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【鼎談】防災特集・特別鼎談2014年08月20日号

 

防災特集 特別鼎談
鼎談出席者:

司 会 弊紙主筆 平田邦彦 (都政新聞株式会社 代表取締役社長)

 東京都、東京消防庁、日本赤十字社では、首都直下地震に備えて様々な取り組みを進めているが、発災後72時間の対応は自助、共助に負うところが大きい。都民の防災意識の向上につなげるべく、9月1日の防災の日を前に、それぞれの立場から、現在進めている防災計画や準備態勢を明らかにしていただいた。一人ひとりが知るべきこと、考えるべきこと、備えるべきことを紹介することで、少しでも減災に結びくことをと願っている。

人命を助けるのは72時間が限界。とにかく72時間は自分で生き延びる。

平田 来る来ると言われながらいつ来るかわからない首都直下地震ですが、確実に来ることを前提に、それぞれのお立場から現在進められている準備態勢をご披露いただきたく。まずは宮嵜さんからご発言いただけたらと思います。

宮嵜 人命を助けるのは72時間が限界と言われていて、東日本大震災もそうだったんですが、72時間を過ぎると行方不明者捜索、ご遺体の回収になりますので、いかに72時間が大事かということを考えています。

 これまでも東京都は地域防災計画を策定していましたが、この計画に基づきどのように応急対策を行うのかを明確にした、首都直下地震等対処要領を、今回約1年かけてつくりました。実際に救助していただくのは、消防であり警察であり自衛隊であり海保であり、そして医療関係の方々 ですが、これらの機関をいかにコーディネートするか、つまり時系列上でそれぞれの役割をいかに効率的に調整するかが、対処要領の一つのポイントです。

 もう一つ、東京といっても地域によって特色が違います。それぞれの地域の特色を把握した上できちっと体制をつくるということもポイントになります。

 ようやく形はできましたが、道路は使えない、火事でごった返している、病院もおそらくごった返しているという状況の中で、どうやって現場で助けた重傷者、軽傷者を病院まですみやかに搬送するかが問題点として残っています。

鼎談風景

平田 富田さんは武蔵野赤十字病院院長として防災に非常に力を入れて整備されてきました。今までの体験をふまえて首都直下地震への対応をご紹介いただけますでしょうか。

富田 いろんな想定をして準備をしていますが、一つは中型ヘリが下りられるヘリポートをつくって、武蔵野市や市民と一緒に繰り返し訓練をしました。基本的には我々のところに集まってきた患者をトリアージして、重傷者は屋上のヘリポートからヘリで送り出す。中等傷者以下は我々の病院の中に収容する。そして退院してもらう患者さんのリストアップをすることですね。

 自家発電で1週間稼働できるようにしていますが、長時間手術室を動かすのは難しいので、重傷者はヘリで後方の県外に送るという想定で準備をしていますから、ヘリの搬送が絶対的に必要になります。それが我々のキーポイントだろうと思っています。

宮嵜 実際に全国からの救助部隊が全部集まるのは、発災から1.5日後ぐらいだと考えています。最初の一日は、消防、警察、自衛隊の皆さんはそれぞれ仕事をされますが、都は公助としては何をすべきか。我々が考えたのは、救助に来ていただく人たちの受け入れ拠点の整備です。

 具体的にはヘリの基地や船着場の確保で、自衛隊のいちばん大きい60人乗りのヘリCH―47が下りられることを基準に都立公園を約10カ所選び、救出救助拠点としました。そのうち川に面しているところが3分の1ぐらいありますので、河川をしっかり活用するとともに、拠点を基点に道路もきちっと使えるようにしていこうと考えています。

富田 日本赤十字社は、前橋赤十字病院が群馬にありまして、移転して建築する予定なのですが、そこには大きなヘリポートをつくり、首都直下地震の際にはそこに自衛隊に運んでもらうということで県とも話し合いが進んでいます。CH―47が降りられるヘリポートを持つ病院として、前橋赤十字病院はその中心になろうと準備しているところです。

