HOME » トップインタビュー一覧 » トップインタビュー Vol.55 FC東京 代表取締役社長 阿久根謙司さん
インタビュー
2012年7月20日号

 

FC東京 代表取締役社長 阿久根謙司さん

今求められているのは「自立」。
自ら考え、自ら解決することです。

東京フットボールクラブ株式会社
代表取締役社長

  阿久根 謙司さん

 2010年、J2に降格したFC東京。11年は「TOKYO SPIRIT~すべては勝つために~」をスローガンに掲げてシーズンに臨み、J2優勝とJ1復帰を飾った。勢いもそのままに天皇杯では初めて元日決勝に進出。クラブ初となる天皇杯優勝を果たすとともに、12シーズンのAFCチャンピオンズリーグの出場権も獲得した。「自立」をコンセプトに組織を率いる阿久根謙司社長に、今こそ求められる人材育成についてお話をうかがった。

(インタビュー/津久井 美智江)

義理人情に厚い江戸っ子気質のサポーターに支えられている

―小学3年生から野球を始め、早実、早大、東京ガスでセンターとして活躍された、いわば野球エリートですよね。サッカーのクラブチームの社長になるとは想像されていましたか。

阿久根 東京ガスでは過去野球部のコーチや監督をやっていましたので、まさかFC東京の社長になるとは思ってもみませんでした。私がいちばんびっくりしています。
 ただ、東京ガスに勤めていて、総務部で株主総会を担当したり、研究開発部門の人事担当で人材育成をした経験が今につながっていると思います。

―実は友人の息子がFC東京の熱烈なサポーターなんですが、「今度の社長はスタジアムに入る時とか出る時にハイタッチをしてくれるんだ」と、すごく感動していました。

阿久根 こちらこそ感謝しなければならないと思っています。開場前からずっと並んで待ってくれているんですから。勝った時はともかく、負けた時こそ早くサポーターの元に行って『今日はありがとうございました。また頑張りますからよろしくお願いします』と言うのが礼儀だと思っています。
 J2に降格した時も、皆さんの期待に反した成績となってしまったのですが、年間チケットの継続率はそんなに落ちなかったんですよ。こんな義理人情に厚い江戸っ子気質のサポーターに対して、こちらも何かしなきゃ申し訳ない。本当は一人ひとりにお礼をしたいくらいです。

―ユニフォームもホームとアウェイを揃えて応援しているらしいです(笑)。

阿久根  ユニフォームだって安くないんですよ。皆さん自分の生活費を削って応援してくださっているんですよね。
 うちにはFC東京クラブサポートメンバーという一口1000円の個人協賛があって、10口以上協賛していただいている方を「ビッグフレームス」と呼ぶんです。ある日、ファンのみなさんのツイッターを見ていたところ、「今日も昼飯を安上がりにしてビッグフレームスの契約の完了。この思いプライスレス」というツイートがありました。感動して涙が出そうになりました。
 私たちは皆さんに楽しんでいただくために仕事をしているのに、反対に元気をもらっている。そういう点からも本当にFC東京はチームとファン・サポーターが一体となっていると思います。

天皇杯優勝を果たし、AFCチャンピオンズリーグ出場も決めた   写真提供:FC東京

天皇杯優勝を果たし、AFCチャンピオンズリーグ出場も決めた
写真提供:FC東京

―Jリーグの目指すところの「地域に根ざしたスポーツクラブ」という理念がまさに具現化している感じですね。

阿久根 外食チェーンのすき家さんがスポンサーになってくださったのですが、その瞬間に「昼飯はすき家、夕食はココスのゼンショーチェーン」というツイートがありました。実際にファン・サポーターの皆さんは、牛丼チェーン店では「すき家」にばかり行くようになったらしいです(笑)。クラブを応援してくれる企業も一緒に応援してくれているのが、ツイッターを見ているとよくわかります。FC東京のスポンサーをサポートすること自体を楽しんでくれているのだと思いますね。

 

選手が自ら考えた
自分たちがやりたいサッカーで勝つ

―J2に降格した2011シーズンに社長に就任されたわけですよね。どうやってチームを立て直そうと思ったのですか。

阿久根 まず何でJ2に降格したのかを知るために、選手の話を聞くことから始めました。社長が選手と話すクラブってあまりないと思いますが、私はもともと野球の監督として選手と接していましたし、答えは現場にあると思っていましたから。
 そうしたら、「こんなはずじゃない」という現実逃避、「誰かがやってくれる」という他力本願な部分があることが分かった。要するに自分の心の中にある「甘さ」や「緩さ」ですよね。これは選手一人ひとりが、ピッチでどう考えて何をやるかを体現していくことによってしか解決できません。自ら考え、自ら解決することが必要だと思いました。

