HOME » トップインタビュー一覧 » トップインタビュー Vol.51 東京消防庁 消防総監 北村吉男さん
インタビュー
2012年3月20日号

 

東京消防庁 消防総監 北村吉男さん

災害現場では訓練以上のことはできない。
日頃の訓練がいかに大事かということです。

東京消防庁 消防総監

北村 吉男さん

 東日本大震災では、緊急消防援助隊として宮城県気仙沼で支援活動を担当。その後は福島第一原子力発電所の原子炉冷却プールに注水するという、きわめて特殊な任務に当たった。仕事に命を賭ける覚悟を持った人たちが集まる東京消防庁。そのトップとして精力的に活動を展開する消防総監、北村吉男さんに、首都東京の防災についてお話しをうかがった。

(インタビュー/津久井 美智江)

自分たちの持てる能力を最大限発揮し、現場で判断をして、注水にこぎつけた。

―この度の東日本大震災では、大変な任務を与えられ、見事に完遂されました。隊員の皆さまの活動にはとても心打たれました。

北村 阪神淡路大震災を契機に法制化された緊急消防援助隊の出動要請があり、最初は宮城県の気仙沼を担当し、そこに活動の拠点を置きながら、陸前高田などにも活動範囲を広げていきました。その後、福島県の第一原子力発電所の原子炉冷却プールに注水するという、きわめて特殊な任務に当たることになりました。
 これは、原子力発電所が燃えているわけではありませんから、本来の消防の任務ではなく、国の責務であり、事業者の責務です。しかし、総理大臣から都知事に「ぜひ出動してほしい」という相談があり、いわゆる国難でもありますし、ましてや注水に関しては我々はプロですから、「できる限り協力しましょう」と出動することになったのです。

―放射能は目に見えませんし、臭いも何もありません。隊員を派遣するに当たり、ずいぶん気を遣われたのではないですか。

北村 私はその時次長でしたが、原子力発電所がどういう状態になっているのか、どのように災害が展開されているのか、作業をする時にどんな危険があるのかということがまったく分からない。任務を全うするために事前にいろいろと注水の訓練をさせたという秘話がありますが、前任の総監はかなりご苦労なさったと思います。

―派遣される隊員のご家族もさぞご心配だったと思います。

北村 ですから、安全面に最も重きを置き、特殊災害支援アドバイザーとして救急医療の専門家である杏林大学の山口芳裕教授に支援をお願いしました。また、千葉市の放射線医学総合研究所の明石真言先生とも連携をとっていただいて、ヨウ素剤のことも含め、万が一の時には全面的にバックアップしていただく体制を整えました。
 一方で、現地では隊員たちがどういう状況になるか分かりませんので、その日に行う活動は逐一ご家族に連絡し、帰ってきてからは24時間、隊員が健康診断を行える態勢を確保しました。 そういう裏づけがないと、隊員たちも安心して活動はできません。

―現場は想像以上に大変だったのでは?

北村 隊員たちも予期しない瓦礫の山だったので、訓練どおりに行かない部分もあったようです。しかし、自分たちの持てる能力を最大限発揮し、現場で判断をして、何とか注水活動にこぎつけた。災害現場では、訓練以上のことはできないんですよね。日頃の訓練とか鍛錬がいかに大事かということです。

―しかし、無事にやり遂げられました。

北村 結果としては、自衛隊、警察とともに消防も、国難を救う一翼が担えたのではないかと自負しています。

 

救急相談センターと救急受診ガイドで、
救急時の相談機能充実を図る。

東日本大震災において作戦室で指示している様子

東日本大震災において作戦室で指示している様子(平成23年3月11日)

―今回のご活躍で、消防に対する都民の期待が高まったのではないでしょうか。

北村 今回は、消防救助機動部隊(ハイパーレスキュー)という特殊な部隊が行っているわけです。私はそういうエリートの部隊だけではなく、ポンプ隊や救急隊といった普段の活動の底上げをすることが、今、一番大事だと考えています。
 それから、安全・安心のために地域の防災ネットワークを再構築する必要もあろうかと思っています。我々は公助という立場で消防の業務を行いますが、震災があった時には大規模な救助よりも大規模火災の鎮圧にウェイトを置かざるを得ないんですね。
 首都直下地震が心配されていますが、東日本大震災後、改めて強調しているのは、まず自分で自分の身を守る「自助」、次に、消防団や町会・自治会等の自主防災組織と連携して、初期消火や出火防止につなげていくような「共助」の大切さです。そうした防災の基盤となるネットワークづくりにおいても、指導的立場に立たなければならないと考えています。

―「長周期地震動」と「帰宅困難者」も大きな問題になりました。

大規模火災が発生した場合の延焼阻止線

大規模火災が発生した場合の延焼阻止線(平成23年11月26日総合震災消防訓練)