 それから、デルー(dERU)という国内型緊急対応ユニットを全国に20配置しています。ERUとはエマージェンシー・レスポンス・ユニットの略で、トラックで運んで展開すると、そこに診療所ができるというものです。日本で我々が使っているのはドメスティックという国内用のものですが、東日本大震災でも武蔵野赤十字病院からトラックと救急車とバンの3台で行って、仙台で展開して診療しました。いわゆる応急手当ではありますけど。

平田 手術までのレベルではないということですね。

富田 手術ができるのは熊本赤十字病院が持っている災害対応用のコンボイです。東京消防庁が持っている、立川においてあるのと同じものです。手術ができて、6床ぐらいのICUになりますので、東日本大震災の時も熊本から石巻まで陸走したんですよ。

 

災害現場で避けて通れないトリアージ。黒タッグをつけるのが一番難しい。

平田 消防のお立場からはいかがですか。

大江 発災後72時間は状況にもよりますが、まず最優先は火災をどうやって食い止めるかです。木造住宅が密集した地域がかなりありますので、そこの消火には手間取るだろうと考えています。

 それができてから倒壊建物からの救出、救助になるかと思います。どういう災害状況になるかわかりませんが、けが人が最大で15万人と予想されていますから、重症患者をいかに医療機関まで運ぶか。震災時にはだいたい300隊ぐらいの救急隊を準備していますが、軽症者についてはマイクロバスに乗せて運ぶことになります。

 救急医療情報システムというのがあり、医療機関からデータが来て受け入れ可能な病院がわかるようになっています。システムがダウンしても、管内81の消防署がありますので、実際に人が行って病院の状況を把握し、受け入れ可能な情報は常に救急隊に流して、直近のところに運ぶのですが、災害医療コーディネーターの制度もできましたから、そういうところと連携しながら運ぶことになるでしょうね。

平田 先ほど宮嵜さんがお話しになられた約10か所の拠点というのは、ここで一時的なトリアージが行われるという理解でよろしいでしょうか。

宮嵜 全部が全部というわけではありませんが、たとえば自衛隊には、大型ヘリで簡単な分院、救急機能を一緒に持ってきていただいて、そこで展開していただければありがたいと思っています。

大江 重症度の判断をして運ぶのが基本ですが、消防だけではなかなか判断できない、また人手がいるという部分があります。災害現場に医師と看護師がペアで消防隊と行って活動してもらう東京DMATという制度がありますので、それを活用して、重症度に応じてタッグをつけるということを都民の方々に知らせていくことが大事だと思いますね。

東京都の防災訓練の様子

富田 いちばん難しいのは亡くなっている方です。重症の方は誰が見てもわかるので、みんな譲ると思うんですが、亡くなっている方に手をかけないというのがなかなか受け入れられない。もう一回心臓マッサージをして、人工呼吸をしたらどうかというのが今の医学ですからね。

大江 通常の消防隊の場合もまさしくそうです。黒タッグをつけるということ自体、ものすごく決断がいりますよね。

富田 手当てをしてくれなかったという恨みが残ってしまいますからね、ご家族に。「これ以上、手の施しようがありません」と言うのがいちばん大変らしいです。

 

防災には子供の頃からの教育が大事。災害時にやるべきことを身につける。

平田 大災害の時はトリアージが基本になると、世の中に認識してもらう必要があるでしょうね。

富田 それにはやはり教育です。災害の際には救護班、消防、自衛隊などが活躍しますが、実際には現場にいる市民が力を発揮するんです。

スタンドパイプ

スタンドパイプ

 日本赤十字社では市民や子どもたちへの教育が防災にはいちばん大事だと考え、防災の教育プログラムをつくって学校で教えるように動いているところです。その中に今のタッグの話も入れるといいですね。

大江 防災教育に関しては東京都も力を入れています。都立高校は1年に1回1泊2日でやっていますし、モデル推進校になっているところは、消防学校で消防職員が2泊3日のカリキュラムで救命措置も含めて訓練しています。やはり防災教育は小さい時からやらないといけないと思いますね。

平田 AEDも相当普及しているかと思いますが、使い方の講習もなさっていますよね。

大江 救命講習という形では、日赤さんも独自でやられていますけど、消防署と専門の協会と一緒に町会、自治会、商店街、あらゆるところで随時やっていますし、小学校高学年から学校の教育の中でもやっています。子どもたちのほうが、かえって手際がいいかもしれないですね。

