航空自衛隊 入間基地 警備犬管理班 
3等空曹 志賀敬祐(しが けいすけ)

  • 取材:種藤 潤

 文字通り、仕事に自分の命を賭けることもある人たちがいる。一般の人にはなかなか知られることのない彼らの仕事内容や日々の研鑽・努力にスポットを当て、仕事への情熱を探るシリーズ。  警備犬といえば警察を連想しがちだが、自衛隊にも存在する。なかでも近年力を入れるのが、航空自衛隊だ。今回取材した志賀敬祐3曹は、屈指のキャリアを持つ警備犬管理班の中心的存在。取材時に見せた担当犬との強い信頼関係からも、その蓄積された技術と経験が感じられた。

航空自衛隊 入間基地 警備犬管理班 3等空曹 志賀敬祐(しが けいすけ)

入間基地を中心に全国の基地や分屯基地に配置

 航空自衛隊における警備犬の役割は、「基地への不審者の侵入等に対する威嚇および警備」と「災害現場での捜索活動」の大きく二つである。今回取材した志賀敬祐3曹が所属する警備犬管理班は、その警備犬の育成、能力向上に関する研究、警備犬の運用および管理を行う専門部隊だ。

 警備犬は、全国の航空自衛隊主要基地および分屯基地に配置されており、志賀3曹がいる入間基地もその一つで、全国の警備犬とハンドラー(調教者)の育成および技術研究・サポートも行う中心的な存在だ。よって、所属する警備犬もハンドラーの人数も、他に比べて多い。

 現在、航空自衛隊の警備犬の犬種は「ジャーマンシェパード・ドッグ」「ベルジアン・シェパード・ドッグ・マリノア」「ラブラドールレトリバー」の3種が中心だ。専門のブリーダーが育成、警備犬管理班へと引き渡されるが、名前はその段階で決まっていることがほとんどだという。ちなみに、全ての警備犬には血統書がつく。

 現在の訓練は、2018年に空自が独自に作り上げた資格検定内容を軸に、ハンドラーとの基本的動作を習得する「服従」に加え、「人員捜索」「爆発探知」「警戒」と目的ごとの内容に分かれて行われる。

警備犬の訓練の一つ「警戒」において、不審者を想定した訓練。ジャスミン号は志賀3曹(上左)の指示で即座に駆け出し、対象に躊躇なく噛み付き、志賀3曹の指示まで離さなかった

基地を見張る「番犬」から警備、災害派遣も行う存在に

 航空自衛隊において、警備犬の運用管理が本格的に始まったのは、2009年頃からだ。それまでも「歩哨(ほしょう)犬」と呼ばれ、不審者等を威嚇する「番犬」の役割として基地や分屯基地に存在していたが、民間の警備犬訓練士の指導を仰ぎながら、徐々に「基地警備」の訓練体制が整えられていった。

 もう一つの役割である災害現場での捜索訓練が始まったのは、2011年。きっかけは「東日本大震災」での苦い経験だ。当時、自衛隊内では海上自衛隊の警備犬のみが災害現場での捜索を行っており、航空自衛隊の警備犬は捜索に参加できなかったのだ。

 以後、訓練を重ね、2018年7月に起きた「平成30年7月豪雨(西日本豪雨)」での災害派遣が最初の活動となった。また、同年9月「北海道胆振東部地震」、2019年10月「令和元年東日本台風(台風第19号)」、2021年7月「熱海市伊豆山土石流災害」などの現場に派遣されている。

災害現場での捜索活動。上が「北海道胆振東部地震」、中が「西日本豪雨」、下が「熱海市伊豆山土石流災害」。訓練のようにゴールがなく、犬にも人間にも過酷な活動だ(提供:航空自衛隊)

災害現場での活動に備え犬も人間も体力が必要

 志賀3曹が警備犬(当時は歩哨犬)担当に着任したのは、ちょうど警備犬訓練が本格的に始まった頃だ。そのため、訓練技術などは志賀3曹はじめ初期メンバー自らが外部の技術者から学び、航空自衛隊内の警備犬訓練体制が構築されていったという。現在は同班の中心的存在として、各基地の訓練指導や新たな技術研究も行っている。

 一方、自身もハンドラーとして日々訓練を行う。志賀3曹が受け持つ三代目にあたるジャスミン号は、志賀3曹のあらゆる動きに気を配り、指示が出ると迅速かつ的確に対応。「相棒」という名に相応しい信頼関係が構築されていることがわかる。

 「もともとは犬を甘やかすタイプでしたが、警備犬の訓練においては叱ることも大切であることがわかりました。一線を引いた服従関係があるからこそ、警備犬は私たちを信頼し、指示に従うのです。特に災害現場ではストレスと疲労が溜まり、犬も甘えたくなります。そういう時でも訓練通り活動できる関係性を構築することが重要です」

 近年の豪雨災害の多さから、災害派遣は増加することが予想される。そのために警備犬はもちろん、ハンドラーも常に基礎体力をつけることが重要だという。

 「人間も、疲労が溜まると指示や判断が曖昧になり、それは犬にも伝わります。我々人間こそ、過酷な状況下でも前向きな姿勢を保たなければなりません。そのために警備犬とともに日々体力作りに努めています」

 目下の目標は、最新訓練技術を学ぶため他国との共同訓練に参加すること、そして警備犬の競技会に参加し、トップを取ることだという。警備犬ハンドラーの先駆者の挑戦は、今後も続きそうだ。

災害派遣の要請の多さをふまえ、ヘリコプターに同乗し上空から現場に入る訓練も行う。写真は2022年に行われた埼玉県警との合同訓練(提供:航空自衛隊)

競技会を想定し、志賀3曹が15kgの荷物を背負い、ジャスミン号と走る訓練の様子(提供:航空自衛隊)

航空自衛隊 入間基地 警備犬管理班 3等空曹

志賀敬祐 しが けいすけ 
1989年5月大分県生まれ。高校卒業後、2008年に航空自衛隊に入隊。築城基地勤務2年目に「歩哨(ほしょう)犬(現在の警備犬)」担当になる。以後、2022年に現職として入間基地に着任するまで、築城基地で警備犬の運用および管理、育成に従事。国際救助犬連盟(IRO)認定試験にも合格。ともに写るのが担当犬のジャスミン号だ。

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