HOME » トップインタビュー一覧 » トップインタビュー Vol.63 NPO法人 放課後NPOアフタースクール代表理事 平岩国泰さん
インタビュー
2013年3月20日号

 

NPO法人放課後NPOアフタースクール代表理事 平岩国泰さん

子供も大人も地域も元気になる放課後の過ごし方を提案します。

特定非営利活動法人 放課後NPOアフタースクール
代表理事

平岩国泰さん

 長女の誕生を機に、子供を取り巻く環境に敏感になった。事件に巻き込まれる子供たち、ニート・引きこもりに象徴される“内面的ドロップアウト”……。そんな問題を解決するには、かつての日本がそうだったように「地域を巻き込んで子育てをする」こと。突破口は放課後にあった。“市民先生”によるアフタースクールで、親を支え、子供を元気にしているのが放課後NPOアフタースクールだ。注目の活動を代表理事の平岩国泰さんにうかがった。

(インタビュー/津久井 美智江)

「安全・安心な預かり」と「本物・多様な体験」が両立する活動

―アフタースクールとは、どんな活動なのですか。

平岩 アフタースクールは小学生の放課後を支える活動です。私たちの目指しているのは、「安全・安心な預かり」と「本物・多様な体験」が両立するものです。

 放課後の小学校を使って行いますが、特徴としては“市民先生”と呼んでいる地域の方やその道のプロなどがやってくることです。建築家・大工さんとの家づくり、主婦の方による料理、ほかにもスポーツ、音楽、アート、ものづくり、日本文化など1日に3~5くらいプログラムを開催し、子供たちは自由に参加します。

建築家、大工さんと1年かかって建てた2階建ての「放課後の家」

放課後の家

 子供の可能性は多様ですので、たくさんの活動を用意し、どんどんチャレンジしてもらいたいと思っています。「子供たちのいいところ探し」の時間とも言えますね。

 ほかに特徴をあげると、学童保育の預かり機能、異世代(1~6年生)の交流の場、誰でも使える、学校の先生と連携して運営するといったことでしょうか。

―放課後NPOアフタースクールを立ち上げたきっかけは?

平岩 2004年、私が30歳の時に長女が生まれたんですね。その頃、子供の連れ去り事件が起きていて、調べてみると、事件は主に放課後に起きていることが分かりました。

 そんな時、友人がアメリカの放課後改革を取材してきたんです。

 アメリカでは学力格差や、犯罪に巻き込まれたり、犯罪を犯す子供のドロップアウトの問題が深刻化し、それらを防ぐために、1980年代後半から各地で「放課後NPO」が誕生し、アフタースクールが社会のインフラとして機能していました。それは市長が主導して立ち上げ、NPOが運営する方式です。

 日本にも必要だと思い、活動を開始することにしました。

放課後の家

建築家、大工さんと1年かかって建てた2階建ての「放課後の家」(2008、2009年グッドデザイン賞受賞)

―当時はまだサラリーマンだったんですよね。活動は一人で始めたのですか?

平岩 大学時代の後輩を誘って、二人で始めました。

 とは言うものの、何から始めたらいいか全く分からなくて、ソーシャルビジネスコンテストに出たりしていたんですが、初めは全然ダメで……。ところが、世田谷区の地域活性化コンテストに通って、2005年11月にスタートすることができました。

―すんなり受け入れてもらえたのですか。

平岩 市民先生は、老舗和食店の職人さんが見つかりました。さっそく、学校に電話をしたんですが、すごい怪しまれて、取り次いでももらえない。それで、地区会館を借りることにしました。

 子供集めも大変で、学校は募集チラシの配布を受けてくれないし、児童館やスーパーに置いても、応募はゼロ。もうダメだと思っていたら、たまたま知り合った民生委員の方から開催前日に連絡があり、「少し集まったわよ」。初めての活動は4人の参加でした。

 

3校でアフタースクール開校、
50の小学校に300のプログラムを提供

―その後は順調に進んだのですか。

平岩 和食から始めて、お菓子、編み物など、企画も参加者もだんだん増えていきました。

 実際に活動してみると楽しいですし、成長していく子供の姿を見ると感動するのですが、一方で、居場所がなくて困っていたり、仕方なく塾に行っていたり、好きなものや夢中になれるものがなかったり、困っている子、元気がない子が多くいることにも気づき、「この子たちを見過ごしてはいけない」と強く思いました。国際的な調査でも日本の子供たちの自己肯定感やチャレンジ意欲は相当低い。ひとりの親としても何とかしなければと思いましたね。

記念すべき第1回の「和食プログラム」

記念すべき第1回の「和食プログラム」

 やがて活動が広がり、グッドデザイン賞をいただいたり、企業の協力を得られたりと、活動の質も高くなり、いろいろと声がかかるようになりました。そして、皆さんからの反応も「あなたたちがいてくれて良かった」というものから「いてくれないと困る」と変わっていったんです。

