HOME » トップインタビュー一覧 » トップインタビュー Vol.59 株式会社東芝 取締役会長 西田厚聰さん
インタビュー
2012年11月20日号

 

株式会社東芝 取締役会長 西田厚聰さん

座右の銘は「実心、実言、実行」です。

株式会社東芝 取締役会長
社団法人日本観光振興協会 会長

西田厚聰さん

 東京大学大学院時代に、日本政治史の研究のために留学していたイラン出身の女性と出会い結婚。イランに渡ったのが東芝との縁の始まりだった。東芝ヨーロッパ社上級副社長、東芝アメリカ情報システム社社長、そして東芝社長と、グローバル企業のトップとして、大胆な戦略の選択と驚くべき集中力でイノベーションを推進してきた株式会社東芝会長の西田 厚聰さん。グローバル化の流れの中で、日本の企業が生き残り、さらに発展していくための秘策をうかがった。

(インタビュー/津久井 美智江)

「応変力」をいかに高められるかが
あらゆる事業展開において重要

―日本のグローバル企業は、海外で苦戦を強いられ、大変なことになっています。原因は何だと思いますか。

西田 グローバル化が遅れたということでしょうね。

 日本の市場は、全世界の市場の15%がせいぜいです。ですから、国内市場での売上げが60%、70%ということはおかしい。韓国と比較するとお分かりになると思いますが、韓国の市場はきわめて小さいですから、海外に進出するほかなく、どんどん海外に進出してきました。

 これだけグローバル化が進展した状況を考えれば、日本国内の市場だけをターゲットにする時代はとっくに終わっていると認識すべきですね。

 また、1980年頃からパソコンの出現によりデジタル化が一気に進み、ネットワーク化、しかもグローバルなネットワーク化が同時に進行しました。それによりグローバル化のスピードも2倍、3倍になった。その認識も若干遅れたといえますね。

STS forumのEnergy & Environmentのパネルセッションに登壇中の株式会社東芝の西田会長

STS forumのEnergy & Environmentのパネルセッションに登壇中の株式会社東芝の西田会長

国立京都国際会館にて2012年10月7日から開催されたSTS forumのEnergy & Environmentのパネルセッションに登壇中の西田会長

―グローバルな事業展開を、しかもものすごいスピードで行っていくにはどうすればよいのでしょう。

西田 状況の変化の意味、本質をきちんと見極め、洞察した上で機敏に対応する。そして対応すると同時に、自分たちも変わっていく必要がある。私はこの考えを「応変力」という言葉で表わしているのですが、「応変力」をいかに高められるかということが、今後のあらゆる事業の展開において極めて重要になると思います。

 なぜかというと、市場経済には競争という基本理念があるからです。だから競争しなければならない、しかもグローバルに競争しなければならないんです。

―グローバルな競争力を身に付ける必要があると。

西田 そうです。さらに20世紀から21世紀に至る過程で、世界経済を取り巻くいろいろな環境が大幅に変わってきました。20世紀は成長のことだけを考えていれば良かったですが、21世紀は資源の制限や環境保全の問題が出てきた。

 こういうさまざまな課題を解決し、克服しながらグローバルに成長していくには、新たなイノベーションを起こし続けていくしかないと思います。

―どうすれば次々とイノベーションを起こしていけるのでしょう。

西田 日本ではイノベーションというと「技術革新」というイメージがあると思いますが、もともとの意味は新たなるものを生み出し、創り出していくこと。中国語で「創新」というように、新しいものを創り出すことですから、誰のどんな仕事にもイノベーションは起こり得るわけです。

 例えば、まったく新しい何かを生み出すようなイノベーションはもちろんですが、技術開発、部品や材料の調達、物を作る、マーケティングやセールスなど現行の事業に適応するさまざまなプロセスにもイノベーションがあります。

 私どもでは前者をバリュー・イノベーション、後者をプロセス・イノベーションと呼んでいますが、こういうイノベーションを全員が起こせるような企業にならなければならないと思っています。

 

産業としてきわめて大きい観光
国家戦略として本気で取り組むべき

―日本は観光立国を目指すということで2008年に観光庁ができました。日本観光振興協会会長として、日本の観光産業はどうあるべきとお考えですか。

西田 観光は産業として大変大きいんですね。ところがこれも気づくのが遅かった。「観光立国」という言葉ができたのも、成長戦略の柱の一つだと言い出したのもつい最近のことでしょう。他の国は何十年も前からやっていることです。

 日本は欧米から見た場合、ディスティネーションとして不利ですから、海外からお客さんに来てもらうためには、きちんとマーケティングをし、誘客をしなければなりません。

 ところが、そのための予算はほんの少し。しかも経費節減とかいって、どんどん削られて大変なことになっています。観光という産業は、投資をするとその効果が比較的早く表れます。産業としての裾野も広いですし、即効性があるのですから、政府にはもっと力を入れて欲しいですね。

―日本には各国の政府観光局をはじめ、州あるいは市単位の観光局がありますね。日本の政府観光局は世界にどれくらいあるのですか。

西田 とても少なくて13カ所です。韓国は何カ所持っているかというと29。ヨーロッパ諸国も30前後の拠点を持っていますね。県では、福岡県が5カ国に拠点を設け、職員を派遣して誘客活動をしています。東京都もぜひ主要な国には事務所を構えて、誘客活動をしていただけると助かるんですが。

