防衛省 海上幕僚監部 総務部総務課
観艦式事務局 3等海佐 青野光志(あおの こうじ)

  • 取材:種藤 潤

 文字通り、仕事に自分の命を賭けることもある人たちがいる。一般の人にはなかなか知られることのない彼らの仕事内容や日々の研鑽・努力にスポットを当て、仕事への情熱を探るシリーズ。  昨年11月6日、海上自衛隊は「令和4年度国際観艦式」を開催した。「観艦式」は3年に1度行われるものだが、今回は海外からも注目される20年ぶりの「国際観艦式」に当たり、同時に海上自衛隊設立70周年の記念式典も行われた。ウィズコロナという難しい状況も含め、多様かつ複雑な状況をまとめ、観艦式を無事開催できた陰には、事務方のスペシャリストたちの活躍があった。その最前線にいた人物に話を聞いた。

防衛省 海上幕僚監部 総務部総務課 観艦式事務局 青野 光志3等海佐

陸空と交替で3年に1度実施 国際観艦式は20年ぶりの開催

 「観艦式」とは、海上自衛隊が3年に一度行う、自衛隊最高指揮官である内閣総理大臣が海上自衛隊の艦艇および航空機の現状を観閲(かんえつ)する行事だ。部隊や隊員の士気を高めると同時に、自衛隊の存在を国内外に示すことも目的に含まれる。開催時期は11月前後に行われることが多く、その前後に「フリートウイーク」と言われる音楽演奏会や広報イベント、パレード、艦艇の一般公開など神奈川、東京、千葉の湾岸を中心に行われる。

 3年に一度の理由は、間の2年は陸上・航空自衛隊が「観閲式」を行うためだ。どちらも内閣総理大臣が部隊の状況を観閲するのだが、海上自衛隊は観艦式となる。

 今年行われた「国際観艦式」は、1957年より行われてきた観艦式のなかでも、極めて特別な内容となった。まず、海上自衛隊創設70周年の節目であり、それにあわせて前身の海上警備隊が発足した日付の4月26日に記念式典を開催。そして、20年ぶり2度目となる国際観艦式に当たり、海外13カ国の艦艇および航空機、さらには陸空自衛隊・海上保安庁も参加する、多様かつ大規模な行事となった。

「国際観艦式」が行われた海上の様子(提供:海上自衛隊)

誰もが未経験の国際観艦式を『後方の先行性』で乗り切る

 この特別な式典全体の運営の中核を担ったのが、海上幕僚監部総務部総務課内に設置された「観艦式事務局」である。実施1年前の2021年4月から艦艇、航空、経理補給の専門幹部および海曹が集い、準備を進めてきた。その一人が、青野光志3等海佐だ。

 青野3佐は事務局唯一の経理補給幹部として着任。まず取り組んだのが「予算要求」で、すでに事務局長を中心に作成していた観艦式の計画をもとに、必要な費用を算出。市場調査や民間見積を行い、費用の根拠を示し、初めに海上自衛隊内、次に防衛省全体、最後に財務省に対しての説明資料を作成した。

 予算確保後は、他の事務局メンバーとともに、各艦艇・航空部隊や協力団体との調整を行ったが、広報や接遇(式典やイベント等での来場客のおもてなし)の計画と調整は、青野3佐が中心となり行った。広報や接遇に関してはほぼ初めての経験だったという。

 「事務局は、観艦式前に設置し、終わったら解散する期間限定のチームで、そこには経験者は原則いません。さらに3年前は台風の影響で中止になり、さらに今回は20年ぶりとなる国際観艦式。過去の経験者に相談しながら進めること自体、不可能でした。引き継ぎ資料を中心に手探りで進めましたが、我々後方支援を担当する経理補給は、誰よりも先を見据えて準備する『後方の先行性』が必要とされています。その考えを常に持ちながら、先々に何が必要かを予測し、形にしていきました。未経験の広報や接遇も、そうやってなんとか乗り切りました(笑)」

当日は海上でのブルーインパルスの飛行も行われた(提供:海上自衛隊)

当日は海上でのブルーインパルスの飛行も行われた(提供:海上自衛隊)

これまでの観艦式では、一般も含めて4万人規模が乗艦したが、今回新型コロナ対策として、「いずも」に国外来賓のみが乗艦。写真は自衛隊が大使や高官などを招く際に行われる「栄誉礼」が艦内で行われた様子(提供:海上自衛隊)

これまでの観艦式では、一般も含めて4万人規模が乗艦したが、今回新型コロナ対策として、「いずも」に国外来賓のみが乗艦。写真は自衛隊が大使や高官などを招く際に行われる「栄誉礼」が艦内で行われた様子(提供:海上自衛隊)

コロナ対策の制限もあるなか 自衛官の力を集結

 同事務局は、11月6日に行われた国際観艦式に加え、その前後に行われるフリートウイークの企画も担当。さらに、今回は前出の70周年式典の準備と運営にも関わり、11月7日8日に行われた「西太平洋海軍シンポジウム」事務局との連携も行った。また、新型コロナ対策も加わり、感染状況等に応じて内容や場所の変更・調整を余儀なくされた。その現場の判断の多くを、青野3佐が担った。

 「会場の確保から必要な備品発注、当日のスケジュール、招待者の決定、来場者への配布グッズの製作……全ては事務局が決定しなければ前に進みません。まさに決断の連続で、さらにコロナにより直前の変更対応が多く、難しい判断も多かったです」

 それでも国際観艦式および関連イベントが無事開催できたのは、外部の協力ももちろんありましたが、自衛隊という組織の力が大きかったと、青野3佐は言い切る。

 「全体予算に関しては、陸空含めた防衛省・自衛隊全体が観艦式を良いものにしたいと後押しをしてくれ、ほぼ要望通り確保できました。また、観艦式のライブ配信動画では、自衛官がプロ顔負けのナレーションを行い、観艦式の艦中では、自衛隊隊員のエイサーや阿波踊りサークルが演舞し、海外の来賓は大喜びでした。限られた時間と予算で自衛隊らしいパフォーマンスができたのは、仲間の存在があったからこそです」

 とはいえ、日々多忙なうえ、帰宅後も観艦式のことばかり考えた1年半だったと振り返る。無事終了し、開放感に浸っているかと思いきや、まだ気持ちは抜けきれていないと笑う。

 「動画のダイジェスト版や記録冊子などを作る業務が残っています……」

 強い責任感を持つこの「縁の下の力持ち」がいたからこそ、国際観艦式が何事もなく終わったことを、我々は記憶に留めておきたい。

「国際観艦式」を記念して製作された記念グッズの企画・デザインも、青野3佐が中心となって行った

「国際観艦式」を記念して製作された記念グッズの企画・デザインも、青野3佐が中心となって行った

防衛省 海上幕僚監部 総務部総務課 観艦式事務局 3等海佐

青野 光志 あおの こうじ
1975年静岡県生まれ。中央大学卒業後、商社勤務を経て、2002年海上自衛隊に入隊。2004年あさかぜに配属後、護衛艦隊司令部、補給本部、はつゆき、佐世保地方総監部経理課、海上幕僚監部情報課、第2潜水隊群司令部、第4術科学校など、経理・補給の職務を中心に担当し、2021年より現職(所属は取材当時)。

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