―それでNPO法人にしようと決意した。

平岩 NPO法人にするということは、組織としてずっとサービスを続けるということです。決心を固め、2009年に法人化しました。

 さっそく、行政と私立の学校に提案を始め、港区や世田谷区から仕事をいただけるようになりました。それまでの草の根の活動の実績が評価していただけたんでしょうね。

 さらに、新渡戸文化学園との運命的な出会いがありました。理事長が子供、親の子育て環境に危機感を感じ、「日本中の親子のために、夢のアフタースクールを一緒に作ろう」と言ってくださったんです。2011年に第1校目のアフタースクールとして開校、私たちにとっても夢のような話でした。

―アフタースクールは、今、何校くらいで開校しているのですか。

平岩 この春に3校目が開校します。プログラムを提供している小学校は50校くらいです。プログラムの種類も300くらいに広がり、50社以上の企業とも連携してきました。

―東京では民間の学童保育がどんどんできています。すごく高額にもかかわらずニーズがあるということは、それだけ親が困っているということですよね。

平岩 学童保育にも待機児童がいます。また「子供が預けられるのなら働きたい」という保護者も相当数いて、東京は特に多いと思います。

 私たちも民間学童の運営を勧められましたが、やはり学校というフィールドで、多様な活動がしたい。また、高くて一部の子供しか通えないというのは私たちのやりたいことと違います。

 ただ、民間学童の保護者を支える視点は評価されると思います。親が快適でいると、子供もいい状態になりますからね。子育ては学校、家庭、地域でチームになって行うべきだと思っています。

 「小1の壁」と呼ばれる現象があり、子供が小学校に入ったとたんに仕事を辞めるお母さんが少なくありません。さらに「小4の壁」もあって、3年生で学童保育が終わると、その先の預け場所がなく、仕方なしに塾に入れるというケースです。

―放課後の子供の行き場が塾になってしまっているんですね。

平岩 自分の意志で行く子はいいと思います。でも、行くところがないから塾にというのは残念です。

 これは、少子化にも直結しているんですね。日本で子供を増やさない理由を調べると、「子育てにお金がかかるから」が最上位、「子供を育てながら働ける環境がない」も上位です。

 子供の評価が偏差値だけに偏るのもいけません。子供にはたくさんの可能性があるし、どの子にも絶対にいいところがあります。それを見出すためにも、特に放課後にお金をかけずにできる選択肢があるべきで、その一つがアフタースクールだと思っています。

 

日本中にアフタースクールのネットワークを広げたい

―アフタースクールの醍醐味はどんなところですか。

平岩 やはり子供が成長した時です。最初の和食プログラムの時に、元気のない男の子がいたんですね。当時4年生で、その子は料理に目覚めていき、市民先生の職人さんも彼を一番弟子のように扱ってくれて、みんなから尊敬されるようになり、どんどん元気になっていった。自分の存在を認めてくれる人がいることで変わったんです。後でお母さんに聞くと、性格も前向きになり、友人関係もどんどん良くなったそうです。

 先日、小学校でアンケートをとったところ、アフタースクールがあることで、子どもは「学校が楽しみになった」「友人関係がよくなった」「夢中の体験ができる」、親は「安心して仕事ができる、新たに仕事を始められた」「学校が魅力的になった」「親子の会話が増えた」という評価をいただくことができました。

 子供と親の前向きな声を聞くのは何よりの喜びですね。

―アフタースクールは子供たちの課題解決も目指していますね。

平岩 子供たち一人ひとりの個性が認められることは、現在課題になっている「いじめ」「不登校」も未然に防ぐ活動だと思っています。「一人ひとりが大切な存在である」と子供たちが感じてもらえる活動にしたいと思っています。

スポーツや音楽、文化などさまざまなプログラムがある

スポーツや音楽、文化などさまざまなプログラムがある

―子供だけでなく、大人でも自分が必要とされていると感じることは大切です。それにしてもよくいろんな先生が見つかりましたね。

平岩 それは発見でしたが、皆さん子供のためというと、とてもボランタリーで、協力的です。そして参加すると、大人も元気になるんですね。私たちのような存在が心ある大人の力をどんどん集めてくればよいのだと思っています。

 日本は村全体で子供を育てるという文化がありました。アフタースクールは、子供も大人も地域も元気になる、一石三鳥の活動です。東京でモデルがつくれたら、次は地方を応援したい。そして、日本中にアフタースクールネットワークができて、子供たちの交流ができたら素晴らしいですね。

 また、アフタースクールは、女性の社会進出が進み、祖父母世代と離れて暮らす東京で特に必要とされるモデルです。現在パートナーとなってくださる行政を探していますので、ぜひ「わが町でアフタースクールを!」と思う行政の方は声をかけていただけると嬉しいです。

 

 

NPO法人 放課後NPOアフタースクール代表理事 平岩国泰さん

撮影/木村 佳代子

<プロフィール>
ひらいわ くにやす
 1974年、東京都生まれ。1996年、慶應義塾大学経済学部卒業。株式会社丸井入社、人事、経営企画、海外事業などを担当。2004年、長女の誕生をきっかけに、“放課後NPOアフタースクール”の活動開始。活動開始以降 “アフタースクール”には3万人以上の子どもが参加。グッドデザイン賞(2年連続)ほか各種受賞。2011年会社を退職し、NPO法人に専念。

 

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