北村 長周期地震動については、池袋防災館に長周期地震動台を整備しました。長周期地震動に際しての身の処し方がありますので、ぜひ池袋に足を運んで体験してください。震動に関連して、これまでは家具の転倒・落下防止の呼びかけだけでしたが、家具の移動という問題も浮かび上がりました。オフィス家具、インテリア家具、ホームセンター、複写機といった各業界ともコラボレートして、3月いっぱい大キャンペーンを行っています。
 帰宅困難者対策については、総務局で条例を制定する準備をしています。東京都は従来から震災対策条例が先行しており、地震時の対応についても計画をつくろうとしていたところなので、その一環として帰宅困難者対策も考えていくことになりました。一斉帰宅の抑制、帰宅困難者のための備蓄など、共助ということで企業とも協力して進めていかなければならない事業だと思っています。

―防災もさることながら、消防には救急という大きな役割もありますね。

北村 救急搬送は昨年72万件を超え、大幅に増加している状態です。救急車を呼ぶべきか迷っている人に重症度をアドバイスする「救急相談センター#7119」を開設したこともあり、軽症者の搬送率は減ってきたのですが、それを上回る勢いで高齢者の搬送が増えているのが現状です。
 また、4月1日から携帯電話やパソコンから検索できる「東京版救急受診ガイド」というシステムを導入します。例えば、お子さんが熱を出した時に、救急車を呼んだほうがいいのか、近くの病院に連れて行ったほうがいいのか自ら調べ、判断材料とできるので、最近のお母さん達には心強い味方になるのではないかと期待しています。
 高齢者の救急搬送については、福祉保健局ともタイアップして、搬送病院の早期決定に力を入れたいと考えています。脱水症状が起きやすい夏場のように救急需要が急に増える時期がありますので、「水分をたくさん摂ってください」といった意識啓発なども、関係各局と一緒に取り組んでいきたいと考えています。

 

災害現場の最前線では、即時に、
その時、一番いい選択をすることが求められる。

―救急に関しては、AEDなどが普及して、応急救護のあり方も変わってきたのではありませんか。

北村 心肺蘇生のガイドラインの見直しがあり、新しく心臓マッサージとAEDを中心とする90分の救命入門コースができました。これまでの救命講習は3時間の普通救命講習と、8時間の上級救命講習だったのですが、90分というと45分授業2コマ分ですよね。子供の時から防災教育をすることが大事だろうと、小学校5年生以上を対象に救命入門コースを、中学生には普通救命講習、高校生には上級救命講習を行うことになりました。

―小学5年生から、隣で人が倒れたら自分に何ができるのかを体得しておくことはすごく大事だと思います。

北村 我々の特別救助隊長のコメントを教材に掲載していただくなど、教育庁とも連携して防災教育に力を入れているところです。地震対策も防災対策もそうですが、都庁の各局とこれまで以上に連携をとって、複合的な施策を実行していかなければならないと思っています。  村尾公一東京都技監を中心に、都市整備局、港湾局などそれぞれが災害に強い安全なまちづくりを検討していますが、そのためには消防の意見も取り入れなければいけないということで、昨年から東京消防庁もオブザーバーとして東京都技術会議に入りました。

―よく縦割り行政といわれますが、ぜひ各部局と連携してより良い行政を実現させてください。

北村 そうですね。それぞれが持っているノウハウをうまくコラボレートして、できるだけいいものをつくるという時代になってきていますからね。
 実は今、水道局と話をしているところなんですが、狭い道路の末端に水道の維持管理施設として排水栓というものがあるんですね。その排水栓が消火栓と非常によく似ていまして、消火栓と消火用ホースを接続するスタンドパイプを排水栓にも直結できることが分かったんです。排水栓は、消防隊が接近使用できなくても、地域住民の初期消火のツールとしては使えるかもしれませんよね。あるいは水道局は、使ってない消火栓から給水車に水を入れる給水活動ができるかもしれません。
 水道局と東京消防庁とで、お互いにどうしたら実現できるのか、どこまで整備できるのかを今検証し始めたところです。そうなると、住宅密集地域でも消防隊が到着する前に初期消火が可能になるとともに、より身近な所での給水ができることになります。今後、他局と連携して、消防ができる具体的な施策をどんどん進めたいと思います。

―それは画期的ですね

北村 我々は、最初から消防職として採用されておりますので、ある意味、専門職の集まりです。私も専門は土木ですが、パイロットだった人や1等航海士の資格を持っている人がいたりと、人材は実に多彩です。
 しかし、隊員皆に共通しているのは、災害の最前線で人を救うということに使命感を持っているということです。我々は常に災害現場の最前線に立っています。即時にその時の一番いい選択、正しい判断をすることが、災害現場における指揮者の責任です。消防総監として今、その職責の重さを改めてかみ締めているところです。

 

 

東京消防庁 消防総監 北村 吉男さん

撮影/木村 佳代子

<プロフィール>
北村 吉男(きたむら よしお)さん
 1954年石川県生まれ。平成23年7月16日第23代消防総監に就任。趣味は鉄道旅行、絵画鑑賞。座右の銘は動中の静、苦中の楽。北海道大学大学院土木工学専攻課程を修了し昭和53年4月に東京消防庁に入庁。平成12年4月多摩消防署長、平成14年府中消防署長、平成17年第六消防方面本部長、平成19年6月予防部長、平成21年7月次長をそれぞれ歴任し現在に至る。

 

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