東京都議会議長として
「公平公正と円滑」を目指す

  • インタビュー:津久井 美智江  撮影:宮田 知明

東京都議会議長 増子 博樹さん

1991年、バブルが崩壊、自治体の財政悪化により区民の生活に大きな影響が出ていた。「最少の経費で最大の効果を上げる行政」を目指し、区議会議員選挙に立候補。文京区議会議員、そして東京都議会議員へ。誰もが未来に希望を持ち、いきいきと暮らせる東京を実現するため、東京都議会議長として尽力している増子博樹さんにお話を伺った。

来訪者の対応や視察など、都議会議長は議会外での仕事も多い。

—“東京都議会の最大会派、都議会自民党が開いた政治資金パーティーをめぐる問題で、宇田川聡史議長が辞任したことを受けて、議長に就任されました。現在の心境をお聞かせください。

増子 「青天の霹靂」とはまさしくこのことです。一昨年10月に副議長に就任しまして、副議長を務めあげることを目指してきましたが、図らずも第52代東京都議会議長となりました。第2会派からの選出ではありますが、議長は公職選挙法上の存在であり、かつ東京都議会の多くの議員の投票により選出されましたので、その重責を痛感し身の引き締まる思いです。

 東京都議会議長は本会議の議会内の秩序維持や議事整理、議会の事務処理などに責任を負いますが、議会外での仕事も多くあります。全国議長会で地方自治全体の議論を進めたり、政府に対して行う要望活動に都議会で議決された意見書を議長会としても取り扱ってもらえるように主張することもあります。

 また、世界中から来訪される皆様の対応も重要です。ソウル特別市議会や北京市人民代表大会、ロサンゼルス市議会、ベルリン市議会、ウランバートル市議会、カタール地方自治中央評議会など、東京都を調査し、また友好交流を進めるための来訪も相次いでいます。

 先日開催された「SusHi Tech Tokyo 2025」はスタートアップやイノベーションを東京から発信しようとする国際的イベントですが、外国人のお客様が多く、英語でのスピーチも求められます。今は造語もたくさんありますので、おかしなイントネーションだと「この人わかってないんじゃないか」と思われてしまいますから、しっかり練習しないといけない。そういう準備も結構大変です。

 それに視察などの出張も多いです。実は大阪・関西万博の開会式にも行ってきました。日帰りでね(笑)。

—都議会に対し、都民から厳しい目が向けられています。信頼回復のためにまずすべきことは?

増子 すでに「政治倫理条例検討委員会」が設置され、再発防止に向けた議論が始まっています。都議会には、国会で行われているような「政治倫理審査会」などを行うための根拠となる条例がありませんので、まずは条例により様々な規定や基準を設けようということだと理解しています。すでに専門家の先生や当該の都議会自民党さんの責任者だった方にお話を伺ったりもしていますが、すべての会派が都議会の自浄能力を示すために真摯に取り組む必要があると思います。

 議長としてはこの委員会に所属しませんが、あらゆる機会を使って都議会での議論を都民の皆様にお伝えし、ご理解をいただけるよう取り組みたいと思っています。この委員会は理事会にあたる打合会では段取りを話し合い、公開されている委員会で各会派間の議論を行うこととされていると聞いていますので、都民の皆様にはインターネット中継などでぜひ委員会の様子を見ていただきたいと思います。

SusHi Tech Tokyo2025 レセプションにおける、ホストシティを代表しての挨拶(英語でスピーチ)

SusHi Tech Tokyo2025 レセプションにおける、ホストシティを代表しての挨拶(英語でスピーチ)

栃木県宇都宮で開催された第280回関東甲信越1都9県議会議長会の視察の様子

栃木県宇都宮で開催された第280回関東甲信越1都9県議会議長会の視察の様子

国に先駆け「カスハラ条例」を施行。病院に対する緊急的支援を行う。

—4月から「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」が施行されています。条例の内容や、都議会での議論について教えていただけますか。

増子 顧客による暴言や長時間の電話など、都内企業等において、カスタマー・ハラスメントが深刻化しています。カスタマー・ハラスメントは、働く人の人格や尊厳を侵害するばかりでなく、消費生活や事業者の事業継続にも関わる重大な問題です。社会全体でその防止を図り、カスタマー・ハラスメントのない公正で持続可能な社会の実現を目指すため、条例を制定しました。

 実は、カスハラが「悪質クレーム」と呼ばれていた平成30年ごろから、都議会でも問題点が提起されるなど議論が進められてきました。東京都としては都内中小企業にアンケート調査を行い、特に要望の多かった「相談窓口の設置」や「専門家の派遣」「セミナーの開催」などにより現場に寄り添った対応をとってきましたが、広く都民に啓発すべきとの議論から条例を制定しました。小池知事の条例制定発言を受けて多くの自治体や政府でも条例や法案の検討がなされているようですので、東京での議論が全国に展開されると良いのではないかと思います。