富田 東日本大震災の時、岩手県で学校生徒の津波による被害が少なかったのは、学校での徹底した教育のおかげだそうですね。

 その地域にどんな資材、リソースがあるのかをよく知って、災害が起きた時にやるべきことをそれぞれが身につけて、消防の力も借りながら現場で助け合う。そういう教育を子ども時代からしていくと効果的ではないかなと思います。

スタンドパイプを使った防災訓練の様子

スタンドパイプを使った防災訓練の様子

大江 阪神淡路大震災の時に閉じ込められて、脱出できた人は、住民に助け出されたケースが圧倒的に多いんです。生存率は4日目からがぐんと下がるというデータがありますから、発災直後にいかに地域で自助共助ができるか。初期消火のほかにも救命に関する知識や技術を身につけることが大事だと思いますね。

平田 初期消火についてもかなり進んでいると理解しているんですが。

大江 東京では消火栓の耐震化が進んでいることと合わせて、システムで消火栓の使用可否が把握できるようになったので、消防隊や消防団が使うものとしてきましたが、震災時には消火栓を住民にも活用してもらい、いち早く消火してもらおうということで、スタンドパイプを町会、自治会に配り、それを活用して火を消す訓練を随時やっています。

 スタンドパイプは、器具を結合すれば水が出るので、専門的な技術はいりません。特に木造住宅密集地域の町会で訓練を本格的にやっているところです。

平田 スタンドパイプの配布は進んでいるのですか。

大江 東京都では、今年度から水道局でスタンドパイプを応急給水用に導入し、防災もからめて一緒にやろうということになりました。それから区市町村単位でも5年ぐらい前から予算をつけて町会に配っていて、すでに区市が約2500セット配布したと聞いています。

 

危機管理は、基本的にオペレーション。組織としてきちんと動くことが重要。

平田 都庁の仕事は実に広範多岐にわたります。危機管理に関しては局が違うからとは言っていられません。危機管理監として各局に横串を通すのは大変なご苦労だと思います。

宮嵜 危機管理は、基本的にオペレーションなんですね。被害状況に応じてどうしたらいいのかというシナリオをきちっとつくり、そのシナリオに基づいて情報を取り、そして修正していく。つまり被害想定に基づいて基本計画をつくり、それに応じてそれぞれの局が個別に動くわけですが、その動きが組織全体として状況に応じ柔軟に動いていくことが重要だと理解していただけるようになりました。

 ただ、今は計画ができ上がっただけで、やるべきことはいっぱいあります。まずは実践的な訓練。消防、警察、自衛隊の3つが集まった時に、如何に効率的に連携できるかという訓練をやりたいと思っているところです。

大江 訓練も、災害現場に近い訓練をやるようになってきました。計画どおりにいかないのは当たり前という認識がありますから、その中でどう動かしていくか、現場でどう判断するかという部分では消防、警察、自衛隊との連携は大事だと思います。今、自衛隊と実働に向けて訓練をやっていこうと相談しているところです。

宮嵜 現場の情報は消防の皆さんがいちばん持っておられるので、まずその情報をいただいて共有する。そこが第一段階ということで今は進めています。

大江 消防はとにかく大きな地震があったらまずヘリを2機飛ばして状況を把握する。これが最初の情報収集です。それから震源や地震の規模がわかれば、どの地域でどれくらいの被害が出るかというのはだいたい予測ができます。

 また、都内を網羅している消防団員と消防職員から情報が常に入ってくるようになっていて、消防職員や消防団員が撮った写真が地図に落とし込まれて被害状況がわかるようにもなっています。これらの情報が発災から1時間以内に来ればいいと思っています。自衛隊が応援に駆け付けるのはやっぱりタイムラグがあるので、それまでに正しい情報を収集して、消防と自衛隊でやるべきことを仕分けして具体的に動こうと計画しています。

富田 先ほど約10の公園に受け入れ拠点を整備すると言われましたが、そこに救護班が集まっていればいろんなことができます。今後はそれをマネージする部隊が必要になると思いますね。日赤は全国6ブロックに分かれているんですが、首都直下地震が起きたらどのブロックはどこに集合と前もって決めてあって、一日のうちに90の救護班を出せるようにしているんです。

