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Work & Business
2012年12月20日号

仕事に命をかけて Vol.54

海上自衛隊 砕氷艦しらせ
医務長 2等海佐
藤本 栄大

砕氷艦(さいひょうかん)しらせの医務長藤本氏

 文字通り、仕事に自分の命を賭けることもある人たちがいる。一般の人にはなかなか知られることのない彼らの仕事内容や日々の研鑽・努力にスポットを当て、仕事への情熱を探るシリーズ。

 言うまでもなく、自衛隊の任務は身体が資本。その身体のケアを行う自衛隊医官は、彼らの健康を支える重要な任務を担う。今回紹介するのは海上自衛隊医官であり、先月砕氷艦(南極観測船)「しらせ」に医務長として同乗した、藤本栄大2等海佐である。

(取材/種藤 潤)

『しらせ』に派遣されることは本当に名誉なこと

 2012年11月某日の大井埠頭。数日後に第54次南極地域観測への出航を控えた砕氷艦『しらせ』の艦内は、準備に取りかかる人たちで活気に満ちていた。

今回藤本2佐が医務長を務める砕氷艦『しらせ』

今回藤本2佐が医務長を務める砕氷艦『しらせ』

 「私も数日前に来たばかりで、これから艦内の確認や出航前の備品確認などを行うところです」

 今回この砕氷艦に医務長として同乗する藤本2佐は、時折艦内を新鮮な面持ちで見回しつつ、この任務への想いを明るい表情で語ってくれた。

 砕氷艦は、南極観測を行う船だが、運行・管理業務は海上自衛隊が担当している。藤本2佐はその医務長として、海上自衛隊から『しらせ』に派遣されたのである。

 「普段我々医官は自衛官の健康管理だけを見ていればいいのですが、『しらせ』では一般の方にも配慮しなければなりません。その点もふまえ、出航前の準備等を進めようと思っています」

 『しらせ』をはじめ、海上自衛隊の艦艇が長期間にわたり海外派遣の行動をする場合、通常は自衛隊病院等で勤務している医官が艦艇の乗り組みの発令を受ける。海外派遣の発令を受けることは、非常に名誉なことだと、藤本2佐は言い切る。

 「特に『しらせ』は海自医官派遣の中でも非常に貴重な体験ができる場です。発令をいただいて本当に嬉しく思っています」

 

自衛官関係者の診療と健康維持が主な任務

砕氷艦しらせ内には、最新鋭のX線や手術室など医療設備は充実している

砕氷艦しらせ内には、最新鋭のX線や手術室など医療設備は充実している

砕氷艦しらせ内には、最新鋭のX線や手術室など医療設備は充実している

木村1佐が率いた派遣海賊対処行動航空隊4次隊の集合写真。掲げたスローガン「団結」は木村1佐が発案した

 『しらせ』の航海期間は、2012年11月から翌年4月までの約5ヶ月。その間、海上自衛隊約170名に加え、観測隊約70名、計200名以上の乗員の健康の維持管理を、『しらせ』専属の衛生員2名、歯科医官1名と組み、藤本2佐がその中核となって行っていくという。

 「実は『しらせ』の航海期間内では、私が行えることはそれほどなく、むしろその前の、乗船にいたるまでの健康チェックや使用の可能性のある医療機器の準備などが重要となります。『しらせ』の医療設備は最新かつ充実していますが、やはり洋上でできることは限られます。できるだけ航海中なにも発生しないよう準備することが、私の最大の任務と言えます」

 本来の医官の任務地である自衛隊病院でも、診療行為と並んで健康維持、病気予防が重要な位置を占めると言う。

 自衛隊病院は、自衛官及びその家族を専門的に受け入れる病院だ。そこで医官は診療を行うほか、衛生隊において隊員の健康診断にも対応する。年1回の定期健康診断に加え、海外派遣前の臨時健康診断、入隊前の身体検査……ほぼ毎日のように健康診断が行われるという。

 「身体的な健康管理ももちろんですが、精神面でのケアも医官の重要な仕事です。特に海外派遣では、5ヶ月間も艦内で生活し続ける訳ですから、ストレスも溜まります。その点も気を配っていきたいですね」

 

専門分野以外もこなす臨床医師のスペシャリスト

 藤本2佐の専門は皮膚科。当然、自衛隊病院では皮膚科の専門医として勤務するが、状況によっては専門を超えて対応する必要が出てくるという。

 「病院にすべての専門医がいるわけではないですし、特に洋上などでは私一人が医師ですから、どんな分野での処置も求められます。ある意味ジェネラリストとしての要素が求められますね」

藤本2佐とともに『しらせ』の医療を担う衛生員の武田基さん(左)

藤本2佐とともに『しらせ』の医療を担う衛生員の武田基さん(左)

 自衛官と言えども、求められる能力は一般の医師と同じ。さらに一般の医師のように研究に従事し専門性を追求することよりも、優先されるのは常に現場に立ち医療に対応すること。言い換えれば、現場臨床医療のスペシャリストなのだ。

 とはいえ、藤本2佐は、多忙な日々の中でも、独自に学会などに参加し、皮膚科研究を深める努力も怠らない。

 「医師の一人なので、皮膚科の研究をもっと追求したい気持ちもあるのですが、ただ臨床現場の幅広さは医官だからこそ経験できるので、それはとても勉強になります。今回の『しらせ』もそうですし、それ以外にも海外の無医村地域への派遣なども、自衛隊では積極的に行っています。本当に医師が求められているのは、実はそういう場所です。そこで経験を積めることは、他の医師にはできない貴重なことだと思います」

 『しらせ』観測から帰還後、医師としてさらに成長した彼の姿が見られるのは、間違いなさそうだ。

 

<プロフィール>

1972年鹿児島生まれ。1992年防衛医科大学校に入学。卒業後、幹部候補生学校、自衛隊中央病院及び防衛医科大学校病院にて初任実務研修等を受けた後、自衛隊江田島病院に配属。2年を経て防衛医科大学校で初期専門研修を受け、専門医の資格を取得。江田島病院、呉病院を経て、防衛医科大学校医学研究科にて医学博士号を取得。その後、海上幕僚監部で人事管理業務等を行い、2012年10月より自衛隊中央病院に配属中、現職を拝命。

 

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