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フランス料理には地域の名称や人物名などが、そのまま付けられるものがとても多いとか。一般的に知られているもの、あるいはまだまだ知られていないフランス料理についての由来・歴史などを、ARGO総料理長の山下シェフが紹介します。
第1回 中世のフランス人は手掴かみで食べていた?!
フランスにおける料理の発展は中世までさかのぼります。当時、イタリア以外のヨーロッパの国々は戦争に明け暮れていました。そのため、東方との交易などができず、料理はあまり発展していませんでした。現在のフランス料理からは想像もつかないかもしれませんが、12世紀ころまでのフランス人の食事は、ローストした肉と茹でた野菜のみであったと言われています。当時のフランスではフォークもなく、当然食事のマナーなどもないので、ナイフで切った肉や野菜を手掴みで食べていました。
また、肉類の保存に必要な香辛料は非常に高価で、金と等価で取り引きされるほど。砂糖も十分になくハチミツを代用していました。
中世当時の料理の先進国はイタリアで、その料理の歴史は古く、古代ローマ人はワインを作り肉や魚をちゃんと料理して食べていたそうです。その証拠に中世から約1500年さかのぼったポンペイの遺跡からも、鍋や皿、お玉などさまざまな調理器具が発見されています。
そんなイタリアから遅れをとっていたフランスも、ある事件により料理技術が劇的に発展していきます。それは、1533年のフランソワ1世の息子、アンリ2世とイタリアメディチ家の王妃カトリーヌの結婚です。フランソワ1世はイタリア侵略が失敗に終わりますが、当時の輝かしいルネサンス文化に心を奪われます。彼は先見の明のあった国王で、イタリア遠征の際、レオナルド・ダ・ヴィンチを連れ帰り庇護しました。レオナルドは国王に世界で最も有名な絵画の一つ「モナリザ」を献上し、これがフランス王室とイタリアメディチ家の縁組を実現させます。
婚礼にあたり、カトリーヌはフランス王室の食事があまりにも粗末だったため、メディチ家のお抱え料理人や菓子職人を大勢引き連れて行きました。このことが後のフランス料理に多大な影響を与えたのは言うまでもありません。ナイフやフォークを使って食事をするようになったのも、カトリーヌが嫁いでからだそうです。
<山下敦司プロフィール>
フレンチレストラン「アルゴ」(千代田区麹町)総料理長。
服部栄養専門学校卒業後、銀座「フランス料理清月堂」、大阪欧風菓子「ケンテル」を経て、1
995年渡仏。
エクス・アン・プロヴァンス「ル・クロー・ドゥ・ラ・ヴィオレット」(ミシュラン二ツ星)、
パリ「ル・ディヴェレック」(二ツ星)、アヌシー「オー ベルジュ・ド・レリダン」(三ツ星)
、ロアンヌ「トロワグロ」(三ツ星)、パリ「ピエール・ガニェール」(三ツ星)と数々の名店
で部門シェフを務め、クラシックから最先端のフレンチまで幅広く研鑽を積む。
2000年に帰国後は、ガニェール氏の推薦により「ル・コルドン・ブルー・パリ」にて6年半、
料理講座教授。
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