―それがFC東京2011シーズンのスローガンのなかでもとくに重要視していた「自立」ですね。

J2優勝の集合写真 写真提供:FC東京

J2優勝の集合写真 写真提供:FC東京

阿久根 はい。それで「自立」をテーマに、選手だけでなく監督やコーチ、ビジネススタッフにも「FC東京に今必要なものは何か」「直すべきことは何か」「誰が何をすれば解決するか」「自分は何をすべきか」ということを問い続けたんです。
 しかし、なかなか簡単には結果に結びつきませんでした。そして迎えた5月14日の草津戦。ロングボールやセカンドボールの球際での競り合いにことごとく負け、惨敗したんです。ファンのみなさんがブーイングさえしてくれない、ひどい負け方でした。そこでやっと、選手たちが「これではだめだ」と自分たちでミーティングを始めたんです。
 平山(相太)や高松(大樹)がケガをして、前線にターゲットとなる長身選手がいなくなったので、今までとはサッカーを変えなければならない。これからは、走ることでスペースをつくり、とことんパスでつないで相手を崩すパスサッカーをすべきだ。選手が自ら考え、自ら答えを出したんです。
 これは後から大熊監督に聞いた話ですが、キャプテン今野(泰幸)、副キャプテンの権田(修一)と石川(直宏)がやって来て、ただ「パスをつなぎたいです」ではなく「パスを“つなぎ倒したい”です」と言ってきたそうです。本来なら、戦術は監督が考えることですが、選手が自ら考え、勝つために自分たちがやりたいサッカーを申し出た。まさに「自立」ですよね。監督の戦術にもパスサッカーは入っていましたが、「そこまで言うなら、それで行こう」と選手の提案を受け入れたことで、モチベーションが上がり、チームに一体感が生まれたんだと思います。

―J2降格から1年でJ1復帰。最終的にはJ2優勝を飾り、さらに天皇杯では元日決勝に進出。大量4得点を取って、クラブ初となる天皇杯優勝を果たしました。チーム全員の「自立」が、見事に結果に結びついたわけですね。

阿久根 そうですね。それと同じことがJ1でもできるようになることが大事で、今まさに「強くなってJ1へ」を証明しているところです。ただし、勝負というのは相手があることなので、いきなり優勝するというのは簡単ではありませんが、現在の5位(7月13日現在)というのは決して悪くはないと思います

 

「コーチング」による人材育成をここFC東京でやりたい

―リーマンショックがあり、昨年は東日本大震災が起きて、先の見えない時代、これまでのセオリーが通用しない時代と言われています。
 「自立」は、スポーツの世界だけでなく、ビジネスの世界にも求められているのではないでしょうか。

阿久根 今の日本には、個性を個性のまま伸ばしていく教育が必要だと思います。日本は島国で、単一民族で、しかも農耕民族ですから、「みんなで一緒に」というのが国民性なのでしょうけれど、求められているのは、自ら状況を見て、何が必要かを考え、提案し、改革をつき進めていける人材です。
 ですから、FC東京では監督、コーチ陣だけでなく、ビジネススタッフの部長にも「自立」を促しており、上の立場の者が相手の立場を尊重し、相手の意見を傾聴し、選手や部下を観察することが重要だと説いています。

ファンと握手する阿久根社長 写真提供:FC東京

ファンと握手する阿久根社長
写真提供:FC東京

―今は時代の流れが速くなっていますから、早く覚えてほしくて、つい口を出してしまいます。

阿久根 仕事ができる人ほどそうですね。でも、それでは「自立」できない人間を量産することになってしまうかもしれません。自ら苦労して見つけた答えや身に付けたスキルは、そう簡単には失われません。監督やコーチも、選手や部下が自ら考えて結果を出した時のほうが喜びは大きいはずです。だから、上に立つ者は、教え込んではダメなんですよ。
 今年2月に打ち出した「FC東京2015VISION」では、「FOR NEXT INDEPENDENCE~次なる『自立』をめざして~」として7つの項目を掲げていますが、その一番初めにくるのが「Jリーグで常に優勝争いができるクラブづくり」ではなく、「トップチームに常に選手を輩出する育成体制の確立」です。FC東京は人が育つクラブであると言われるようになりたいと思っています。

―それはトップ選手を育てるだけでなく、いわゆる人材育成ということも含めてですか。

阿久根 そうです。FC東京はU―18、U―15の育成組織のほかに、サッカースクールやクリニック、派遣コーチなどを通して積極的に普及活動を行っていて、FC東京のコーチに指導を受けている子どもたちがいっぱいいます。でも、その中でトップチームに上がれるのはほんの一部。プロになれない人のほうがはるかに多いわけです。
 育成でも普及でも「今のプレーどうしたらいいと思う」と聞くように指導していると、だんだん子どもたちから「今日の試合はこうだったので、こういう練習をしたいと思います」なんて発言ができるようになっていくと考えています。

―サッカーを離れて社会に出ても、いい人材になりそうですね。

阿久根 『FCバルセロナの人材育成術』という本があるのですが、その中に育成と勝利は両立すると書いてありました。育成とは、自分で見て、考え、動けるようにすること。まさに「自立」なんですよ。自立と勝利はイコールじゃないとよく言われますが、勝つことによってそれを証明しているのがバルセロナです。
 サッカーは、一度動き出したら止まらないスポーツで、今の世の中を象徴していると思います。そこで人材育成をすれば、先の見えない世の中に出て通用する人材になると信じています。

 

 

FC東京 代表取締役社長 阿久根謙司さん

撮影/木村 佳代子

<プロフィール>
阿久根 謙司(あくね けんじ)さん
 1961年東京生まれ。早稲田大学商学部卒。早実野球部時代はセンターとして78年春夏甲子園出場。80年早大に進学し、六大学ベストナイン2回。82年秋季早慶戦では優勝を決める決勝打を放つ。第73代主将。84年、東京ガス入社。同野球部で外野手として活躍、99年には監督も務めた。2011年、東京フットボールクラブ(FC東京)代表取締役就任。

 

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