集め、売れる店舗を誘致するのか、ショールームをいかに効率的に運営して、販売促進を支援するのかなど、提案したいアイデアが私たちにはたくさんあります。
 当社のベースである設計・施工を中心とする空間創造事業は、常にお客様へのオリジナル、一品生産がほとんどで、ゼロからスタートしてプロジェクトが完成したら終わりです。近年では、施設開発から設計・施工を手掛け、さらに運営まで手掛けていくケースも増えていますが、新装・改装された施設は、実際には完成してからがその施設の始まりであり、運営やメンテナンスは長く継続していきます。運営などの空間活性化事業を積極的に提案し、増やしていくことによってお客様に空間の価値を持続的に提供するとともに、当社にとって安定的な売上と利益を生み出す基幹事業にしたいと考えています。

乃村工藝社は江戸東京博物館のミュージアムショップの運営はもちろん、グッズの開発も手がけている

江戸東京博物館のミュージアムショップの運営はもちろん、グッズの開発も手がけている

―今後もどんどん事業領域は広がって行くのでしょうね。

渡辺 そうですね、幹となる事業からは逸脱しない範囲で拡大させていきます。スポーツイベントや音楽のライブイベントなど、まだまだ手掛けていない領域はたくさんあります。国内ではそのような市場を開拓する一方で、海外展開にも力を注いでいこうと考えています。
 経済産業省がクールジャパン戦略を推進していますが、日本のデザインやファッションといったクリエイティブな分野は、海外で非常に高い評価を受けています。日本の文化の基本にあるのは、そういう付加価値だと思います。これまではまず、東南アジアで制作・施工のハードで攻めようと思っていましたが、ソフトを売ろう、クリエイティブ産業におけるノムラブランドを構築していこうと大きく舵をきったところです。

―これまで培ってきたノウハウが海外でも生かされるわけですね。

渡辺 中国をはじめとして、東南アジアからの依頼が増えていますね。以前は日本メーカーの展示会やショールームの仕事が多かったのですが、最近はヨーロッパブランドの中国展開をコーディネートするような仕事もあります。
 またほかにも、中国の大手デベロッパーの都市再開発にともなう複合商業施設の環境演出などの仕事があります。とにかくスケールが大きく、日本とは規模が違いすぎて想像もつかないのですが、そういうプロジェクトについては設計会社やゼネコンと組んで、日本の企業連合で提案するという形をとっています。
 このようにまちのグランドデザインを創るというようなプロジェクトも入ってきています。海外においては、日本のソフトといいますか、クリエイティブ力を非常に高く買ってくれますので、そこを足がかりにして世界で通用するノムラデザインのブランドを確立することが私たちの夢です。

 

 

株式会社乃村工藝社 代表取締役社長 渡辺 勝さん

撮影/木村 佳代子

<プロフィール>
渡辺 勝(わたなべ まさる)さん
1947年生まれ。独協大学 経済学部卒業。1970年3月乃村工藝社入社。POP広告事業部、MC事業部などを経て、1993年 取締役、1997年 常務取締役、2003年 専務取締役、2007年5月より代表取締役社長。

 

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