海上幕僚監部 総務部総務課
広報室 2等海佐 泉 敦
文字通り、仕事に自分の命を賭ける人たちがいる。一般の人にはなかなか知られることのない彼らの仕事内容や日々の研鑽・努力にスポットを当て、仕事への情熱を探るシリーズ。
今回取材した海上幕僚監部広報室の泉敦2佐は、海上自衛隊の主な任務のひとつである、護衛艦の「主砲」や「ミサイル」といった武器担当として海上で経験を積み、前職では最新型の護衛艦艦長を務めた人物だ。現場での実際の任務とともに、今日の広報業務についても話を聞いた。

海上幕僚監部 総務部総務課 広報室 2等海佐 泉 敦
前職は護衛艦の艦長 国家元首と直接対応も
現在、我々のような国内メディアに加え、海外メディアの取材対応も行う、海上幕僚監部広報室の泉敦2等海佐。他にも、海上幕僚監部のSNS、ホームページによる情報発信、ドラマ等の撮影協力も担当。今年8月15日に公開予定の、実際の駆逐艦をモデルにした映画「YUKIKAZE雪風」の撮影サポートも同広報室が行った。実は泉2佐自身、海上任務を主として活動してきており、前職では護衛艦の指揮を執る艦長であった。
「艦長は自身の護衛艦に与えられた任務を達成するために全乗組員を指揮統率するのが仕事です。護衛艦には砲術、航海、通信、電子整備などスペシャリストが揃っています。彼ら一人ひとりの能力と適性を理解し、正確に任務を果たすのはもちろん、全員無事に帰還させるのも艦長の役割。任務は2、3ヶ月にわたる場合もあるため、適度な緊張感を持ちつつも、艦上でイベントを企画し気分転換したり、休息をしっかり取らせたりと、メリハリを持たせることを意識していました」
乗艦する隊員たちの命を預かる責任のほかにも、艦長にはさまざまな重責があったと、泉2佐は振り返る。
「警戒監視や海外の艦艇と合同訓練などを行う場合、当然ながら護衛艦の活動の責任は艦長である私にあります。一つの間違いが安全保障問題に発展する可能性もあり、その緊張感は計り知れません。一方で、来日した他国の国家元首が艦を視察した際には直接対応することもありました。その体験は貴重だったと思います」


前職の護衛艦「くまの」の岸壁前(上)と艦長席に座る泉2佐(提供:海上自衛隊)
2代目艦長として最新護衛艦に乗艦 武器を扱う際は冷静さが重要
泉2佐が艦長を務めた護衛艦は、2022年3月にデビューした最新型「くまの」。これまでの護衛艦とはコンセプトが大きく異なると語る。
「従来の護衛艦との最大の違いは、機械化により少人数化を実現していること。同規模の艦艇の2/3の人員で運用できます。また、レーダーで捉えにくい構造など、これからはこのタイプが護衛艦の主流になります。私は2代目艦長でしたが、これまでの仕様と異なるため、初めは戸惑いました。しかし、就役時から乗艦している隊員たちのサポートのおかげで、短期間で慣れることができました」
艦長になるまで、泉2佐は主に護衛艦や練習艦で「主砲」や「ミサイル」といった武器を扱う戦闘の中枢を担う部署に所属してきた。幸いにも実際の戦闘状態で武器を使用する状況になることはなかったが、常に艦内で武器を操作する訓練を行っていたという。
「目標に対して正確に撃つ。シンプルですが、そのために日頃から訓練や研究を重ねていました。経験や年齢を重ね、階級も上がり、多くの部下を指揮監督する立場になりましたが、部下たちに意識させていたのは、冷静であること。実際に武器を扱う際は様々なイレギュラーな状況が想定されます。そんなときでも訓練のとおり冷静であることが、目標に対して正確に撃つ、シンプルな行為を可能にするのです」


艦艇勤務時代の泉2佐。2015年、ソマリア沖アデン湾で海賊対処行動に従事していた艦内にて (提供:海上自衛隊)
艦内ではチームワークが大事 今は海自の魅力を広く伝えたい
艦長として、そして武器を操作する現場として、海上任務での思い出深いエピソードを尋ねると、泉2佐はしばらく考えた後、次のように答えた。
「たくさんあって迷います……。私はこれまで12隻に乗艦し、30カ国を巡ることができました。例えば、北極海で見たオーロラの美しさや、発見した漂流者を救助した際の達成感など、思い出深い体験は数多くあります。一方で、ソマリア沖アデン湾での海賊対処、他国の艦艇に対する警戒監視といった緊張感ある任務の思い出も少なくありません」
広報として接する現在の泉2佐からは、常に戦闘の最前線に臨んでいた雰囲気はなく、むしろ柔和で、ましてやそうした現場を束ねる艦長という立場にいたとは想像できない。
「もっと体育会系?な雰囲気だと思いましたか? そういうタイプの艦長もいますが、私はそうではなく、隊員たちの意見を聞いて、みんなで取り組み、課題を解決していくスタイルでした。『くまの』の乗員は約90名。彼らの長所を見極め、能力を発揮できてこそ、正確かつ迅速な任務が達成できます。艦長一人では何もできません。チームワークを大事に艦内をまとめることを意識していました」
今後は、広報として海上自衛隊の仕事の魅力を広く知ってもらうために、インターネットの活用や、護衛艦の一般公開など広報イベントにも力を入れたいという。
「広く現場を知る機会を増やすことで、海自の活動への理解を促進するのはもちろん、優秀な人材獲得にもつながると考えます。そのため、今は広報業務に全力で取り組んでいますが……。いずれは海上に戻り、『くまの』よりも大型の護衛艦で艦長を務めてみたいですね」

海上幕僚監部広報として、外国人記者に対応する様子(提供:海上自衛隊) (提供:海上自衛隊)
海上幕僚監部 総務部総務課
広報室 2等海佐 泉 敦
1979年茨城県古河市生まれ。東京水産大学(現東京海洋大学)卒業後、2002年幹部候補生学校に入校。翌年佐世保基地で護衛艦「さわぎり」砲術士に配置。その後護衛艦通信士、応急士を経て、訓練支援艦「てんりゅう」航空標的士、幹部候補生学校教官、護衛艦「しまかぜ」砲術長、練習艦「せとゆき」砲雷長兼副長、護衛艦「すずなみ」砲雷長兼副長、護衛艦「はたかぜ」砲雷長兼副長、海上幕僚監部教育課、練習艦「かしま」副長、護衛艦「おおよど」艦長、護衛艦「くまの」艦長を歴任。2024年より現職。冒頭写真の泉2佐の右側が映画「YUKIKAZE 雪風」のポスターだ。
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