東京消防庁 装備部 航空隊
航空消防救助機動部隊 航空消防機動救助隊長
安達忍(あだち しのぶ)

  • 取材:種藤 潤

 文字通り、仕事に自分の命を賭けることもある人たちがいる。一般の人にはなかなか知られることのない彼らの仕事内容や日々の研鑽・努力にスポットを当て、仕事への情熱を探るシリーズ。
 2016年、東京消防庁に「空の救助救急」の専門部隊である「航空消防救助機動部隊/エアハイパーレスキュー」が誕生した。発足から7年。同隊が実際にどのような活動をし、どのように都民の生活を守ってきたか。隊の中核的存在である航空消防機動救助隊長に話を聞いた。

東京消防庁 装備部 航空隊 航空消防救助機動部隊 航空消防機動救助隊長

国内唯一の空専門の救助機動部隊 大災害時等では県外にも派遣

 「航空消防救助機動部隊/エアハイパーレスキュー」は、消防ヘリを用いて消火や救助救急活動、情報収集等を行う「東京消防庁航空隊」内に2016年に創設された、特殊かつ困難な事故などの災害現場へ空から対応する国内唯一の救助機動部隊だ。

 拠点は江東区と立川市に置き、東京消防庁が所有する8機の航空機とともに、空中から消火できる専用装置等、航空隊独自の資器材等を備え、24時間365日体制で要請に備えている。

 伊豆大島や青ヶ島などの島しょを含む東京都内に限らず、大規模災害時等には県外から要請があれば対応する。というのも、消防ヘリは他地域では神奈川、大阪などの主要都市でも1~2機あればいいほうで、1部隊が複数機所有することは極めて珍しいからだ。

中型機「つばめ(AS365N3)」。機体中央部に設置されたホイスト装備(写真下)により隊員を下降させ、現場で救助活動を行い、必要であれば傷病者を機体まで引き上げ搬送する

中型機「つばめ(AS365N3)」。機体中央部に設置されたホイスト装備(写真下)により隊員を下降させ、現場で救助活動を行い、必要であれば傷病者を機体まで引き上げ搬送する

庁内最大規模の大型機「こうのとり(EC225LP)」。島しょからの傷病者搬送業務は主に大型機が担うが、中型機大型機ともに、山岳救助、水難救助、火災対応、島しょからの救急搬送のいずれにも対応は可能。それぞれの状況に応じて中型機と大型機を使い分ける(提供:東京消防庁)

庁内最大規模の大型機「こうのとり(EC225LP)」。島しょからの傷病者搬送業務は主に大型機が担うが、中型機大型機ともに、山岳救助、水難救助、火災対応、島しょからの救急搬送のいずれにも対応は可能。それぞれの状況に応じて中型機と大型機を使い分ける(提供:東京消防庁)

閉所かつ最小限の道具と時間で 高度な救急活動を行う

 2023年10月現在、隊には44名が在籍。高度な専門知識を持つ精鋭たちが配置されており、特別救助の資格(特別救助研修修了者)を持つ救助隊員と救急救命士の資格を持つ救急隊員で構成されている。

 いずれも消防署やハイパーレスキュー隊等で経験を積んだ隊員が選抜されている。

 今回取材した安達忍隊長は、救助隊としてのキャリアは20年を超え、現在の空の救助活動においても6年の経験を持つ、隊を代表する存在の一人だ。

 「この隊では、通常の救助隊の能力に加え、空の救助隊ならではの要素が求められます。地上とは異なり、ヘリ内は小型であれば4名程度座れば満員となる閉所です。フライト中のヘリは不安定で、エンジン等の騒音で声もほとんど聞こえません。さらに飛行可能時間にも限りがあります。ホバリング(空中で停止する状態)性能を有効に活かすため、資器材は最低限しか搭載しません。フライト時間も積載燃料によりますが、帰還まで含めて2時間前後と限られます。すなわち、極めて限定された環境下で救助活動や救急活動をしなければなりません。無駄を省き、迅速かつ安全な作業が求められる極めてプレッシャーの高い活動だと思います」

隊員の訓練の様子。安達隊長のこれまでの経験や情報収集をふまえ訓練内容を決める。上写真の右手前が安達隊長だ(提供:東京消防庁)

隊員の訓練の様子。安達隊長のこれまでの経験や情報収集をふまえ訓練内容を決める。上写真の右手前が安達隊長だ(提供:東京消防庁)

“なぜこうなっているのか”を想定外の事態でも冷静に判断

 活動は①高層ビル等の火災などの情報収集および救助活動②山岳地域における陸部からのアプローチが困難な場合等の救助活動③河川や湾岸地域で陸上部隊や船舶だけでは困難な水難事故の救助活動④島しょ地域から都市部への傷病者の搬送、に分けられる。昨年の出場件数306件のうち、その多くは④の199件だという。

 出場時は、航空隊に所属する操縦士が2名、機体整備を担当する整備士が最低1名、エアハイパー隊員2名以上(うち救急救命士1名以上)がヘリに乗り出場する。また、機体の種別や要請内容に応じて増員もするという。

 「基本的に、現地での救助活動内容は我々が判断・指揮します。出場前に計画を立てても、現場に着くと想定外のことが多く、臨機応変に計画を変更・決定しなければなりません。さらにその判断には、フライトやホイスト作業の要素も含まれるので、操縦士や整備士とも相談しながら迅速に判断し活動しています。そういった判断には、機体性能や機械操作の知識、救助活動全体を見渡す視野の広さも必要です」

 安達隊長は隊長として、現場活動もしながら、隊の訓練計画の作成も行っていて、人材育成にも力を入れたいと意気込む。

 「幸い、エアハイパーへの出場要請は決して多くありません。一方で経験不足は課題の一つです。そのためにも日頃の訓練が重要で、特に想定外の事態でも“なぜこうなっているのか”を冷静に判断することが大切です。私のこれまでの現場経験などを伝えることで、あらゆる現場でも対応できる人材を育成していきたいと思います」

江東区の基地には、救助車、ポンプ車および救急車がそれぞれ1台ずつ待機し、地域近隣の地上の災害現場にも出場するという

江東区の基地には、救助車、ポンプ車および救急車がそれぞれ1台ずつ待機し、地域近隣の地上の災害現場にも出場するという

東京消防庁 装備部 航空隊 航空消防救助機動部隊 航空消防機動救助隊長 安達忍(あだち しのぶ)

1974年4月北海道生まれ。高校卒業後、航空機整備の専門学校を経て、1995年東京消防庁入庁。消防学校卒業後、板橋署で特別救助隊員として活動を開始、2001年第二消防方面本部では消防救助機動部隊(ハイパーレスキュー隊)に所属、2004年青梅署では山岳救助隊も兼務した。2006年第八消防方面本部で再度ハイパーレスキュー隊に勤務し、2008年世田谷署で特別救助隊長となる。2013年府中署で発足する特別救助隊の初代隊長となり、4年の勤務を経て2017年より現職。

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