東京消防庁 警防部 副参事(警防担当)
消防司令長
川村 亮太郎

  • 取材:種藤 潤

 文字通り、仕事に自分の命を賭けることもある人たちがいる。一般の人にはなかなか知られることのない彼らの仕事内容や日々の研鑽・努力にスポットを当て、仕事への情熱を探るシリーズ。
  東京消防庁は、これまで全国各地で起こった大規模災害現場に派遣され、救難救助活動を行ってきたが、その最前線にいち早く駆けつけ、現地活動を取りまとめるのが、消防本部の「警防部」である。今年1月に起こった能登半島地震の現場責任者であった同部副参事に、警防の仕事と災害派遣時の活動について話を聞いた。

東京消防庁 装備部 航空隊 航空消防救助機動部隊 航空消防機動救助隊長

消防の基本の現場活動 各署の「警防」を統括支援

 「警防」とは、災害、火事、事故などが発生した際に現場に駆けつけ、消火や救急救助等を行うことだ。すなわち、東京消防庁の基本となる現場活動と言える。

 東京都内に配置されている81の消防署には、それぞれ「警防課」が配置され、各担当地域で活動を行っているが、都内全域のその活動をサポートするのが、本庁の「警防部」だ。

 同部は「警防課」「救助課」「特殊災害課」「総合指令室」「多摩指令室」に分かれ、それぞれの分野で東京全域の警防活動を支援している。

 そしてもうひとつ重要な任務が、大規模災害時における派遣部隊の編成および現地での指揮調整だ。そのため、大規模災害に備えた庁内全体の教育および組織編成、装備品の準備なども、同部が中心となって行っている。

 なお、部内全体の責任者は参事だが、主に消防総監との連絡調整が任務であり、実質的に現場の取りまとめと実務管理を行うのは、今回取材した川村亮太郎副参事である。

上:能登半島地震発災後、警防部が編成した庁内のスペシャリストたちが派遣隊としてヘリで現地に向かった。他:現地での活動の様子(文中写真すべて東京消防庁提供)

上:能登半島地震発災後、警防部が編成した庁内のスペシャリストたちが派遣隊としてヘリで現地に向かった。他:現地での活動の様子(文中写真すべて東京消防庁提供)

能登半島地震では 派遣隊より前に現地入り

 川村副参事は、平時は主に「警防課」を担当し、各署からの警防活動に関する相談に応じて支援を行うと共に、同課に所属する「警防係」「指揮係」「計画係」「警防対策係」「消防係」の5係の実務管理を行っている。

 また、国内で起こった大規模災害に対し、要請があれば出動する現場部隊の指揮管理をする役割も担うため、庁内で最も早く現地に駆けつける準備を常に求められる。

 「全国の大規模災害にも備える必要があるため、私を含めた警防部の責任者たちは、原則として24時間365日体制で待機しています」

 直近の象徴的な事例が、今年1月に起こった能登半島地震である。北陸地方の災害派遣には、主に中部、近畿方面の関連省庁が中心となって対応してきたが、今回の地震は規模の大きさから、東京消防庁にも派遣要請が出た。結果、1月2日に航空隊、エアハイパーレスキューが出動し、9日に庁内から選抜された救助隊、即応対処部隊、ハイパーレスキュー、救急隊が東京を出発、10日に現地入りして活動を行った。

 川村副参事は東京都大隊の大隊長として、捜索救助活動の要となる陸上部隊の投入を任され、車両47台と人員138名を率いて、被災地へ入り、捜索救助活動の指揮にあたったという。

上3枚:昨年11月25日から26日の24時間、同庁全職員が参加して『総合震災消防訓練』が行われた。長時間にわたる訓練の経験も、輪島での活動の支えになったと川村副参事はいう

上3枚:昨年11月25日から26日の24時間、同庁全職員が参加して『総合震災消防訓練』が行われた。長時間にわたる訓練の経験も、輪島での活動の支えになったと川村副参事はいう

ハードな訓練であるほど 過酷な災害派遣で活きる

 現地では、2月2日まで部隊が交代で活動を行い、延べ1202名の隊員と車両49台、航空機3台が東京消防庁から投入された。川村副参事も引き継ぎを経て、その2日後に正式に派遣活動が終了したという。

 同庁派遣部隊は、主に土砂災害の被害が大きかった輪島の渋田地区や寺山地区で救助活動を行ったが、想定以上に過酷だったと振り返る。

 「現地までの路面状態が想像以上に悪く、東京から石川までは1日弱、能登半島まではさらに8時間かかり、隊員たちは移動だけで疲労が蓄積したと思います。また、救助現場は徒歩でしか行けない場所が多く、その移動も疲労に追い討ちをかけました。それでも隊員たちは気持ちを切らすことなく、懸命に活動をしてくれました。派遣部隊の安全を確保するのも私の任務ですが、頭が下がる思いです」

 今回の能登半島地震の活動は、今後の同庁、そして東京全体へ大きな教訓を残したと、川村副参事は語る。

 「庁内にも東日本大震災の活動が未経験の隊員も増えてきました。そのなかで今回のような災害派遣に備えるためには、どうしても負荷の大きい訓練が必要になります。昨年11月には、24時間体制の『総合震災消防訓練』を行いましたが、そこでハードな経験ができたことが、能登半島の現場でも活きたと感じます。そして、今回の地震も含め、大規模地震の危険性を日常的に都民に発信し、備える気持ちを育むこと。東京でも必ず起きる。そのぐらいの気持ちを持つことが、都内全体の防災力を向上させると、私は信じています」

 ちなみに、前出の訓練の計画準備も「警防部」の仕事だ。災害現場でも、そのための訓練でも欠かせないその役割を、我々都民は改めて心に留めておくべきだろう。

東京消防庁 警防部 副参事(警防担当)消防司令長
川村 亮太郎

1975年埼玉県生まれ。大学卒業後、1997年入庁。世田谷署、練馬署ではしご隊や特別救助隊、板橋署では特別消火中隊を経験。2007年本庁警防部救助課に配属。その後野方署住宅防火対策担当係長や西東京市役所危機管理室出向を経て、2015年再び本庁警防部救助課にて安全管理係長に。以後同部警防対策係長、警防係長庶務担当となり、2020年光が丘署警防課長の後、2022年4月より現職。

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