第23回 都区内唯一の牧場で搾乳される
牛乳
取材/細川奈津美
取材協力/江戸東京・伝統野菜研究会代表 大竹道茂
大竹道茂の江戸東京野菜通信 http://edoyasai.sblo.jp/
練馬区大泉学園町の酪農家・小泉勝さん(43)は都区内で唯一牧場を経営する小泉牧場の3代目。
もともとは岩手県にいた小泉さんの祖父が巣鴨に移り、大泉学園に来たのは昭和10年ころ。この地は牛の係留地として所有していた場所だったという。
「農家だと代々続いていて10代目とかいたりするから、うちはこの辺りでは新参者かな」と小泉さん。牧場では、現在30頭の乳牛から1日760キログラムを搾乳。子牛のうちは広々とした場所で育てるため、生後8か月から22カ月は北海道に預けている。
小泉さんが牧場を経営していくうえで一番大事にしているのが“人とのふれあい”。(社)中央酪農会議が取り組む「酪農教育ファーム」の認証を受け、地元の小学校を中心に酪農体験を通して食や命の大切さを学ぶ総合学習を行っている。
「牛乳は本来、親牛が自分の子どもに与えるためのものです。搾れる牛乳は1日だいたい20~50リットルくらい。そのうち子牛が飲む量はだいたい6~8リットルくらいです。子どもたちには、お母さん牛が子牛のために命を削って出している、その残りを私たちが分けてもらっているんだということを必ず説明しています」
さらに、精神障害者社会適応訓練事業の事業所として、主に統合失調症者を受け入れ、牧場の仕事を一緒に行っている。そういったスタッフがいるとはいえ、30頭を一人で搾乳し、早朝から夜遅くまで作業が続くのが牧場の仕事。苦労されるところは? と聞くと、「苦労って思ったことはないんですよ」と笑って答える小泉さん。
「父の代にはいろいろ苦情もあったようですが、今はむしろ“がんばってくださいね”と言われることのほうが多いです。都内の酪農家は54軒まで減少してしまいましたが、これからも人とのつながりを大事にしながら、一日でも長くこの地で酪農を続けていきたいです」