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インタビュー
2012年9月20日号

 

ダクタリ動物病院代表 加藤 元さん

ただ可愛がるのではなく、“科学的に可愛がる”ことが大事です。

ダクタリ動物病院代表
コロラド州立獣医科大学客員教授/日本親善大使
一般財団法人J―HANBS(ジェイ・ハンブス)代表理事

加藤 元さん

 軍国主義全盛の昭和16年、小学4年9歳の時『愛馬読本』という本に出会い、“動物のお医者さん”になろうと決意。やがて、欧米先進国と肩を並べるような獣医師を目指すようになり、世界でもっとも進歩している米国の臨床医学とその教育を紹介。日本の動物病院のレベルの向上をはかるとともに、ヒューマン・アニマル・ネイチャー・ボンド(人と動物と自然とを科学的に大切にする)活動の推進に当たってきた。ダクタリ動物病院代表であり、一般財団法人J―HANBS代表理事の加藤元さんに、人と動物との関わり方、人と自然との関わりのあり方についてうかがった。

(インタビュー/津久井 美智江)

バイオメディカル・サイエンスが医学の基本
獣医学も人間医学も同じです

―獣医師になられたのは、幼い頃から動物がお好きだったからですか。

加藤 子供心に犬や猫を飼ってほしかったんですが、家庭の事情が許さなくて。それに当時は、軍国主義全盛の時代ですから、軍用犬、警察犬はともかく、犬や猫を家族の一員として飼うようなことは一般的にはありませんでした。
 忘れもしない第二次世界大戦が始まる昭和16年、小学4年9歳になった時、私は小津茂郎先生の『愛馬読本』(馬の飼い方、しつけ方)という本に出合ったんです。当時はこんなに馬の美しい写真がたくさん載っている本なんてなくて、繰り返し繰り返し読みましてね、馬がやたら好きになりました。そして、人間には人間のお医者さんが必要なように、動物には動物たちのお医者さんが要るということも知りました。

『愛馬読本』

繰り返し読んだ『愛馬読本』

―それで獣医師になろうと思われたのですか。

加藤 家は先祖代々医者でしたので、親戚が皆お医者さんなんですね。どうせ医者になるなら、人間の医者はたくさんいるから、当時は見たことも聞いたこともない動物のお医者さんになろうと心に決めました。それから、ちょっとかっこいい言い方をすると、馬をいじめる人もたくさんいるというから、子供心に弱いほうの味方になろうと思ったんです。
 やがて、ただ馬のためだけの医者になるのではなく、欧米先進国と肩を並べるような、「人と共に暮らす動物たち(ペット)、動物園の動物や野生動物たちのための医者」になるのが夢となりました。

―希望通り北海道大学(北大)の獣医学部に進まれるわけですが、当時は畜産という意味合いが強かったのではありませんか。

加藤 私が北大に入った昭和27年頃は、犬や猫といったペットを含め、小鳥や象などの動物の医者というコンセプトはありませんでした。獣医学は、戦前から農学の中の畜産を支える学問に位置づけられていたので、農学部の主体だったんです。今は独立した獣医学部は、私学の何校かにありますが、国公立で獣医学部があるのは北大だけです。
 現に、欧米、特にアメリカ、カナダ、オランダはすべて獣医科大学(日本では獣医学部)です。東大は日本の大学の象徴ですが、今日も農学部の一獣医科で、戦後半世紀もたつのに獣医学部として独立していません。アメリカでは、バイオメディカル・サイエンス(生物医科学)が医学医療の基本、それを人間に応用するのか、犬や猫、馬や牛、野生動物に応用するのかだけの違いです。これを「ワン・メディスン」「ワン・ヘルス」といいますが、獣医学も人間医学も本来、同じなんです。
 医学部にしろ、獣医学部にしろ、歯学部にしろ、医師になるのに高校を出てすぐに医科大学に進むなんてありえない。医学の最も進んでいるアメリカのように、バイオメディカル・サイエンスを理解するのに必要な大学(単位)を卒業してはじめて、医学部(医科大学)、獣医学部、歯学部の受験資格が取れるというアメリカ式にしなければ本来の進歩はないと、卒業以来、思っています。

 

人と動物と自然のふれあいは、
健康とクオリティ・オブ・ライフをつくる

―ダクタリ動物病院の「ダクタリ」とはどういう意味なのですか。

加藤 スワヒリ語でドクター(医師)という意味です。ヨーロッパの植民地時代のアフリカでは、密猟から動物を守る「動物保護区」の保護官(獣医師)をさす言葉でもあり、地元の人びとは親しみをこめて「ダクタリ」と呼んでいたんですね。アフリカの広大な地で暮らす野生動物たちを守る獣医師と獣医学に敬意を表し、その「動物たち・人間・自然(地球環境)を大切にする」という思いを病院の名前に掲げました。

」

ワールドクラスの動物病院として誕生した白金のダクタリ動物病院診察室で

―日本で初めての「ヒューマン・アニマル・ボンド(HAB)」の理念に基づく動物病院とのことですが、HABとはどういうことでしょう。

加藤 人類は太古の昔から大自然の中で、さまざまな動物と接しながら、その温もりや優しさ、そして厳しさや生命の尊さを体感、体得しながら、人間としての感性を育んできました。そんな人間と動物との切っても切れない生きもの同士の相互関係をヒューマン・アニマル・ボンド(人と動物との絆)と呼んでいるんです。
 世界のどんな都市に行っても、必ず犬や猫がペットやコンパニオン・アニマルとして扱われています。そしてほとんどすべての国で、馬がコンパニオン・アニマルとして存在していますでしょう。これは一体どうしてなのか。
 このことに科学の光を当てて研究してみようと、獣医師レオ・ビューステッドを中心とした学者たちが、広く世界の獣医学・脳科学・動物行動学・教育学・医学・精神医学者たちに呼びかけて、1970年代の初頭からHAB研究が始まりました。

