航空自衛隊 宇宙作戦群 宇宙作戦隊長
2等空佐 恩田雄太(おんだ・ゆうた)

  • 取材:種藤 潤

 文字通り、仕事に自分の命を賭けることもある人たちがいる。一般の人にはなかなか知られることのない彼らの仕事内容や日々の研鑽・努力にスポットを当て、仕事への情熱を探るシリーズ。  2020年5月、自衛隊内に初となる宇宙領域の専門部隊が誕生した。取材時は3月からの本格運用に向け、組織は運用要領の最終的な確認試験を実施している最中であった。その創設期の準備段階から関わり、現在は宇宙作戦隊長として組織をまとめる立場にある人物に、話を聞くことができた。

航空自衛隊 宇宙作戦群 宇宙作戦隊長 2等空佐 恩田雄太

衛星なくして日常生活なし 宇宙空間の安全のために新編

  恩田雄太隊長が率いる宇宙作戦隊を指揮・監理する宇宙作戦群の任務は、要約すれば、宇宙空間の安定的な利用を確保することである。宇宙に飛来する人工衛星や「スペースデブリ」と呼ばれる宇宙ごみなどの情報を収集・分析することで宇宙におけるリスクを見越し、人工衛星の運用事業者などに情報を提供していくという。

 2022年に新編された部隊であり、「航空総隊」「航空支援集団」などの部隊に属さず、防衛大臣直下の組織として存在している。

 恩田隊長は、二つの要因が部隊発足の契機となったと振り返る。

 「ひとつは、社会において宇宙利用が不可欠になっていることです。我々が日々利用する放送や地図情報などは、宇宙空間の衛星がなくては成り立ちません。その一方で、宇宙空間の安定的な利用に対するリスクが増大していることがもう一つの要因です。通称『スペースデブリ』と呼ばれる衛星軌道上を周回する宇宙ごみが、衛星を傷つけ、通信等に障害を起こす可能性があります。また、宇宙空間の軍事利用が拡大し、対衛星攻撃兵器により、我々が使用する衛星が攻撃される可能性も考えられます。そうしたさまざまなリスクに対応するため2008年に宇宙基本法が成立し、約10年を経て部隊という形になりました」

宇宙作戦群のシンボルマーク。初の宇宙領域専門部隊である宇宙作戦隊が2020年に新編されたことを、20個の星で表現している(提供:文中すべて航空自衛隊)

宇宙作戦群のシンボルマーク。初の宇宙領域専門部隊である宇宙作戦隊が2020年に新編されたことを、20個の星で表現している(提供:文中すべて航空自衛隊)

2020年5月18日、宇宙作戦隊新編式での記念撮影。中央は河野防衛大臣(当時)

2020年5月18日、宇宙作戦隊新編式での記念撮影。中央は河野防衛大臣(当時)

国内外の情報を集約し分析 今年3月から本格運用開始

  取材した2023年2月現在、宇宙作戦群は、恩田隊長が率いる宇宙作戦隊と、宇宙作戦の指揮統制を担う「宇宙作戦指揮所運用隊」の2部隊で構成されている。

  宇宙作戦隊の任務は、まさに宇宙作戦群の目的である宇宙空間の安定的な利用を確保することであり、具体的には、「JAXA(宇宙航空研究開発機構)」や同盟国であるアメリカや同志国の宇宙部隊との間で情報共有を行い、それらを宇宙物体に関する情報処理を行うシステムで分析しリスクを予測、衛星運用を行う事業者へ情報提供し、リスク回避に寄与することである。

  「宇宙という空間は広く、また人工衛星は地球を数十分で周回しているので、できる限りさまざまな地域の国々と連携し情報収集することが大切です。そのため、常に迅速かつ正確な情報を共有できる円満な関係性を構築することも重要です」(恩田隊長)

  今年3月にはその本格運用が開始されるのだが、現在、システムを維持管理する「宇宙システム管理隊」と山口県で新たに「第2宇宙作戦隊」が新編予定で、宇宙作戦隊が「第1宇宙作戦隊」となり、4部隊編成となる予定だ(今年3月以降の部隊名称は仮称)。

  「第2宇宙作戦隊は、衛星に対する妨害状況を把握する装置を運用します。衛星に対する電磁波妨害などの状況を収集・分析することで、宇宙の安定利用につながっていくと思います」 

同部隊はさまざまな所属の自衛官が集まり編成されるが、宇宙の専門知識を高めるために、JAXA等への派遣も行っている

同部隊はさまざまな所属の自衛官が集まり編成されるが、宇宙の専門知識を高めるために、JAXA等への派遣も行っている

宇宙に関心ある多様な人材が集結 意見を出し合いやすい環境を

  宇宙作戦群に所属する隊員は2023年2月現在約100名。そのすべてが航空自衛隊員で、外部人材はおらず、部隊新編以前から宇宙を専門特技としてきた隊員は存在しない。

  しかし、恩田隊長の隊員たちへの信頼は厚い。

  「みな宇宙というテーマに強い関心を持ち、熱意と向上心は人一倍あります。もちろん、専門知識をつけるために委託教育やJAXA等の専門機関での研修も行っていますが、今やJAXA職員と同等に意見を交わせる隊員も少なくありません。むしろ私が教わることが多いです(苦笑)」

  遠慮がちに語る恩田隊長だが、自身は「宇宙監視推進室」に2016年に配置。5名しかいないチームの中で、これからの宇宙調査に必要な組織の体制・人員などを検討し、予算要求などをして土台を作った希少な存在だ。

  「配属の際は正直、最初はピンと来ませんでしたが、防衛省として過去にない新しい取組に参加できることにワクワクしました。そして数年後には宇宙に関して豊富な知識を持つ多くの隊員やシステムを前にして、感慨深かったです」

  隊をまとめる上で心掛けているのは「既存の概念を押し付けないこと」だと語る。

  「隊員はみな宇宙について知識を深めているので、私はそれぞれの隊員の特性を生かし、部隊全体の力を増強させることを心がけています。そのため、隊員が何でも意見を出せる環境を整えることが重要だと思っています」

  隊員を信じ、能力を引き出し、融合させる。ある意味、国内外の情報を収集・分析する同隊の任務とも共通している。いわば「つなぎ役」の重要性を、恩田隊長は誰よりも理解しているのかもしれない。

宇宙空間に存在する物体に関するデータ。上から3番目が衛星数、2番目が宇宙ごみ「スペースデブリ」。衛星以上にスペースデブリが増加しているのがわかる(出典:NASA  Orbital  Debris  Program  Office)

宇宙空間に存在する物体に関するデータ。上から3番目が衛星数、2番目が宇宙ごみ「スペースデブリ」。衛星以上にスペースデブリが増加しているのがわかる(出典:NASA Orbital Debris Program Office)

航空自衛隊 宇宙作戦群 宇宙作戦隊長 2等空佐

恩田雄太 おんだ ゆうた
1981年7月群馬県生まれ。高校卒業後、2000年防衛大学校入校。2004年三沢基地に配属、以後、警戒管制部隊を中心に任務にあたる。2015年より上級の指揮官及び幕僚の育成を目的とする「指揮幕僚課程」の履修を経て翌年、航空幕僚監部事業計画第2課宇宙領域班の前身となる「宇宙監視推進室」に配属。その後、統合幕僚監部、那覇基地第4移動警戒隊長を経て、2022年3月より現職。

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