HOME » トップインタビュー一覧 » トップインタビュー Vol.66 囲碁棋士 吉原由香里さん
インタビュー
2013年6月20日号

囲碁棋士 吉原由香里さん

No!というのが嫌。負けず嫌いなんです。

囲碁棋士 吉原由香里さん

 6歳の時父親と一緒に囲碁を始めた。努力は嫌いと言いながらも、生来の負けず嫌いのおかげでめきめきと腕を上げた。中学2年の時に加藤正夫九段に入門、日本棋院の院生となるも、プロへの道のりは厳しかった。当時の棋士には珍しく大学へ進学。広い世界を見たことが、改めて囲碁と向き合うきっかけになった。大学4年でプロになると同時に、その美貌で人気爆発。漫画「ヒカルの碁」を監修するなど囲碁の普及に努めてきた。今は一児の母としても頑張っている囲碁棋士の吉原由香里さんにお話をうかがった。

(インタビュー/津久井 美智江)

その道に真摯に取り組んでいるプロ棋士の、その純朴さが好き

—おじい様と叔父様が囲碁を打つのを見たのがきっかけで、お父様と一緒に囲碁を始めたそうですが、なんでまた囲碁だったのでしょう。

吉原 ピアノや水泳、書道なども習っていましたが、何か変わったことをやらせたいという思いがあったようです。よく6歳の6月に習い事を始めますでしょう。私が6歳のこどもの日に、突然父が碁盤をプレゼントしてくれて、父と一緒に近所の囲碁教室に通うようになったんです。最初は囲碁が面白いからというより、父にいわれるからやっているという感じでした。

—それでめきめきと腕を上げられて……。お父様がかなりご熱心だったとか。

吉原 ふだんは優しいのですが、こと囲碁に関しては非常に厳しかったです。娘が負けると、自分自身が悔しくなってしまうんでしょうね、よく叱られました。私も、やっぱり負けるのは嫌。とにかく負けず嫌いで……。だから、今があるのかもしれません。

―中学2年の時に加藤正夫九段に弟子入りし、プロを目指すことになるわけですが、囲碁の世界って小学生の頃からプロを目指す人もたくさんいますよね。

吉原 スタートとしては遅いですね。それは厳しい勝負の世界で生きていく覚悟ができていなかったというか、囲碁が好きなのか、負けるのが嫌でやっているのか、自分でもよくわからなくて……。決め手となったのは、やはり師匠に「プロにならないか」といっていただいたことです。

師匠の加藤正夫九段と

師匠の加藤正夫九段と

 それで、日本棋院の院生になり、プロ修行に入りました。その頃は、週3回は師匠のもとへ通い、土日は院生対局、水木は日本棋院で行われる対局の見学と、まさに“囲碁漬け”の生活でした。

—囲碁の魅力って、何だと思いますか?

吉原 ううん、何でしょうねぇ。確かに囲碁は好きなんですが、囲碁とつながりのある人が好きなんでしょうね。プロ棋士たちが大好きだから、その世界の仲間になりたかったんだと思います。

 ふつう初対面の人と何もしゃべらずに何時間も過ごすってあり得ないと思うんですが、囲碁の世界ではごく自然なことなんですね。で、対局が終われば「ここが良かったとか」とか「あそこはまずかった」とか、昔からの友だちのように会話ができる。囲碁を通じて、その人の人間性が垣間見えたりするのもちょっと面白くて、そういうところが私にはすごく魅力ですね。

—棋士独特の何かがあるのでしょうか。

吉原 う〜ん、みんな純粋なんですよね。純粋な反面、世間知らずなところもあるんですけど(笑)、本当にその道に真摯に取り組んでいる。その純朴さが好きですね。

—プロ棋士って、わりと早い時期に人生の道筋が決まりますよね。そのまま世間にもまれることなく、狭い世界で生きているから純粋なんでしょうかねぇ。

吉原 プロになるのはだいたい10代なので、そういう点では早熟なのかもしれませんけど、そこからあまり成長しない(笑)。たぶん私はその純粋さが好きなんだと思います。

 

与えられた課題をクリアすることで、次のステップが見えてきた

—プロ棋士になる方って、高校とか大学に進むイメージがありませんが、吉原さんは大学まで行かれましたよね。

吉原 やっぱり囲碁の世界は狭いので、社会とのつながりとかがものすごく限定されるような気がして、広い世界を見てみたかったという気持ちはありましたね。

 学校に行けばいろんな価値観を持った人がいますし、大学は大学で一つの世界ではあると思いますが、世界は広がりますでしょう。

—いち早くプロになるといわれながら、なかなか試験に受からなかったそうですね。あきらめようとは思われなかったのですか。

吉原 思った時期もありましたよ。19歳で試験に失敗した時は本当に落ち込んで、それからは一時期囲碁から離れてしまいました。一応毎年試験は受けていたんですが、やっぱり受からなくて……。あまりに不合格が続くと、だんだん嫌になりますし、また負けたらどうしようという恐怖にとりつかれてしまうんですね。一方で大学生活は、もう楽しくて楽しくて(笑)。そんな状態ではもちろん良い結果は出ませんね。

