第81回 ミラノのキャベツの名をもつイタリアのちりめんキャベツ

  • 記事:加藤 麗

緑色の濃い、外側の硬くしっかりとした葉ほど煮込み料理に使うと美味しい

 地中海地方において、紀元前4世紀にはすでに栽培植物としての記載の残る、アブラナ科野菜のキャベツ。現代のイタリアにも、異なる葉の色や質感の品種が数多く存在します。

 「サヴォイキャベツ(ちりめんキャベツ)」の語源ともなっている、フランス・サヴォア地方に隣接する、北イタリアのトリノ県やアオスタ渓谷のカナヴェーゼ地域では、古い起源をもつこのサヴォイキャベツの栽培が有名です。

 イタリア語では、キャベツの総称でもある「ヴェルザ」や「カーヴォロ・ヴェルザ」と呼ばれるほか、「サヴォイア(サヴォア地方のイタリア語名)のキャベツ」、「ミラノのキャベツ」とも呼ばれ、特に北イタリアで親しまれています。葉の表面にシボ(凸凹)が広がり、まさにちりめん生地のよう。存在感のある葉脈も特徴のひとつです。

 歯応えのしっかりしたヴェルザは豊富なミネラルやビタミン類、葉酸といった栄養素のおかげで、紀元前6世紀頃には主に治療薬として用いられていました。咳やヘルペス、頭痛や腹痛の頓服薬、また、てんかん薬として、さらには酩酊を防ぐため、宴の前には生で葉を一枚食す習慣もあったそうです。傷の消毒薬としても知られ、何世紀にもわたり、航海中の多くの船員を、ヴェルザの葉を傷口に塗ることで、壊疽から救ってきました。母乳を増やす効果もあるとされ、今も産後の女性たちに推奨されています。

 古代ローマ時代の料理人で、贅沢を好んだ食通としても知られるマルクス・ガビウス・アピシウスは、ポロネギ、オリーブ、松の実、干しぶどうなどと組み合わせて、当時(1世紀頃)すでに、ヴェルザを料理に愛用していたといいます。

 そして今日もなお、寒い冬の料理としてヴェルザは食卓に並びます。カポネと呼ばれるピエモンテ料理は、牛や豚挽肉、柔らかいサラミ、お米をヴェルザで包んだロールキャベツに似たオーブン料理。カナヴェーゼ地域に伝わるヴェルザとパンのスープ。豚肉とヴェルザのリゾットは、エミリアロマーニャ州ピアチェンツァに伝わる美味しさ。イタリアのヴェルザを使った料理は、じっくりと時間をかけて加熱されているのが特徴です。

加藤 麗 かとう・うらら

加藤麗東京都生まれ。2001年渡伊。I.C.I.F.(外国人の料理人のためのイタリア料理研修機関)にてディプロマ取得。イタリア北部、南部のミシュラン1つ星リストランテ、イタリア中部のミシュラン2つ星リストランテにて修業。05年帰国。06年より『イル・クッキアイオ イタリア料理教室』を主宰。イタリア伝統料理を中心に、イタリアらしい現地の味を忠実に再現した料理を提案し、好評を博している。

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