—民間病院が赤字に陥るなど地域医療が危機に瀕しているとの報道がなされていますが、都議会での議論や予算措置はどうなりましたか。

増子 東京都病院協会によると、2023年は東京都内の病院の5割以上が赤字に転落したとのことですし、2024年は決算が出ていませんが、さらに悪化していることは確実です。COVID-19以降、患者数が回復せず、人件費や診療材料費等の高騰、経済環境の変化などがその要因のようですが、このままでは多くの病院が立ち行かなくなり、東京の地域医療が崩壊するおそれがある、切迫した状況であるとの認識が示されています。

 都議会においても各会派が状況を把握し、知事に対して緊急的な支援が必要であるという要望が出され、議論が行われました。東京都としては都民を支える地域医療を確保するために緊急的・臨時的支援を実施することとなりました。都内物価を考慮した支援や高齢者の入院、小児・産科・救急医療の受け入れなどを進める病院に対し、約321億円の予算を組みました。病院関係者からは感謝を表していただいていますが、基本的には診療報酬など政府において措置していただくべきものと認識しています。

—政治の現場ではSNSの活用が広がり、議会活動が様変わりしているように思います。ネット中心の情報へと急速に変化が進むなか、伝える側として何をどのように伝えていくべきとお考えですか。

増子 東京都議会の情報発信ということでは、本会議の代表質問や一般質問、予算特別委員会などについては以前から一部テレビ番組として放送されていますが、常任委員会などについては、都議会に来ていただき傍聴していただくしかありませんでした。現在はほとんどの公開されている委員会がインターネット中継されています。

 また、感染症対応のために、委員会については感染した議員がリモートで委員会に参加できる仕組みも整えてきました。さらに、ペーパーレス化としてタブレット端末の活用や、本会議や委員会にパソコンが持ち込めるようになるなど都議会のデジタル化が急速に進みました。

 それぞれの会派や議員がSNSを活用して議会での活動の様子、決定事項などを発信しているようですし、議長の公務についても都議会のホームページなどでご覧いただけるようになっています。

臨時会での議長就任挨拶

臨時会での議長就任挨拶

世界規模のスポーツイベントで、東京の魅力を世界にアピール。

—急速に進む人口減少・少子高齢化やデジタル化の進展、激甚化する風水害や、発生が危惧される首都直下地震など課題が山積しています。東京を持続的に発展させていくために、都民の代表として二元代表制の一翼を担う東京都議会が果たす役割とは?

増子 昨年発表された2023年の東京都の合計特殊出生率が「0・99」だったことは衝撃をもって受け止められました。ただ詳細に見てみると、結婚をしている女性が産む子供の数(有配偶出生率)は、東京都が全国平均を上回っており、また人口千人あたりの婚姻数は東京都が全国第1位です。未婚女性の人口流入により「0・99」となっていますが、地域特性に応じた取組が求められると思います。

 デジタル化については、COVID-19パンデミックによりその遅れが表面化しました。人手不足、担い手不足の対策としてもデジタル化が急がれます。

 「災害は忘れる前にやって来る」ように感じる昨今です。南海トラフによる宝永地震の49日後に富士山が噴火したことは歴史上の事実です。直下型地震のみならず噴火対策も急務です。

 また、気候変動による水害が世界を襲っています。東京都も河川の改修や調節池の拡大を急がなければなりません。埼玉県八潮市の下水道の事故を受けて東京都も緊急点検を行いましたが、下水道のみならず水道や道路などの維持管理にも万全を期さなければならないと痛感しています。これらの課題については各会派から提言がなされており、都民の命と財産、暮らしを守ることを最優先に議論を進める必要があると思います。

—9月に「東京2025世界陸上」、11月には「東京2025デフリンピック」という世界規模のスポーツイベントが開催されます。東京を世界にアピールする絶好のチャンスです。世界に誇る東京の魅力をどのように発信されますか。

増子 東京2020大会はCOVID-19を拡大させないために「無観客」となりましたが、来日した記者やマスコミ関係者が日本人の親切さや街の清潔感、食事の美味しさ、伝統と未来が共存する街並みなどを発信してくれましたし、一昨年のWBC(ワールドベースボールクラシック)や本年3月に行われたMLB開幕戦で訪れた選手やご家族、球団関係者、マスコミの皆さんが日本の様子を「アメージング」と発信してくれています。「東京2025世界陸上」や「東京2025デフリンピック」も東京を知っていただく絶好の機会ですね。東京都をあげてアピールしたいと思います。

—議長として都議会を運営するうえで大切にしていることは? 東京都に対する思いをお聞かせください。

増子 議長就任の挨拶でも申し上げましたが、「公平公正と円滑」を目指しています。当たり前のことですが、各会派に公平でなければなりません。その点、議会局は過去のありとあらゆる議会での出来事や取組を把握していますので、いかなる場合でも法や条例に沿い、かつ公平公正なアドバイスをいただいています。

 また、都庁は議会対応ばかりしていて良いわけではありませんので、一定の時間内で議員や会派の意見を出し合い、また答弁を求め結論を得ていく必要があります。その意味では「円滑」もまた重要なテーマであると思います。

 東京都は世界最大級の経済圏を持つ国家並みの財政規模を持つ自治体です。これまでも東京都の施策が全国に広がる事例は枚挙にいとまがありせんので、これからも日本を牽引し、世界をリードする自治体であってほしいと願っています。

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