

第22回 特製の有機肥料で作られる
伝統大蔵大根と無農薬野菜
取材/細川奈津美
取材協力/江戸東京・伝統野菜研究会代表 大竹道茂
大竹道茂の江戸東京野菜通信 http://edoyasai.sblo.jp/

昨年から取り組みを始めた「伝統大蔵大根」は地元の消費者にも好評だ
本連載第19回でも紹介した伝統大蔵大根は、江戸時代に豊多摩郡(現在の杉並区)の源内という農民が作り出した「源内つまり大根」が原種。それが世田谷区の大蔵原に伝わり、今では「世田谷ブランド」として栽培されているが、杉並発祥の伝統野菜を地元で栽培したいと、昨年から伝統大蔵大根の栽培に取り組んでいるのが井口幹英さん(41)だ。
「杉並発祥の伝統野菜ということは後から知り、その偶然に驚きました」と井口さん。世田谷区の農家で伝統大蔵大根栽培の第一人者である大塚信美さんから種をもらい、昨年12月に初めて収穫。井口さんの畑前で行っている直売所で販売したところ、消費者から美味しいと大評判となった。

井口さん特製の「ボカシ肥料」。約1.3トン分をつくり1年で使い切る。
井口さん宅の野菜は、父親の代から無農薬有機栽培で作られている。防虫ネットや防蛾灯などで食害を防いでいるが、一番のこだわりは「ボカシ肥料」と呼ばれる、井口さん特製の有機肥料だ。
「油かす、米ぬか、蟹がら、発酵鶏糞等を混ぜ発酵させて使います。即効性はありませんが、ゆっくりと効いて地力が高まり、野菜の美味しさがアップするのです。配合の割合? 企業秘密です(笑)」
また、井口さんは杉並区の西エリアで不登校児の特殊学級「さざんか天沼教室」の生徒たちを招き、4月から12月の週1回、農業体験を実施するなど、地域活動にも貢献。はじめは無表情で作業している子どもたちが、自分が種を蒔いて育てた野菜ができるころには自信を取り戻し笑顔になるという。

畑前にボードとのぼりを出して対面販売を行っている
「杉並区内でも相続をきっかけに農地がどんどん減っていて、生産者同士でどうにかするというレベルではなくなってきています。子どもたちのためにも、また先祖代々続けてきた畑を残すためにも、“ここに来なければ買えない”野菜を作り、自分の思いやこだわりも一緒に伝えていきたい。杉並の野菜は美味しいと言ってくれる人が一人でも増えてくれればうれしいですし、都市農業のおかれている厳しい現状も知ってもらいたいです」