都市基盤育成、都市観光、そして産業育成まで
東京の国際競争力を牽引する「広域渋谷圏」へ
東急不動産株式会社
東急グループは、渋谷を中核とした半径2.5㎞のエリアを対象に、「働く・暮らす・遊ぶの融合」と「デジタル・サステナブルな取り組み」によるまちづくりの実現を目指す「広域渋谷圏戦略」を推進してきた。グループの一角を担う東急不動産ホールディングスは、「都市基盤育成」「都市観光」「産業育成」の3要素を軸とした次の5年間での戦略を発表。特に「産業育成」には、渋谷を拠点とする同社だからこそできる、国際的な産業価値を高める新しい挑戦が凝縮していた。そのプロジェクトを担う中核人物2名に話を聞いた。

東急不動産株式会社都市事業ユニット渋谷事業本部タウンマネジメント部広域渋谷圏戦略グループ神川裕貴グループリーダー(右)と、スタートアップ共創グループ小泉雅昭グループリーダー。撮影は東急不動産本社である「渋谷ソラスタ」の屋上テラスにて、「渋谷フクラス」「渋谷サクラステージ」をバックに
渋谷型都市ライフの提案 「広域渋谷圏戦略」をさらに加速
東急不動産ホールディングスは今年5月9日に「中期経営計画2030」を発表した。そこに記されている3つの重点テーマのひとつに、「広域渋谷圏戦略の推進」が掲げられている。
「広域渋谷圏」については、本紙198号(2024年6月20号)同社記事においても触れているが、改めて今日までの流れをおさらいしておこう。
同社を含む東急グループは、渋谷駅から2.5㎞圏内を「広域渋谷圏(Greater SHIBUYA)」と定義。そのなかには、渋谷を含む、表参道、青山、恵比寿、広尾、代官山、原宿、代々木など、個性豊かな特性を持つエリアが点在。その魅力をさらに高めて持続的に成長させる活動を「広域渋谷圏構想」と位置付け、これからの社会に即した「働く」「遊ぶ」「暮らす」の3要素に加え、「サステナブル」「デジタル」を融合させた「渋谷型都市ライフの提案」を行ってきた。
こうしたグループとしての取り組みをさらに推進すべく、同ホールディングスは前出の中期経営計画の中で「GXビジネスモデルの確立」「グローカルビジネスの拡大」とともに、これまで取り組んできた「広域渋谷圏戦略」のさらなる強化を打ち出し、施設の開発だけでなく、そこに集いにぎわうための複数の取り組みを行うことでエリア内の優位性を高め、未来価値の創出と利益の安定性の拡大を目指すという。

「広域渋谷圏=Greater SHIBUYA」のエリアイメージ(提供:東急不動産)
「都市基盤育成」「都市観光」とともに 渋谷らしい「産業育成」に着手
東急不動産株式会社都市事業ユニット渋谷事業本部タウンマネジメント部広域渋谷圏戦略グループの神川裕貴グループリーダーは、これからの「広域渋谷圏戦略」について次のように語る。
「キャッチコピーは『東京の国際競争力を牽引する街へ』。これまでのまちづくり戦略で培ってきた経験を活かしながら、2030年を見据え、3つの要素を中心に展開していきます。ひとつは、社会環境に適した安全安心・快適なプラットフォームや脱炭素化の推進、働く人が活躍できる仕組みといった『都市基盤構築』です。次に、個性的なまちの回遊を促すコンテンツの創造やナイトタイムエコノミーの充実など『都市観光』を強化します。そして、スタートアップを育成するエコシステムの構築やワーカー向けレジデンスの開発などの『産業育成』に挑戦していきます」
「都市基盤構築」に関しては、近年は「渋谷サクラステージ」(2024年7月)「東急プラザ原宿『ハラカド』」(2024年4月)「代々木公園 BE STAGE」(2025年3月)などを開業するとともに、「広域渋谷圏」に該当する駅周辺の回遊性を、着実に向上させてきた。
「弊社の本業である不動産開発の特色を活かし、そのまちらしさを活かしながら環境に配慮し、クリエイティブな要素も盛り込んで、人や場所を“つなぐ”拠点づくりを行ってきました。並行して、インバウンドを中心に需要が高まっている東京のまちの特性を踏まえ、渋谷らしいエンタテインメント性の高い『都市観光』につながる環境整備も進めています」
一方で、同社の本業とは縁が薄そうな「産業育成」であるが、担当するタウンマネジメント部スタートアップ共創グループの小泉雅昭グループリーダーは、スタートアップがグローバルな規模で集積する仕組みをつくり、その勢いをまちのにぎわいとしていきたいと意気込む。
「弊社が手がける『産業育成』は大きく3つに分けられます。まず、スタートアップを目指す企業等への場所の提供。これは我々の本業である不動産事業の強みを活かし、企業の成長に合わせ、面積や機能性などを多様化して、成長段階に応じたオフィス提供を行います。二つ目は、成長支援。ベンチャーキャピタルと連携し、これまで500を超えるスタートアップを支援してきました。最後は、共創機会の提供。すでに北海道、福岡、愛知などの地方行政や大学などとともに、産官学連携の体制構築を後押ししています」

「代々木公園 BE STAGE」の外観(提供:東急不動産)
渋谷を通して地域事業が世界に羽ばたく ビジネスも観光も「まずは渋谷に」
特筆すべきは、海外の大学と連携して国際的な展開を見据えているスタートアップ支援の体制構築だ。
「今年1月、弊社が展開する施設の渋谷サクラステージ内に、ディープテック(AIやロボティクス、クライメートテックなど社会課題を解決する科学的発見や革新技術)に特化したスタートアップのグローバルなコミュニティ拠点を目指す『SAKURA DEEPTECH SHIBUYA』を開業しました。そこでは米マサチューセッツ工科大学(MIT)の教授との連携やアクセラレータープログラムの提供、国内外のさまざまなスタートアップや事業会社とのネットワークを構築するコミュニティの育成を行います。また、日本のスタートアップコミュニティのさらなる拡大と強化を目指し、海外の有名大学ともコラボレーションを行い、イノベーター支援やイノベーションとアントレプレナーシップの理解と実戦を後押しする『TECH-Tokyo』を展開。今年10月には渋谷サクラステージ内に東京の拠点を開設予定です」
これらを土台に、小泉さんは「広域渋谷圏」を活かした渋谷らしい創業の形を生み出していきたいと話す。
「目指すのは、日本各地の産官学連携のビジネスが、渋谷というまちを通して世界に羽ばたくスタートアップモデルの創造で、すでにいくつかの自治体と具体的な事業を進めています。ただ、その実現には単なる創業支援だけでなく、ビジネス&エンタテインメントを超えて、渋谷が世界からさらに注目される魅力を持つことが求められます。一方で、これまでの若者のまちという渋谷のイメージだけではなく、多様な年代とのタッチポイントがある、誰もが身近に感じられるまちづくりも行っていきます」
神川さんも、次なる「広域渋谷圏」の形の構築について熱く語る。
「渋谷で働く人たちが会社を超えてつながる地域特化型アプリ『MABLs(マブルス)』をリリースするなど、『広域渋谷圏』内のつながりの強化にも取り組んでいます。ビジネスでも観光でも、『まずは渋谷に』『とりあえず渋谷に』と言われるまちに育てること。それが結果として、東京、さらに日本の競争力の強化につながると、我々は信じています」

今年1月23日に「渋谷サクラステージ」に開業した「SAKURA DEEPTECH SHIBUYA」オープニングイベントの様子(提供:東急不動産)