―世界中で、犬や猫、馬が人間と共生しているというのは面白いですね。

加藤 この新しい研究は、人と動物と自然との間に生まれる心身の影響を、科学的に解明しようとするものなんですが、その結果、人と動物と自然とのふれあいは、子供たちのヒューマンな脳や心を育てるのに不可欠であり、さらに人と動物たちとの双方の心身の健康とクオリティ・オブ・ライフにも良い影響を与えることが明らかになってきました。
 ヒューマン・アニマル・ボンドという言葉には、もともと自然を大切にするという意味も含まれているのですが、一般的にペット動物のみが注目され、その真意が伝わっていないことから、HABに本来の“Nature(地球環境の保全)”を加え、2010年から「HANB」を提唱することにしました。
 この総合的科学的な研究の成果を、人と動物双方の教育・福祉・医療に活かし、自然環境の保全と、安全で平和な地球社会のために役立てる努力を世界に先駆けて主張・具体的に実践するべく、特定非営利活動法人日本ヒューマン・アニマル・ネイチャー・ボンド・ソサエティ(J―HANBS)から、新たに強力な理事たちの参画を得て一般財団法人J―HANBSとなり、本格的に活動を開始したところです。

 

心情的に大切にすることと、“科学的に大切にする”ことは違う

―一般財団法人J―HANBSはどんなことに取り組んでいらっしゃるのですか。

加藤 人と動物と自然を三位一体で“科学的に大切にする教育”を実行、普及することです。つまり、野生動物に対しては、開発と称して自然環境を破壊するのではなく、生態系そのものを大事に保つ。犬や猫は、いまや野生に戻せないので、科学的ルールで共に暮らす。飼う以上は責任を持って死ぬまで面倒をみる。そこから生まれてくる、温かい心、優しい心を、教育や福祉、医療に活かすということです。

―よく生き物を大切にしなさいと言いますが、それは、ただ可愛がればいいということではないと。

加藤 私たちにとって犬や猫は、存在そのものが愛おしい。心情的に大切にするのは当たり前です。
 しかし、心情的に大切にできたとしても、科学的に間違いであれば、飼主がもてあましたり、最悪の場合、死に追いやることにもなりかねません。
 犬、猫、馬の予防できる伝染病は、全部ワクチンができていますから、全部接種してもらいましょう。栄養学も人間以上に発達しているので、それぞれの動物たちに合ったベストのペットフードを与えましょう。人と動物のコミュニケートが成立しなければ仲良くできませんから、習性行動学に基づいたしつけをしましょうといった、“科学的に大切にする”ことを広く教えていきたいと思っています。

―ペットフードが栄養学に基づいているとは知りませんでした。では、避妊や去勢手術も“科学的”にはすべきことなんですか。

加藤 適切な時期(生後3~4ヶ月)に避妊・去勢手術をすることで、性ホルモンの関係する癌などの病気はゼロにでき、その動物のクオリティ・オブ・ライフが良くなることが証明されています。
 避妊・去勢を「自然に反する」とか「かわいそう」と言う人もいますが、動物愛護の観点からすれば、飼い主が祝福されない命を作る、もてあまし捨てる、そして殺処分されるほうがよっぽど残酷でしょう。
 それに、避妊・去勢手術で、動物同士とも、人間とも仲良くできることもよく知られています。だから、本当は犬や猫にとってもありがたいことなんですよ、「ありがとう」とは言いませんけどね。

―物言わぬ相手だからこそ、“科学的に大切にする”ことが大事なんですね。

加藤 馬と付き合い始めて感じた一番大きな疑問は、どうして私は馬と話ができないんだろうということでした。人間には言葉があるけれども、馬には言葉がない。すべては表情や気配やボディランゲージで知らせる。後に人間も言葉以外は、犬や猫もすべてそういうことだと気づくのですがね。

―動物は一番本質的なことをちゃんと分かってくれている気がします。

加藤 言葉がないだけに、きわめて敏感に物事の察しがつくのでしょうね。
 むしろ、30代に入るまでは、人間なのに女性とはどうしてこんなに通じ合わないんだろうと不思議に思ったものです(笑)。

―男と女は別な生き物だと言う方もいますが(笑)。コミュニケートが上手くできないということは、いじめの問題にもつながっているような気がします。

加藤 動物の虐待とまったく同じです。不思議なことに、重大な事件を起こした人の背後には必ず動物虐待の歴史があるんですね。「動物を虐待できる人間は、人間をも虐待する」という言葉がありますが、まさに真なりです。
 だからこそ、児童教育にヒューマン・アニマル・ネイチャー・ボンドの科学を活用してほしい。ぜひ、「人と動物と自然との正しいつきあい方」を科学的に学んで、人間と動物と自然が共存できる幸せな世界にしていってほしいですね。

 

 

ダクタリ動物病院代表 加藤 元さん

撮影/津久井美智江

<プロフィール>
かとう げん
 1932年、神戸市生まれ。56年、北海道大学獣医学部卒業。64年、杉並区でダクタリ動物病院を開院。73年のカンザス州立大学を皮切りに、コロラド州立大学、カリフォルニア州立大学、フロリダ州立大学客員教授を歴任。現在も、コロラド州立獣医科大学、千葉科学大学、北京農業総合大学 客員教授を務める。公益社団法人日本動物病院福祉協会初代会長、IAHAIO元副会長(95年~01年)。一般財団法人J―HANBS代表理事、ダクタリ動物病院代表

 

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