 都の全体計画の中で、この公園には20班必要、この公園には15班必要というふうに前もって決めていただければ、それに合わせて日赤も日本DMATもみんなが協力してそこに行けると思います。

宮嵜 発災すると1000人ぐらいの都の職員が約10カ所の都立公園に向かいます。そしてここは住民の皆さんの待機する場所、ここはヘリポート、ここは救助コーナーというふうに仕分けをする。救助コーナーに日赤さんに入っていただければほんとにいいですね。

富田 デルーも全国に20ありますから、それを持っていけば診療ができます。日本DMATも組織的に動こうとしていますし、みんな一緒になってやったらいいと思いますね。

大江 日赤さんはすばらしいですね。そういう既存のものを取り入れていけば、本当に効率的な活動になると思います。

 

地域の絆づくり、日頃の訓練が被害を最小限にとどめる。

平田 最後に、都民に対しておっしゃりたいことがございましたら。

大江 大都市を襲った直下型地震という観点で阪神淡路の例を見ると、それまでに地域の連携がうまくいっていたところは被害が少なくてすんでいる。神戸の街のようにそういう状態になかったところは被害が大きかったのは事実なんですね。

 つまり災害が起きた時には自分一人では何もできないんですよ。10世帯、15世帯でちゃんと訓練をやって、そこの災害を最小限にとどめることが大事だと自覚してほしいですね。

 地域の絆づくりのためには、消防はいかなることでもやりますので、その中にうまく入れればいいと思っています。

富田 私たちは、東京都では防災ではなく減災のセミナーというのを東京都の赤十字支部が中心でやっているんですが、受講者の全体数では平成23年の2000名から、わずか2年で5600名に急増しています。

 また、地域で一般の市民を対象に行っている講習でも受講者が平成23年に650名だったのが25年には3700名になっています。本当に皆さんの意識が高くなってきています。

 減災セミナーでは救急法なども教えますので、消防がやってらっしゃる訓練と協力しながらやれば、すごく地域に密着したものになるのではないかと思います。消火も含め、自分たちが自分たちを助けるという意識を持っていただきたいですね。

宮嵜 東京都は、発災後72時間は人命救助に集中します。都民の皆さまには申し訳ないのですが、72時間は生き残った方たちに対するお手伝いはほとんどできません。生きるか死ぬかという方をいかに助けるかに72時間使いますので、都民の皆さんにはとにかく72時間は自分で生き延びていただきたい。

 そして、72時間たったら今度は被災者の方々を支援するほうにガラッと変わります。救助体制の組織を物資や医療品などの支援体制に変えますので、食料などの備蓄、家具の転倒防止など考えられる準備はすべてやってくださいとお願いしたいです。

平田 食料備蓄の話がでましたが、ペットのえさの備蓄も大事だという指摘を受けまして、なるほどと思ったんですが、東日本大震災の時もペットのえさを持って避難した人はあまりいなかったそうなんです。72時間たって、公助の支援の中にペットのえさがあるかというと、ない。ペットを飼っている人はペットに対しての災害対策を視野に入れて考えるべきなんでしょうね。

 今日のお話で認識を新たにしたんですが、日赤さんがお持ちになっているファンクションが孤立してしまっているのがもったいない。もっと有機的に結びつけて有効活用していただきたいですね。

富田 デルーなども我々が展開したらいろんな人が使えばいいんですよ。日本DMATがそこに来て一緒にやるとかですね、それでいいと思います。

宮嵜 今日は医療システムの話がうかがえてありがたかったです。今月8月30日に臨海部に拠点をつくって訓練をするのですが、その時に日赤の皆さんにも来ていただきます。海保の船が来て、海上自衛隊の船が来て、陸上自衛隊の救護施設、そして日赤の救護施設が来て、消防の皆さん、警察の皆さん、自衛隊のヘリに救急患者を運んでもらう。そういう訓練を何回もいろんなところでやらせていただきながら、拠点の中のどこに入っていただくかを今後一緒に考えさせていただければありがたいと思います。

 

 

 

 

タグ:首都直下地震 東京都 東京消防庁 日本赤十字社 地域防災計画 災害医療コーディネーター 東京DMAT スタンドパイプ

 

 

 

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