警視庁 生活安全部 生活安全総務課
課長代理 犯罪情勢分析担当 警視
湯澤憲治(ゆざわ けんじ)

  • 取材:種藤 潤

 文字通り、仕事に自分の命を賭けることもある人たちがいる。一般の人にはなかなか知られることのない彼らの仕事内容や日々の研鑽・努力にスポットを当て、仕事への情熱を探るシリーズ。  昨年より、東京を含む全国各地で発生している凶悪な強盗事件。その温床のひとつとされているのが、SNSなどで実行犯を募集する『闇バイト』だ。警視庁は全国に先駆けて「#BAN闇バイト」をキャッチコピーに対策に本腰を入れている。その中心人物に話を聞いた。

警視庁 生活安全部 生活安全総務課 課長代理 犯罪情勢分析担当 警視

犯罪状況を分析し情報発信 現在は『闇バイト』対策に注力

 昨年から全国各地で凶悪な強盗事件が起こっている。「ルフィ」「キム」などと名乗り、指示役とされた4名がフィリピンから強制送還され、警視庁に逮捕されたことは記憶に新しいだろう。同時に、その実行犯がSNS上の「闇バイト」で募集されている実態も浮き彫りになってきた。一方、高齢者などをターゲットに行われてきた「オレオレ詐欺」「預貯金詐欺」「架空料金請求詐欺」などの『特殊詐欺』も、この「闇バイト」が温床となってきたとされ、前出の逮捕された指示役たちは、多数の特殊詐欺を行ってきたと言われている。

 今回取材した湯澤憲治警視が担う「犯罪情勢分析担当」は、その名の通り都内で起こる犯罪発生状況の分析に加え、警視庁各署への情報発信および犯罪防止対策、さらにはウェブサイトやメール、アプリ等を通した都民向けの情報発信を行っているが、昨年からは『闇バイト』に起因する強盗犯罪や特殊詐欺の抑止に、特に力を入れているという。

湯澤警視が監修に関わった、闇バイト防止啓発動画の一部(提供:警視庁)

容疑者の大半が10代20代 その世代の声を対策に反映

 湯澤警視は、特殊詐欺の容疑者の特徴を分析した結果を次のように語った。

 「容疑者は圧倒的に10代、20代が多く、その犯罪理由の6割を『遊興費欲しさ』が占め、気軽に利用できるSNSを通じて闇バイトにアクセスし、結果、凶悪事件に加担してしまう傾向にあることがわかりました」

 すでに多くのメディアでも取り上げられているが、闇バイトへはSNS上の求人サイトから「日払い即金」「高額報酬」などの言葉で巧みに勧誘。アプリのダウンロードなどを通して身分証明証を送信してしまい、凶悪犯罪に加担せざるを得ない状況を作られてしまうのだ。

 警視庁は、こうした30代未満の世代をターゲットとした『闇バイト』防止対策に、全国に先駆けていち早く乗り出した。

 具体的には、ターゲットとなりうる20代の大学生を中心としたボランティア団体と意見交換を実施。その世代の情報収集の中心であるSNSでの拡散しやすさを考慮し、「禁止」「STOP」という意味を持つ「BAN」を用いた「#BAN闇バイト」をキャッチコピーに、『闇バイト』の怖さを伝える動画を作成しYoutubeで配信。さらには若者が集まる渋谷スクランブル交差点で『#BAN闇バイト』キャンペーンを実施し、予防チラシを配布するなど直接防止を働きかける活動も行っている。 

闇バイト防止はチラシの配布でも啓蒙している(提供:警視庁)

闇バイト防止はチラシの配布でも啓蒙している(提供:警視庁)

幅広い年齢層に対して きめ細やかな防犯情報を提供

 一方で、強盗犯罪や特殊詐欺の被害者になりやすい高齢者へは、個別訪問を中心に戸締りの強化を呼びかけるなどの防犯活動を行っている。

 「特に高齢者のみなさまには、ネットなどによる情報発信での伝達には限界があり、地域や行政と連携した直接的な働きかけが必要です。みんなで地域を守る体制を、警視庁が率先して作っていきたいと思います」

 実は警視庁は、時代に先駆けて情報ツールを活用し情報発信を行ってきた。2008年には「メールけいしちょう」、2012年には「生活安全部Twitter」、2016年には「警視庁防犯アプリDigiPolice」の運用をスタート。2023年3月現在、「メールけいしちょう」は約31万件、「生活安全部Twitter」は約21万フォロワー、「DigiPolice」は約67万件ダウンロードを達成している。

 湯澤警視は、特に「DigiPolice」が今日の防犯対策ツールの中核として、さらに広がることを期待している。

 「DigiPoliceには、犯罪発生状況のマップや子供や女性の防犯対策機能もあり、特に痴漢対策機能は、実際に容疑者検挙につながった事例もあります」

 とはいえ、犯罪の形態や要因は日々変化し、情報技術も発達する。そうしたあらゆる状況を踏まえ、時代に適した対策をいち早く取り入れていきたいと、湯澤警視は力を込める。

 「首都東京から全国へ。その意気込みで犯罪情勢分析と発信を行っていきたいと思います」

湯澤警視が所属する生活安全総務課では、防犯アプリ「DigiPolice」の制作管理も行っている(提供:警視庁)

湯澤警視が所属する生活安全総務課では、防犯アプリ「DigiPolice」の制作管理も行っている(提供:警視庁)

渋谷で行われた闇バイト防止啓発イベントの様子(提供:警視庁)

渋谷で行われた闇バイト防止啓発イベントの様子(提供:警視庁)

警視庁 生活安全部 生活安全総務課 課長代理 犯罪情勢分析担当 警視

湯澤憲治 ゆざわ けんじ
1970年岩手県生まれ。1990年警視庁入庁、翌年浅草警察署に配属後、機動隊、高輪署、2011年には東京都青少年・治安対策本部(現在の都民安全推進本部)に勤務。主に生活安全部門を担当してきた。2018年台東区役所への派遣後、生活安全特別捜査隊を経て、2022年より現職。

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