 でも、大学3年の時、ふと考えたんです。自分はこれから何をしていこう、と。その時、私の前にあったのが囲碁だったんですね。こんなにも自分を興奮させるもの、激しい感情を沸き起こすものは囲碁のほかにない。囲碁を離れて初めて、自分にはこの道しかないと悟りました。それに、就職活動もしていなかったので、プロになれなかったらどうしようというプレッシャーも相当でした。悲壮感漂っていたと思います。

—でも、結果は合格。プロになって一番うれしかったことは何ですか。

吉原 もうプロ試験を受けなくてもいい(笑)。それがすっごくうれしかったですね。

—NHK「囲碁の時間」にレギュラー出演されましたが、吉原さんが登場して囲碁のイメージが変わりましたよね。

吉原 いろいろ良く解釈していただきましたが、私としてはプロとしてちゃんと結果を出したいという思いが強かったですね。プロとして早く1勝したかったし、早く2段になりたかった。注目されればされるほど、頑張らなきゃ!と。努力が嫌いな私ですが、やる気を起こすきっかけになりました。

日本棋院から囲碁普及のために派遣されたオランダで子供たちに囲碁を指導

日本棋院から囲碁普及のために派遣されたオランダで子供たちに囲碁を指導

—子供たちに囲碁ブームを巻き起こした漫画「ヒカルの碁」の監修を務めました。教えることに興味はおありだったのですか。

吉原 囲碁にしてもそうなんですが、私は自分から何かをしたいということがほとんどないんですね。与えられた課題をクリアすることで、次のステップが見えてきたというのが本当のところです。

 教えることに関しても、教え方が下手な自分がすごく嫌で、とにかく上手になりたいと必死に頑張った結果、それが好きになっていったという感じなんです。今得意としている仕事も、最初は嫌で嫌でしょうがなかったものがほとんどです。要するに、No!というのが嫌なんですね、なんか悔しい。努力は嫌いだけど、負けず嫌いなんです(笑)。

 

家庭と仕事と両方あるから、子供もますます愛おしいと思える

—2002年にJリーガーの吉原慎也さんとご結婚されて、ご自分で変わったと思われることは?

吉原 変わったというか、一つ発見だったのが、意外と家の中のことが好きだということです。

 それまでは本当に仕事のことしか頭になかったので、最低限のことしかしなかったのですが、家の中を飾ったり……、センスは良くないんですけどね(笑)。

—では、お子さんが生まれて、気づいたことは?

吉原 やっぱり一日中家にいるのは辛いなぁと(笑)。ほんと、無性に仕事したくなります。産休で休んでいた時期は、特に思いましたね。

—どれくらい休まれたのですか。

吉原 3ヶ月です。

—専業主婦は無理ですね。

吉原 無理ですね、たぶん。それなりに家事は好きですけど、やっぱり仕事をして、社会と関わっていたいですね。家庭と仕事と両方あるから、子供もますます愛おしいと思うんですよね。

—待機児童のことが問題になっていますが、お母さんになっても働くにはいろいろハードルがありますね。

吉原 私の仕事は毎日フルタイムではないので、対応はしやすいかもしれないですが、ただやっぱり保育園がもっと入りやすかったらありがたいですね。今は無認可の保育園なので、来年はできれば幼稚園ではなく保育園に入れたいんですけど、どうかなぁ。今からドキドキです。

—条件とかが厳しいのですか。

吉原 私たちみたいにフルタイムで働いていない場合は、厳しいんですよ。これはもう働きたいお母さんの切実な願いだと思います。

 仕事をしたい女性はたくさんいると思うので女性が働きやすい環境がもう少し整うといいですよね。そうすれば税収のアップにもつながると思うんですけど(笑)。

—最後に、これから囲碁を始めようと思っている人に一言。

吉原 囲碁はよほどの高齢でない限り、いくつで始めてもそれなりに楽しめます。うちの母も50前後で始めて今60半ばで3級になりましたからね。日曜のNHKの囲碁番組を楽しみに、火曜は公民館、土曜は近所の囲碁教室と、充実した毎日を送っています(笑)。

—認知症予防にもなりそうですね。

吉原 頭さえしっかりしていたら、車いすでもできます。作家の渡辺淳一さんが、囲碁も将棋もお好きなんですが、歳を取ってきたら将棋はきつい。囲碁は、将棋に比べて勝負の内容が穏やかだからやりやすいとおっしゃるんですね。リタイアされた男性にはすごくおすすめですし、平安時代の宮廷の女性も楽しんでいたそうですから、女性にも向いていると思います。

 囲碁って、それなりに親しくはなるけど、親密になり過ぎないところがいいみたいですね。はっきりいって安上がりですし、適度に人と交流できるので、いい趣味だと思います。

 

囲碁棋士 吉原由香里

撮影/木村 佳代子

<プロフィール>
よしはら ゆかり(旧姓は梅沢)
1973年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。1980年より父と囲碁を始める。85年、全日本女流アマチュア選手権8位。 87年加藤正夫九段に入門。95年、女流棋士特別仮採用試験(プロ試験)に合格し、96年入段。2002年9月、五段に昇段。NHK教育テレビ「囲碁の時間」「あなたも夢中レディース囲碁」などにレギュラー出演。漫画「ヒカルの碁」では監修を担当。同年、プロサッカー選手(川崎フロンターレ)の吉原慎也氏と入籍。05年5月国際囲碁連盟理事に、初の女性理事として就任。

 

 

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