―国際会議や学会等開き、大勢の人に来てもらうことも重要なのではないでしょうか。

西田 マイス(MICE:Meeting Incentive tour ConventionまたはConference Exhibition)といいますが、例えば医療観光というのがあるんですね。日本はこれだけ高いレベルの医療技術があり、病院があり、医療機器があるにもかかわらず、極めて遅れています。

 一番進んでいるのはどこかといいますとタイ。世界全体で600万人強の医療観光旅行者がいるといわれていますが、その中の200万人がタイに行っています。2番目はシンガポールで65万人、3番目がインドとアメリカで45万人。タイはダントツなんですね。

 なぜかというと、立派な病院を建て、立派な医療機器を入れ、初めは海外から医師を呼んでいましたが、その間にタイの医師を海外に送り込んで人材育成をしてという、国家戦略として医療観光を誘致したからです。国家戦略として誘客をすると、これだけのことができるという典型的な例ですね。

―国が本当に成長戦略の柱にするのであれば、そこまで力を入れなければだめですね。

西田 もちろん国に頼ってばかりいてはいけないのですが、まったく遅れていると思いますね。国際会議が開ける会場やホテルが十分整っているかとか、道路標識一つとっても日本語しかないところもまだまだありますからね。そういったインフラも整備しつつ、いかに日本の魅力を伝えていくか。日本には自然、文化、伝統、食、ファッションなど、観光資源はいろいろあるわけですから、その魅力をきちんと発信していく必要があるでしょうね。そして、新たな観光資源を発掘していくことも大切だと思います。

 

リーダーに求められるのは情熱と
どんな困難も乗り越えるという強い意志

―日本のもてなしの心は世界でも評価されていますから、もっとアピールしてもいいのではないでしょうか。

西田 そうですね。それなりにお金はかかっても、「日本のおもてなしは忘れ難い、また行ってみたい」と思っていただくことは大切です。そのためにも、観光業を担う人材の育成が必要ですね。

 特に、地域で新たな観光資源を発掘しようとなると、一つのプロジェクトですから、プロジェクト・リーダーを育成する必要があります。

 「村おこしをするんだ、新しい観光資源を育てるんだ」という情熱を持ったリーダーの育成もやっていますが、愛着がなければ情熱は持てません。愛着を持てる人が、情熱と、どんな困難でも絶対に乗り越えるという強い意志を持って事に当たった時、初めてプロジェクトは成功するのだと思います。

 情熱プラス強い意思を持ったリーダーがたくさん出てきて欲しいですね。

―企業にとってもリーダーの育成は重要でしょうね。

西田 そうですね。しかも、これから求められるのはグローバル・リーダーです。彼らに必要なのは、言葉はもちろんですが、それだけではありません。

 企業活動は簡単に言うと、判断をするプロセス、判断したことをタイミングよく決断するプロセス、決断したことを素早く完全に実行するプロセスに分かれます。ですから、リーダーには判断力、決断力、実行力が求められるのですが、中でも「判断力」は重要です。間違えた判断を決断し、実行してしまったら大変なことになりますからね。

 しかし、判断力は一朝一夕では身につくものではありません。判断力を養うには、自分に関係することだけではなく、社会の動きやリベラル・アーツ(大学の学士課程における基礎・教養分野)をふだんから勉強することが大切です。そして、相手の立場に立って考えるということを繰り返すことによって、磨かれていくものだと思います。

 私の座右の銘は「実心(じっしん)実言(じつげん)実行(じっこう)」です。これはどういうことかというと、実際に心で思っていることを、実際の言葉、正しい言葉で表現し、表現したことは責任を持って実行するということです。

 言葉というものは、真実や真理を認識し、認識した真実や真理を相手に伝達し、理解してもらい、説得もする、唯一のツールなんですね。この認識を全員が共有することが大事です。

 東洋には「嘘も方便」という文化が歴史的に残っていますが、これは言葉を使って嘘をつくということです。「嘘も方便」の文化を根絶するということも含めて、言葉に対する認識を改めないとだめだと思いますね。

―ビジネスの世界においてはそうでしょうけれど、「阿吽の呼吸」と言いましょうか、日本人の もてなしの心に通じる「慮る」といった文化は大事にしたいと、個人的には思うのですが。

西田 それはそれで大切でしょうけどね。

 もっとも人間は、一方では論理的に物事を考えられますが、一方では泣き笑い叫ぶ感情を持った存在です。合理的部分と非合理的部分が合わさった二律背反的な存在を組織の中でうまくまとめていくためには、やはり真実の言葉によるコミュニケーションが大切だと思います。

 

 

株式会社東芝 取締役会長 西田厚聰さん

撮影/木村 佳代子

<プロフィール>
にしだ あつとし
 1943年、三重県生まれ。68年、早稲田大学第一政治経済学部卒業。70年、東京大学法学政治学研究科修士課程修了後、東京芝浦電気(現・東芝)とイラン資本の合弁会社に入社。75年に帰国し、東京芝浦電気に入社。84年に東芝ヨーロッパ社上級副社長、92年に東芝アメリカ情報システム社社長に就任。パソコン事業を興した功績と赤字決算の驚異的な回復が認められ、2005年6月、社長に就任。09年6月より現職。社団法人日本観光振興協会会長

 

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